現場で日々感じている課題を生成AIで解決する――そんなテーマを掲げたビジネスアイデアソン「Lenovo AI InnovationChallenge」が、9月17日と30日の2日間にわたり開催されました。

参加したのは9社10チーム。IT系だけでなく、テレビ局や人材企業、NPO法人、歯科医療機器メーカーなどバラエティに富んだ企業が参加し、それぞれ個性を発揮したユニークなAI活用のアイデアを発表しました。審査員には、AI研究者として知られる今井翔太氏のほか、レノボ、インテル、NECパーソナルコンピュータ、TBSテレビ、東芝、SCREENホールディングス、マイナビから、キーパーソンが顔をそろえました。

多くの示唆が得られた「Lenovo AI InnovationChallenge」の模様を2回にわたりレポートします。

  • 審査員の方々の写真

    審査員のみなさま

エッジAIで現場課題を解決するアイデアソン

「Lenovo AI InnovationChallenge」は、レノボが主催するAI活用のアイデアソンです。

急速に普及が進む生成AIですが、製造ライン・店舗フロア・医療・介護・オフィスの「現場」では、まだ十分に生かしきれていないのが現状です。

その背景にあるのは、ユースケース不足と、企業のセキュリティ意識の高さ。これらの課題を乗り越えなければ、生成AIの現場活用は難しいでしょう。

そこでレノボが提案するのがエッジAIです。エッジ端末でAIを活用するならデータセキュリティも確保できるため、あとはアイデア次第というわけです。

そこで、レノボが提供するエッジサーバー「ThinkEdge SE100」を使用して、現場課題を解決するAIのアイデアを募る本イベントが開催されました。

アイデアソンのテーマは「あなたの職場で日々感じている現場課題を、AIで解決するアイデア」。アンケート調査で浮かび上がってきた「技術継承・部門間コミュニケーション・業務引継ぎ」という3つの現場課題をキーワードに、9社10チームが参加しました。

  • 「Lenovo AI InnovationChallenge」Day1のセミナー風景

    「Lenovo AI InnovationChallenge」Day1の様子

レノボが目指す「Smarter technology for all」とは

9月17日に開催されたオープニングセッションでは、審査員を務めたレノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ソリューションアーキテクト本部 本部長・早川哲郎氏が登壇。レノボの戦略である「Smarter technology for all」で、すべての人にスマートなテクノロジーを提供することを目指していると説明しました。

  • 人物画像_レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ソリューションアーキテクト本部 本部長 早川哲郎 氏

    レノボ・エンタープライズ・ソリューションズ ソリューションアーキテクト本部 本部長 早川哲郎 氏

また、早川氏はAIに対するレノボのビジョンとして「ハイブリッドAI」の重要性を強調しました。ハイブリッドAIとは、ChatGPTに代表されるパブリッククラウドのAI、企業内データを活用するエンタープライズAI、そして個人のパートナーとなるAIの三つの組み合わせを指しています。今回の「Lenovo AI InnovationChallenge」は、その中でもエンタープライズAIに焦点を当てたものとなります。

今回、共通機材として参加者に貸与されるエッジサーバー「ThinkEdge SE100」は、A4サイズのPCよりもコンパクトながら、内部にNPUと呼ばれるAI処理用のプロセッサを搭載しています。

早川氏によると、エッジAIは店舗や倉庫管理といった一般的な用途だけでなく、漁船でのマグロ漁のリアルタイム判定など、インターネット接続のない隔絶した環境でもAI処理に使われているとのこと。また、農業や市街地での活用例も紹介し、「現場でリアルタイムに処理が必要な課題に対して、エッジAIをどう活用できるか考えてほしい」と述べました。

インテルが掲げる4つのAI戦略と3つの課題

続いて、インテル株式会社 インダストリー事業本部 副本部長・糀原晃紀氏が登壇。インテルのAI戦略について講演を行いました。

  • 人物画像_インテル株式会社 インダストリー事業本部 副本部長 糀原晃紀 氏

    インテル株式会社 インダストリー事業本部 副本部長 糀原晃紀 氏

糀原氏によると、AIは突然現れたものではなく、統計・アナリティクス、機械学習、コンピュータビジョンと段階的に発展してきたといいます。

そして、2012年頃からGPUがAI処理に使われるようになり、演算能力が飛躍的に向上したことで適用領域が広がってきたのです。

現在、インテルは「いかにAIを汎用的にかつ身近に使ってもらえるか」を目指しており、そのためのAI戦略として「ベンダーロックインのないオープンな環境」「AI PCからエッジ、データセンターまで一気通貫で提供し、イノベーションを起こす」「現実的なコストと消費電力で効率性を上げる」「著作権や知的財産の保護も含めた信頼性とセキュリティ」の4つを掲げているとのこと。

また、糀原氏はエッジAIの課題として「ユースケースの断片化(現場ごとに最適化が必要)」「レガシーインフラとの統合の複雑さ」「ワークロードの統合(AIだけでなくシステム全体との連携)」の3点を挙げ、その上で「インテルはサーバーからPCまで様々な要件に合わせた半導体を提供しており、すべて同じx86アーキテクチャで統一されているため、スケールアップが容易である」と述べました。

アイデア創出の鍵を握るAI開発環境「OpenVINO」

続いて登壇したのは、インテル株式会社 インダストリー事業本部 シニア・ソリューション・アーキテクト・幸村裕子氏です。

  • 人物画像_インテル株式会社 インダストリー事業本部 シニア・ソリューション・アーキテクト 幸村裕子 氏

    インテル株式会社 インダストリー事業本部 シニア・ソリューション・アーキテクト 幸村裕子 氏

インテルは今回、AI開発環境として「OpenVINO」を提供しています。このツールは2019年頃に開発され、当初は画像処理に焦点を当てていましたが、現在では生成AIを含めた幅広いAIアプリケーションをサポートしていると幸村氏は話します。

また、OpenVINOはモデルの生成は行わず、既存のモデルを最適化して様々なプラットフォームで動作させることを目的としています。TensorFlow、PyTorch、HuggingFaceなど様々なフレームワークからモデルを取り込むことができ、中間表現(IR)に変換して最適化を行うとのことです。

幸村氏は「OpenVINOを使用することで、ビジネス課題解決のためのアイデア創出に役立つ」と述べ、講演を締めくくりました。

ユニークなアイデアが続々生まれたアイデアプレゼン

ここからは、9月30日に行われたアイデアプレゼンの模様をレポートします。審査員が見守る中、コンテストに参加した9社10チームが、2週間をかけて作り上げた「現場課題を解決する生成AIのアイデア」を発表。いずれも独自性あふれる内容となっており、審査員からの質問が飛び交うなど、盛り上がりを見せていました。

1.株式会社キャリアデザインセンター(チーム:Team type)

転職サイト「Type」を運営しているキャリアデザインセンターが抱える課題は、トップセールスの技術継承です。トップセールスと若手では商談の成約率が倍近い差があるという問題に対して、トップセールスのノウハウと過去の商談動画をAIに学習させ、リアルタイムでオンライン商談中にアドバイスを行うシステムを提案しました。いわば、「トップセールスを常に商談に同席させるシステム」です。商品データやFAQなどはRAGを使って連携しており、将来は顧客の表情を画像解析してアドバイスを送る仕組みも想定しているそうです。

また、本コンテストの共通機材としてレノボが提供したThinkEdge SE100を活用することで、社内ネットワーク内で処理を完結。秘匿性の高い情報も安全に扱える環境を実現しました。質疑応答では、商談中に人がテキスト情報をどこまで読み込めるのかといった課題が挙がっていました。

  • 人物画像_株式会社キャリアデザインセンターのプレゼンター

2. フォーティエンスコンサルティング株式会社(チーム:赤ポチ同好会)

※2025年10月1日より株式会社クニエからフォーティエンスコンサルティング株式会社に社名変更

フォーティエンスコンサルティングからは2チームが出場。そのうち赤ポチ同好会が焦点を当てたのは、食品業界が抱えるフードロス問題です。調理した日に売り切れず、余ってしまった商品は処分しないといけないのは食品小売業界ならではの問題であり、企業の利益率低下や資源の無駄遣いなどにつながります。大規模需要予測システムでは突発的な需要変動に弱く、それを優秀な「スーパー店長」がKKD(経験/勘/度胸)で対応しているのが実情です。

そこで同チームは、エッジAIを活用した「EdgeKKD」を提案。店舗前の人通りや属性、天気情報、在庫情報などをリアルタイムで分析することで、需要予測を補正するアイデアです。発表では、「ドーナツが売り切れ買えない」というユニークな設定で会場を盛り上げながら、カメラと画像認識AIを用いて、実際に映像に映る人物の性別や年齢を判別する様子も紹介しました。質疑応答では、KKD(経験/勘/度胸)をモデル化する方法について議論されました。

  • 人物画像_フォーティエンスコンサルティング株式会社のプレゼンター

3.NPO法人未来の担い手支援機構

未来の担い手支援機構が提案するのは、「専門学校が地域を救う 課題研究学校AI」です。農業・工業・商業高校といった専門高校の卒業生は就職率が高い一方、3年以内の離職率が大卒より約10%高いという課題があります。同機構は企業実習のサポートやコーディネートを通じて、専門高校の「課題研究」という授業を支援しているといいます。

今回、同組織は実際に学校現場への取材を行いニーズを調査。「学校経営などに関して困ったときにAIがアドバイスする」、「AIの提案により専門学科教育の質を向上させる」、「人材育成のための最適なチーム構成や配置案をアドバイスする」といった学校現場での課題を解決するAIを提案しました。また、エッジAIであれば120万円程度で導入でき、500人規模の学校なら1人あたり年額2,400円程度でコストが収まるとのこと。質疑応答では、今後のデータ収集方法などについて質問が出ていました。

  • 人物画像_NPO法人未来の担い手支援機構のプレゼンター

4.株式会社 TBSテレビ

TBSテレビは、「レノボ×TBSにしかできない 映像で切り拓く エッジ駆動汎用AIモデルソリューション」と題して発表を行いました。放送業界が抱える課題として同社が挙げるのが、カメラマンやアナウンサーといった職種における非言語的な技術の継承です。

具体的には、膨大な映像データからタレントの出演シーンを探し出したり、映っている人が誰なのかを間違えずに編集を行ったりする技術の育成が難しくなっているとのこと。そこで同社は、高品質な映像データとレノボのハードウェア、そしてAIを組み合わせて、映像から人物の顔や感情を認識するシステムを提案。テレビ業界だけでなく、将来的にはカウンセリングや人事評価など、様々な社会課題への対応も考えられるといいます。質疑応答では、映像の検索方法や将来の応用可能性(視覚障害者向けサービス、コミュニケーションツールなど)などの話題が出ていました。

  • 人物画像_株式会社 TBSテレビのプレゼンター

5.株式会社オプテージ

オプテージの発表テーマは「顧客理解を継承する次世代アパレル接客」です。アパレル業界はスタッフの離職率が高く、顧客の顔や購入履歴を把握しているスタッフは全体の約1割程度と言われています。

そこで同社は、AIを活用して顧客の骨格や服装、髪型などを画像解析し、過去の購入情報や店舗の在庫情報と連携、スタッフに顧客の好みや購入傾向を提示するシステムを提案しました。デモでは実際に画像から服装の色やカラータイプを判定するシステムを紹介。このシステムはエッジ端末で処理することで個人情報の安全性を担保し、高速な処理も可能になっているといいます。将来的には販売傾向の分析やディスプレイ作成への活用も考えられるほか、蓄積されたデータをもとに総合的な分析で戦略立案も可能とのことです。質疑応答では、顔認識の精度や販売員のナレッジの学習方法などについて質問が飛び交いました。

  • 人物画像_株式会社オプテージのプレゼンター

それぞれの企業が、自社の現場課題をもとにした具体的かつユニークなアイデアを披露した「Lenovo AI InnovationChallenge」。後半5チームの発表内容と、気になる優勝の行方は後編の記事で紹介します。

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