茨城県笠間市では、2020(令和2)年度および2023(令和5)年度からの2次にわたるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進計画に基づき、庁内業務デジタル化による業務効率化とデジタル人材育成の取り組みに力を入れてきた。

その取り組みの一つとして、要介護認定業務で生じていた情報入力・検索に伴う手間と時間の非効率という課題解決のため、ローコード開発プラットフォーム・Claris FileMaker(以下、FileMaker)を導入。職員を悩ませていた業務負荷の解消に成功している。

  • (写真)笠間市役所の様子

    (左から)笠間市 デジタル戦略課係長 井樋(いとい) さやか氏、高齢福祉課会計年度任用職員 布施 由香利氏、デジタル戦略課情報政策調整官 長谷川 尚一氏

スプレッドシートで生じた分散管理・重複入力の課題に悩む

要介護認定業務とは、介護保険制度に基づき、市民が常時介護を必要とする状態にあるか、またどの程度の状態であるかを判定する市区町村の業務である。具体的には、介護が必要な人からの申請を受け付け、調査員が行う心身状況の調査と主治医意見書に基づく確認を経て、介護認定審査会が判定し、市区町村が認定する流れになっている。

この一連の流れにおいて、認定業務に携わる自治体職員は申請者に関する情報入力や必要書類の確認、問い合わせ対応、医師や審査会とのやり取りなどさまざまな業務を担当する。申請数は年々増加の一途をたどり、自治体業務の中でも人的リソースを圧迫する大きな要素となっている。笠間市の場合、申請数は年間3,000件を超えている。

笠間市では当初、要介護認定業務における各作業の情報管理を、表計算ソフトのファイルを用いて行っていた。当時の課題について、高齢福祉課で業務に携わる布施由香利氏が次のように語る。

(写真)笠間市 高齢福祉課会計年度任用職員 布施 由香利氏

笠間市 高齢福祉課会計年度任用職員 布施 由香利氏

「申請の受付簿や調査予定表はスプレッドシートで管理し、それぞれが別のファイルになっていたため、同じデータを複数回入力する必要がありました。また、各ファイルが連携されていないのも課題でした」

「例えば調査日時を予約した際、調査予定表にその旨を入力するのですが、その情報は受付簿に反映されないので再度入力しなければならず、日時に変更があった場合は整合性が取れないという事態も起きていました。情報検索にもそれぞれのファイルを開かなければならないので、余計な時間を要し、作業にタイムラグが生じていました」(布施氏)

デジタル戦略課係長で、自治体システム標準化を中心とした情報システム部門としての業務、および各部署のDX推進支援・人材育成を担当する井樋(いとい)さやか氏は、2023年4月に現在の部署へ着任する以前は高齢福祉課で要介護認定業務を担当していた。

布施氏が話した課題を自ら実感しており、表計算ソフトでの作業は限界に達していたと明かす。

「各ファイルは情報検索や進捗管理のため担当者間で共有していたのですが、データが大きいので開くのに時間がかかったり、そのまま固まってしまったり……クラッシュもしばしば起きていました」(井樋氏)

FileMaker導入で利便性の高いシステムの開発に着手

非効率な作業に悩まされていたものの、現場ではその状況に慣れていたため、改善要望の声は特に上がっていなかった。「それが当たり前だと思っていましたし、不便に感じつつも解消する術はないと考えていました」と井樋氏。

そんな日々が続いていた2023年4月、井樋氏は前出の通りデジタル戦略課に異動する。この異動自体は「デジタルやITに詳しいわけではなかったのですが、DXなどの仕事に関わってみたいと思い希望を出しました」(井樋氏)とのこと。そして、新しい部署に着任して1カ月も経たない頃、同課で情報政策調整官を務める長谷川尚一氏から一つの情報がもたらされた。

「ClarisがFileMakerによる自治体業務効率化の実証実験を公募しているので、これを機会にFileMakerでシステムを開発し、要介護認定業務を改革してみてはどうかと提案したんです」(長谷川氏)

(写真)笠間市 デジタル戦略課情報政策調整官 長谷川 尚一氏

笠間市 デジタル戦略課情報政策調整官 長谷川 尚一氏

数々のITシステム導入を牽引し、「新しいものに敏感で、おもしろそうなものを見つけては役所内に紹介するのが役割の一つ」と語る長谷川氏。以前から個人的にFileMakerに関心を持っていた長谷川氏は、井樋氏に要介護認定業務についての困りごとを聞いた際、その提案を思いついたという。

ノーコード・ローコード開発ツールにはクラウド利用を前提とするものも存在するが、自治体業務は機微な個人情報を扱うことからインターネットに接続してない閉域網の環境が求められる。その点、FileMakerはオンプレミスでLGWAN系・マイナンバー利用事務系といった閉じた自治体ネットワークで使える点も強みで、選定に踏み出せる大きな根拠になったと長谷川氏は話す。

提案を受けた井樋氏は「FileMakerの名前はそのとき初めて聞きました。ただ、説明を聞くとできることの幅がとても広く、しかもそれほどプログラミングの知識がなくても開発できるとのことでしたので、現場で実際に体験してきた不便さを解消してくれるツールになるかもしれないと期待を抱いたことを覚えています」と振り返る。

解決したいポイントをClarisの担当者に相談し、同年5月から現場業務でテストを開始。Clarisの支援を受けながら井樋氏が手を動かして改良を加えるという実証実験がスタートした。井樋氏が長谷川氏の提案を聞いてから、1カ月も経たないスピード展開だった。

現場の声を反映したUIで、使いやすさを実現

「FileMakerはローコードとはいえ多少はコードの知識が必要なので、ITのことをほとんど知らない私にとって直感的にというのは難しい部分もありました。ただ、FileMakerは歴史が長いので解説のテキストなどが充実していますし、Clarisからも手厚い支援を受けられたので、苦労はしつつも取り組むことができました」(井樋氏)

同年7月頃までに改良が進み、秋には翌年度から本格運用していこうとの話になっていたと長谷川氏。実際に導入が決定し、年度内は細かな改良とテスト運用を継続しつつ、2024(令和6)年5月から本格運用に移行した。

FileMakerで開発したのは、要介護認定における申請受付から判定までの流れを一元管理できる業務システムだ。具体的には申請情報、認定調査予約、主治医意見書の依頼・受け取り状況と手数料支払情報、審査会日程調整などをフェーズごとに管理できるようになっている。

  • 介護認定受付管理システム トップメニュー

    介護認定受付管理システム トップメニュー

  • 介護認定受付画面

    介護認定受付画面

  • 介護認定調査予定表

    介護認定調査予定表

「審査会の日程調整は表計算ソフトでは行っていなかったのですが、心身状態の急変等に迅速対応できるよう、優先度を自動的に判断して日程を提案する機能も付けています」(井樋氏)

  • 審査会日程一覧 審査の優先度を自動的に判断する機能を備えている

    審査会日程一覧 審査の優先度を自動的に判断する機能を備えている

現在、当システムを使っているのは本所・支所合わせて23人。住民情報を扱う基幹系業務端末(PC)に導入されている。布施氏は、システム導入で改善された点を次のように話す。

「複数ファイルに分かれていたものが一つにまとめられたことで、入力が一度で済むようになり、作業がとても楽になりました。また、申請者の家族や担当ケアマネジャーから申請状況などの問い合わせを受けた際、基幹系システムとの連携で正確な情報をすぐに検索できるようになっています。」

「使いやすさの点では、従来のスプレッドシートは個人情報を横1行で管理していたためいちいちスクロールして確認しなければならなかったり、隣の行を見てしまったり手間がかかっていたのですが、新システムでは各個人の情報が1つのページにまとめられ、状況を一目で把握できるようになりました」(布施氏)

運用開始までの改良の多くは、業務をよく知る井樋氏が考え、実際に機能化してから現場職員に見せていった。ただ、「職員は従来のスプレッドシートに慣れていたせいか、当初は同じような見た目と使い心地を希望され、衝撃を受けました。やはり作業スタイルを変えるのは不安な面もあったのでしょう」と井樋氏。

そこで、新システムでは従来の操作がなくなってより簡単・便利になることを一つひとつ説明し、担当職員の不安を解消していった。現場側も「不安があればすぐに確認し、解消していきました」と布施氏が話すように、開発側とユーザー側が常に一体となって進めていったのが大きな成功要因といえそうだ。

  • 主治医意見書進捗管理画面 職員が一目で情報を把握できるようデザインを工夫

    主治医意見書進捗管理画面 職員が一目で情報を把握できるようデザインを工夫

業務改革に手応えを実感し、今後さらなる展開も視野に

肝心の業務改革の成果について、布施氏は「複数ファイルへの入力時間がなくなり、ボタン1つで同じ情報が反映されるようになったことで、1件あたり5分の時間短縮、年間で考えると約450時間の削減につながっています」と説明する。

そのほか、検索や情報共有がスムーズになり、担当者以外の人が問い合わせを受けても、FileMakerの画面を見ればその場で情報を確認することができるので、折り返し電話をかけるケースが減ったという。また、複数のスプレッドシートで情報の整合性が取れない時に調べる手間などの無駄が減ったことを考えると、効果はさらに大きいとのことだ。

現時点では要介護認定業務に限っての活用だが、「1つの業務システムだけでなく、他業務に展開できる点もFileMakerの強みと感じています」といい、今回のシステムを高齢福祉課の窓口業務でタブレット端末と合わせて活用することも現在構想中だと井樋氏。

(写真)笠間市 デジタル戦略課係長 井樋 さやか氏

笠間市 デジタル戦略課係長 井樋(いとい) さやか氏

また同課以外にも、イベント受付システムを作れないかとの要望を受け、デジタル戦略課で開発したケースもあるという。システムを調達するまでもない小さな業務課題や、新たなシステムの調達が難しかったり年度で要件が変わってしまう場合も、FileMakerがあれば自分たちで対応できる可能性がある。

一方、人材育成についてはまだこれからだが、庁内でFileMaker講習会を開催し、参加した職員から活用してみたいとの声も出ていると手応えを話す。

「庁内では自治体システムの標準化から漏れ、基幹系システムでは対応できない業務も多くあります。そうした業務では現在もスプレッドシートで管理しているケースがあるので、オンプレミスで使える点を活かし、高齢福祉課の事例をもとに他課へも展開していければと考えています」(井樋氏)

最後に、今後FileMaker導入を検討する自治体へ向けて井樋氏がアドバイスをくれた。 「業務のシステム化は、単に新しいシステムを作って仕事を当てはめる方法ではうまくいきません。現場と話し合い、共に業務を改革していこうという覚悟で臨めるなら、改良点を迅速に反映できるFileMakerは心強い選択肢となるでしょう」

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