AIの急速な進化により、ビジネスは大きく変わりつつあります。特に生成AIについては、これまでの「学習」中心から「推論」活用のフェーズに移行しつつあり、実務への適用が本格化し始めています。

そのなかで、セキュリティやレイテンシーなどの観点から注目されるのがローカル環境で動作するエッジAIです。今後はクラウドとエッジ、それぞれの特性を生かしたAI活用が期待されています。

今回は、業界をけん引するインテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長・糀原晃紀氏と、NECレノボジャパングループのNECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長 飯田陽一郎氏による対談を実施。両社が描くAI活用の未来について語り合いました。

  • (写真)インテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長 糀原晃紀氏、NECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長飯田陽一郎氏

    (左)インテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長 糀原晃紀氏
    (右)NECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長飯田陽一郎氏

インテルとレノボグループが目指す「誰でもどこでもAIを使える」世界

―近年のAI技術やAI活用のトレンドについて、どのようにご覧になっていますか。

糀原氏:インテルは「AI Everywhere」という戦略を掲げ、マーケット全体に対してAIの利用推進を行っています。AIには「学習」と「推論」の領域がありますが、これまでは主に学習に注目が集まっていました。しかし、学習が成熟し、新しいテクノロジーが出てくることで、いよいよAIを使う「推論」のフェーズに移行しつつあると見ています。

飯田氏:AIはこれまでのテクノロジーと違って、進歩の速さが段違いです。ChatGPTが登場したのは数年前ですが、すでに「使わないと駄目」と言われるレベルまで浸透しています。一方、RAGやAIエージェントといった技術に対しては、期待値は高いものの、まだ課題があります。特にオンプレサーバーやエッジクライアントでのAIがどんなことに使えるのかについては未知数で、お客様も試行錯誤の段階です。そこに答えを出していくことが、業界として求められていると思います。

―「AI Everywhere」について詳しく教えてください。

糀原氏:「あらゆる場所でAIを活用する」だけでなく、人も含めた概念です。つまり、「誰もが、どこでも、当たり前にAIを使える世界を目指す」というビジョンです。そんな世界の実現に向けて、インテルはハードとソフトの両面で事業を展開しています。ハードウェア面では、PC向けにCPUやGPUだけでなくNPUを提供し、サーバー向けににはCPUにAIアクセラレーターを搭載するなど、エッジからクラウドまで一気通貫でポートフォリオを提供しています。

ソフトウェア面では、特定のベンダーに限定せず、エッジからサーバーまで使えるオープンでスケーラブルなAI最適化ツールの「OpenVINO」を提供。エッジとクラウドで開発言語や環境が分断されると移行のたびに作り直しが必要ですが、OpenVINOは様々なプロセッサーの処理能力を最大限に引き出すことができるため、パフォーマンスを出しながらも投資を抑えることが可能なのです。

  • (写真)インテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長 糀原晃紀氏

    インテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長 糀原晃紀氏

―レノボグループとしての考えを聞かせてください。

飯田氏:糀原さんのお話をお聞きして、レノボグループはインテルさんと同じ方向を見ていると確信しました。レノボはテクノロジーで「Smarter technology for all」、AIでは「Smarter AI for all」というビジョンを掲げています。「すべての人にAIを」という思想は、インテルさんの「AI Everywhere」とも共通するものです。

そんな世界を実現するための手段については、クラウド、データセンター、オンプレサーバー、エッジ、クライアントデバイスまで、すべてをシームレスにつなぐ「ハイブリッドAI」を理想像と捉えています。

  • (写真)NECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長 飯田陽一郎氏

    NECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長 飯田陽一郎氏

―インテル、レノボグループ共に、「誰でもどこでもAIを使える」世界を目指しているわけですね。

飯田氏:はい。ただ、クラウドとエッジのように異なる環境で、まったく同じようにAIを使えるわけではないと考えています。たとえば、最高性能のAIモデルは今後もクラウドでしか動かせないでしょう。一方で、コストやレイテンシー、セキュリティの観点から、エッジでしか動かせない、動かすべきAIもあります。クラウドとエッジは役割分担をした上で、連携すべきだと考えます。

糀原氏:おっしゃるとおりです。クラウドでなければできないこともありますし、エッジならではの価値もあります。

「AIが前提」となった世界に適応していくには

―AIが広く浸透した世の中は、どのようなものになると思いますか。

糀原氏:「AIが浸透」したとは、人々が技術のことを意識せずに使うようになった状態だと思います。たとえば、Wi-Fiがそうでした。かつてはWi-Fiは特別な技術で、PCにカード端末を挿して使っていました。そこにインテルがCentrino(セントリーノ)というプラットフォームを投入して、Wi-FiをCPUとチップセットに統合し、PCへのWi-Fi機能搭載を推進したのです。その結果、Wi-Fiは当たり前のものとなり、PCだけでなく、スマートフォンやIoTデバイスにも広がりました。同じようなことが、AIでも起きるでしょう。

また、Wi-Fiは当初、単にネットワークにつなぐための機能でしたが、今では電波を使ってさまざまなことができるようになりました。たとえば部屋の中にいる人数を計測したり、健康状態を測定したりできるようになっています。AIも同様に、世の中に浸透するにつれてさまざまなアイデアが生まれていくと思います。

飯田氏:AIの浸透は「進歩」ではなく、「進化」と呼ぶべき変化だと思っています。つまり、環境的に人間はAIに適応せざるを得ない状況になるということです。「AIに頼りすぎると頭が悪くなる」とか、「思考を外部に出しすぎるのはよくない」など、AIに関して一部ネガティブな意見もありますが、社会がAIを前提とした環境に変わっていくなら、人はそれに適応するしかありません。

現状、日本のAI利用率は約20%程度で、アメリカや中国、ドイツなどに比べて著しく低いと言われています。ですが、『ドラえもん』や『鉄腕アトム』を見てもわかるように、AIやテクノロジーに対する恐怖心が少なく、抵抗感を持たないのが日本の特徴と言われます。また、スモールランゲージモデルの観点では、海外から見たときに日本語は言語的な壁が厚く、技術的な進歩が遅れている面があります。だからこそ工夫を重ねてその壁を乗り越えれば、日本でのAI活用術はグローバルに拡大できる可能性が十分にあると考えています。レノボグループは日本に複数の法人を展開しており、そこから生まれたものを、インテルさんと一緒にグローバルに広げたいと思っています。

電力消費を大幅に改善―NPUを搭載した「AI PC」とは

―インテルとレノボグループのAI関連製品について教えてください。

糀原氏:半導体メーカーとして、AIが最適に動くためのハードウェア製品を開発しています。まず、最近注目されている「AI PC」です。AI PCとは、従来のCPUとGPUに加えて、AIの処理に最適化された高効率なNPUを搭載したPCのこと。ポイントはCPU・GPU・NPUのバランスです。どれか一つが突出しても全体のスループットは上がらない。バランスを取りながらユーザー体験を向上させるのがインテルの戦略なのです。

―AI PCにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

糀原氏:AI PCの大きなメリットが消費電力の削減です。Web会議の背景ぼかしやノイズキャンセリング機能など、すでに多くのアプリにAIの技術が使われています。これらを従来のPCで実行すると、バッテリーの減りが非常に速くなることは、皆さんご経験があるのではないでしょうか。AI PCならこうしたAI機能を使いながら、バッテリー持続時間を大幅に伸ばせます。もちろん、PC上でAI処理を行うことで低遅延、低コスト、プライバシー保護、セキュリティー担保の面でも大きなメリットがあります。

サーバー領域では、大きなGPUを搭載してパフォーマンスを最大化するアプローチだけでなく、ユーザーに近い場所に置くエッジサーバーにも注目しています。エッジサーバーには大型のGPUを搭載しづらいのですが、インテルが展開しているインテル® Xeon® プロセッサーであれば、CPUに搭載されたアクセラレーターにより高い性能を出すことが可能です。このように、AI PCからエッジサーバー、ハイパフォーマンスサーバーまで、さまざまな製品を取り揃えています。

飯田氏:NEC PCの法人事業を担当している立場から製品についてご紹介します。最近発表したのが、インテル® Core Ultra™ 200V シリーズ プロセッサーを搭載したAI PCです。従来のPCはカタログスペックほどバッテリーが持たないことが多く、午前中にヘビーユースすると午後にはバッテリーが切れることも珍しくありませんでした。しかし、インテル® Core Ultra™ 200V シリーズ プロセッサーを搭載し、NEC独自のバッテリー制御技術を組み合わせることで、特に電力を消費するリモート会議などでもバッテリー消費を大幅に削減、カタログスペックでも約20時間(動画再生時)、実用的にも丸一日は持つなど、世界最長(※)のバッテリーライフを実現しました。

(※)Windows 11搭載かつ1kg未満の法人向けノートPCにおいて。バッテリー(L)搭載時、JEITA3.0に基づいて測定したバッテリ駆動時間での比較。2025年7月現在、NECパーソナルコンピュータ調べ。

これにより、ACアダプターを持ち歩く必要がなくなり、一泊二日の出張程度ならバッテリー切れの心配なく使えます。もう客先でコンセントを借りたり、電源付きのカフェを探し回る必要はありません。どこでもAI使い放題の世界が実現しているのです。

日本という「隔絶された世界」から世界に通用するイノベーションを生み出していく

―AI PCの登場により、エッジAIの可能性が明確になったと言えそうですね。「Lenovo AI Innovation Challenge 」は、まさにそんなエッジ環境におけるAIのアイデアソンです。開催の背景について教えていただけますか。

飯田氏:レノボグループはクラウドセンターからサーバー、エッジデバイス、クライアントPC、スマートフォンまで、幅広いハードウェアプラットフォームを取り扱っています。ただ、どのハードウェアプラットフォームで、どんなAIを、どのように活用するのがよいのかについては、まだ世界でも試行錯誤の段階です。そこで、業界のリーダーであるインテルさんと一緒にAIの活用方法を広げていきたいと考え、「Lenovo AI Innovation Challenge 」を企画しました。

―ここで生まれた日本発のアイデアが世界に広がる可能性もあるのでしょうか。

飯田氏:大いに期待できます。というのも、イノベーションは“隔離された世界”から生まれることが多いと言われます。日本は英語圏や中国語圏という大きな世界から隔絶されており、テクノロジーの進歩において強い制約を受ける環境です。しかし、だからこそ、独自のアイデアが生まれ、世界を変える土壌があるのです。

糀原氏:インテルもレノボグループもグローバルに事業を展開している企業なので、日本で生まれた技術を世界に広げる支援ができると思います。AIのテクノロジーは日々進化していますが、まだまだ性能の進化に関する話題が多く、ユースケースは十分に確立されていません。そこに、日本が世界に打って出るチャンスがあると考えます。現場に根ざしたところから、さまざまなアイデアが生まれることを期待したいです。

―糀原さんがおっしゃったように、「Lenovo AI Innovation Challenge 」のテーマは「現場課題」です。

飯田氏:「AIはこんなふうに使えます」という抽象的な議論はよくされるのですが、今回のアイデアソンで重要なのは「あなたの職場で」というテーマです。あなたの職場だったら何ができるのか、という視点から考えることで、これまでになかった面白いアイデアが生まれる可能性があります。そして、それがブレイクスルーやイノベーションにつながるのではないかと思うのです。

―「Lenovo AI Innovation Challenge 」の参加者や、AIで実務を変革したいと考えている方へメッセージをお願いします。

糀原氏:「Lenovo AI Innovation Challenge 」はAIで実務を変革するための良いきっかけになると思いますので、ぜひこの機会にAIに触れていただきたいです。アイデアを思いつき、それを実現するための技術を探すという流れもありますが、逆にAIを使っているうちにすばらしいアイデアが生まれることもあるでしょう。あまり身構えずに、自由な発想を生むきっかけにしていただければと思います。

現場の方は日々の業務で忙しく、自分たちにAIのアイデアが出せるのかと躊躇されるかもしれません。しかし、これまでテクノロジーにあまり触れてこなかった人のアイデアの方が、むしろ技術と出会うことで成功するケースが多いのです。技術者でなくても、AIに詳しくなくても、ぜひ積極的に参加いただけると嬉しいです。

飯田氏:AIの活用法がまだ固まっていない今だからこそ、「こういう使い方はどうか」と提案していただき、一緒に議論しながら作り上げていけたらと思っています。ハードウェアとAIに取り組んでいるレノボグループと、クラウドからエッジまで広くハードウェア、開発プラットフォームを提供しているインテルさんと協業し、新しい世界を一緒に作っていきたいですね。

*  *  *

ハードからソフト、そしてエッジからクラウドまでシームレスにAIを活用できる環境の構築に取り組んでいるインテルとレノボグループ。両社は「AI Everywhere」、そして「Smarter AI for all」というビジョンのもと、テクノロジーを意識せず誰もがどこでもAIを活用できる未来を描いています。

急速に進化するAI技術ですが、特にローカル環境におけるAI活用についてはまだ試行錯誤の段階。両社は、「Lenovo AI Innovation Challenge 」を通じて、現場からのアイデアを募り、新たなAI活用の可能性を探っています。

「Lenovo AI Innovation Challenge 」では、どんなアイデアが生まれたのでしょうか。レポートは近日公開です。お楽しみに。

  • (写真)インテル株式会社インダストリー事業本部 副本部長 エンタープライズ事業統括部長 糀原晃紀氏、NECパーソナルコンピュータ株式会社執行役員 コマーシャル営業推進本部 本部長飯田陽一郎氏

(※)本対談は、「Lenovo AI Innovation Challenge 」開催前の2025年9月に実施されました。

Lenovo AI InnovationChallenge 2026

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