「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」など国民的アニメを手がけるシンエイ動画は、個人や法人、若手からベテランまで、様々な分野のスタッフと協力して作品づくりを行っている。スタッフへの発注や請求処理、業界特有の業務フロー、また法改正などに柔軟に対応するため、Claris FileMakerを活用した支払管理システムの全面リニューアルに踏み切った。アニメ業界特有の働き方に寄り添いながら、DXを進める同社の取り組みに迫る。
様々な分野のスタッフと手がける国民的アニメ──信頼で支える制作の舞台裏
「子どもたちをはげまし笑顔にするアニメーション作品をつくりたい」という理念のもと、1976年に設立されたシンエイ動画株式会社。誰もが知っている「ドラえもん」「クレヨンしんちゃん」をはじめ、「あたしンち」「からかい上手の高木さん」など、友情や家族の姿を描いた国民的アニメを数多く手がけている。同社は、アニメが日本を象徴する文化となった現在、個性的な作品世界やキャラクターを重要な知的財産として守りながら、映像ライセンスやコンテンツビジネスにも力を入れている。
これまでに制作された作品は累計186本にのぼり、100以上の国と地域、30言語で展開されている。また親しみやすいキャラクターは、企業ブランディングや商品プロモーションなどのタイアップにも活用されている。総務部 部長の久保 昇氏は、同社が手がける作品の独自性についてこう語る。
「時代が求める新作をコンスタントに世に送り出しており、この安定した制作力は高く評価されています。友情や家族といった普遍的なテーマを描いてきたこともあり、海外でも好感を持って受け入れられやすいという国際的なコンテンツ力があります」(久保氏)
同社の制作体制の特徴は、制作・演出・作画・彩色など、長年の協業を通じて信頼関係を築いてきた様々なスタッフとの連携にある。制作本部 本部長の馬渕 吉喜氏は、次のように強調する。
「私たちは、チームで一つひとつの作品に向き合い、共通の目標のもとで、時には競い合い支え合う制作体制を築いています。これにより、定番タイトルにも新たな刺激が加わり、新鮮さを保つことができています。制作はプロデューサーを中心に、方針や戦略の策定、スケジュール・予算・スタッフの管理など、全工程を統括します。進捗状況を常に把握し、スタッフ間の橋渡し役として、作品づくりが円滑に進むよう、常に心掛けています」(馬渕氏)
しかしスタッフとの円滑な関係を維持するうえでも、見過ごせない課題が表面化していた。アニメーターや脚本家、演出家など、作品づくりに欠かせないスタッフへの発注・請求処理を担う「支払管理システム」が古くなり、法改正や消費税の改正、OS のアップデートなどに対応できず使い勝手が悪いものになっていたのである。この課題を解決するため、同社はシステムの全面リニューアルに踏み切った。
老朽化した支払管理システム──現場の声から始まった刷新プロジェクト
アニメ制作は、企画から編集まで多くの専門工程に分かれており、それぞれの工程を担うプロフェッショナルが連携することで、1本の作品が完成する。工程は大きく、プリプロダクション(企画・脚本・絵コンテ)、プロダクション(原画・動画・彩色・背景)、ポストプロダクション(編集・アフレコ・ダビング)に分類される。
シンエイ動画の支払管理システムは、これらの工程に関わる外部スタッフの業務発注と請求処理を担っている。対象となるのは、シナリオや絵コンテ、原画、動画、仕上げ、背景などの制作工程を中心に、ポストプロダクションも含まれる。
「フリーランス、業務委託、法人など、立場も働き方も多様な方々が数多く関わっています。スタジオで作業される方もいれば、自宅や所属企業で作業される方もいて、業務内容も場所も本当にさまざまです。作業ごとに発注書を発行し、納品後に請求書を受け取るという流れで処理していますが、20年以上前に構築されたシステムを使い続けてきたことで、法改正やデジタル化への対応が難しくなっていました」(馬渕氏)
旧システムはFileMaker(バージョン7)で開発されたもので、当時のビジネス環境に合わせて紙と印鑑を前提とした運用が行われていた。発注内容をシステムに入力し、発注書を印刷。さらに別途印刷した宛名ラベルを貼り、郵送する。請求書が届くと、発注書と照合して金額を確認し、経理部に共有するという流れだった。
Claris Platinumパートナーと連携し、複雑なアニメ制作の業務要件に対応したシステムを構築
システムのリニューアルにあたっては、さまざまな形式の発注書・請求書処理業務に対応できるよう、開発の柔軟性が重要なポイントとなった。加えて、法改正への対応や、将来的な業務のデジタル化を見据えた設計、そして継続的に安心して利用できるサポート体制の構築も求められた。
これらの要件に効率的に対応するため、シンエイ動画はClaris Platinumパートナーである株式会社Tooに開発を依頼。継続的なサポートを受けられる体制を整えた。
Tooは大正8年に画材店として創業し、今ではデザイン・クリエイティブ製品全般を取り扱う総合商社である。以前から付き合いがあったこともあり、アニメ業界への理解が深い点が決め手となったそうだ。とはいえ、実際の開発では、アニメ制作特有の業務にどう対応するかで試行錯誤が続いたという。
制作業務部の長南 佳志氏は、発注業務の難しさについてこう語る。
「発注書の作成後、動画原画の作業内容が制作途中で変更になることがあり、枚数秒数の増減や絵コンテの書き直しなどに応じて内容の更新が必要になります。こうした対応は稀ですが、柔軟な対応が求められます」(長南氏)
また、制作業務部の杉野 友紀氏は現場スタッフの多様な事情にも言及。
「ベテランのアニメーターの中には、PCやスマートフォンを持っていない方もいて、メールを使っていないケースもあります。請求書の形式も人によって異なり、手書きの複写式伝票を使っている方も少なくありません。完全な電子化は現状難しいため、現場の実情に合わせて、どこをどう効率化すればよいかを慎重に検討する必要がありました」(杉野氏)
さらに、制作業務部の津山 智香氏は、郵送作業の負担についてこう述べる。
「以前のシステムでは、発注書とは別に宛名ラベルを印刷して貼る必要がありました。発注書の郵送作業は月に1000件ほど発生し、それだけでも膨大な作業時間がかかっていましたが、システムの改善をしたいと思っても手が加えられない状況が続いていました」(津山氏)
PDF化・カメラ入力・チャット対応──「使える」新機能が変えた日常業務
新システムは2021年に社内のヒアリングを実施し、2023年より運用を開始した。既存の業務プロセスは大きく変えず、現場の運用に寄り添いながら、必要な機能を追加することで業務効率の向上を図った。FileMakerのバージョンも最新版にアップデートされ、安定性と信頼性が向上。さらに、Tooによる継続的なサポート体制が整ったことで、将来的な運用にも安心感が生まれている。
発注書作成画面の改善について、杉野氏は「摘要欄の編集や宛先印字が可能になり、発注書の作成や封入作業が効率化されました」と話す。
新機能として特に効果が大きかったのが、注文書のPDF化と自動メール添付、そしてiPhoneカメラを活用した請求書のデータ化だ。
「メールで発注書を送る際は、システム上でPDF化してメール添付できるようになり負担が大きく減りました。紙で届いた請求書を電子化する場合は、iPhoneカメラで伝票を撮影して注文書番号を入力すると、そのデータがシステムに格納され、経理部が確認できるようになります。電帳法(電子帳簿保存法)にも対応した保存が可能です」(津山氏)
総務部 柏原 健二氏は、こうした業務において、FileMakerを採用するメリットをこう話す。
「クリエイティブ業界ということもあり、FileMakerをはじめApple製品は現場に馴染みのあるツールです。業務に合わせて柔軟に構築できる点が非常に助かりました。現場の細かなニーズに対応できるのが、FileMakerの魅力だと感じています」(柏原氏)
また、サポート面でも改善が進んでいる。新システムには「改修情報」という問い合わせ窓口が実装されており、チャット形式でTooに不具合の報告や質問ができるようになった。長南氏は「システム開発が完了した後も、要望を書き込むことでさまざまな対応をしていただきました。日々、システムが良くなっていくのを実感しています」と振り返る。
支払管理から社内決裁まで──FileMakerの柔軟性が広げるデジタル化
支払管理システムの開発と並行して、シンエイ動画では社内向けの決裁業務システムも新たに構築した。外部スタッフや社員の情報を整備する過程で、社内の稟議・決裁業務にも同じ基盤を活用できると判断したためだ。
柏原氏は、「支払管理システムを開発する過程で、外部スタッフや社員の情報整備が進みました。その社員情報を活用して、アニメ制作に関わる稟議や決裁を管理するシステムを新たにつくりました」と語る。
久保氏は、「この決裁業務システムでは、業務種別ごとの承認ルートで承認者へ通知する機能、承認する機能を持っています。また、電子印鑑を活用して、これまでの業務プロセスを変えずに電子化を行っています。電子化したことで、過去の案件を検索したり、どのような案件があるかを可視化できるようになりました」と話す。
こうした臨機応変な対応や、現場に即した機能開発が可能なのも、FileMakerの柔軟性によるところが大きい。
最後に馬渕氏は、今後の展望について次のように語った。
「現状、作画作業は手書きが主流で現場にはベテランによる手作業がまだ多く残っています。そのため、アニメーション制作の現場ではデジタル化が容易ではない側面があります。一方で、発注や支払い管理などバックオフィス業務にはシステム化の余地があり、可能な部分からDXを進めていこうと考えています」(馬渕氏)
ベテランと若手の技や創造力が交差する現場で欠かせない、多様な働き方と複雑な業務に対応する支払管理の仕組み。これからもFileMakerはシンエイ動画の制作現場に寄り添いながら、DXの歩みを静かに、そして着実に支えていくことだろう。
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