2022年末にChatGPTが登場して以降、生成AIはここ1年ほどでビジネスシーンにおいても急速に一般化してきた。労働人口減少が深刻な課題となっているいま、生成AIのビジネス活用は業務効率化においてもはや不可欠だともいえる。その中でマイナビは2024年10月、「AI戦略室」を発足させ、ビジネスへの生成AI実装を進めている。本記事ではAI戦略室の意義や目指すところ、現在の取り組み、そして今後の展望について、室長の谷本健次、同室AIソリューション部 部長の松館渉の2人に聞いた。

  • (写真)(左)マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 室長 谷本健次 (右)マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 部長 松館渉

    (左)マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 室長 谷本健次 (右)マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 部長 松館渉

生成AI活用で重要なのは「目的の明確化」と「業務フローへの組み込み」

--生成AIは現在の社会でどの程度実装され、活用されているのでしょうか。現状の認識を聞かせてください。

谷本:日本でも多くの企業がすでに生成AIを業務効率化や生産性向上に役立てようと取り組みを始めています。特に製造業やEC関連、アパレル業界では生成AI活用の本格実装がかなり進んでいると見ています。

松館:テクノロジー面では、最近注目のAIエージェントもすでにコーディングなどでよく使われていますし、AIと外部システムをつなぐMCP(Model Context Protocol)、AIエージェント同士をつなぐA2A(Agent to Agent)といったプロトコルも登場したことから、ワークフローも構築しやすくなってきました。2025年は「AIエージェント元年」と言われるように、AIエージェントを作ってユーザーに使ってもらおうという動きが加速しています。その中でデータの重要性がより増しており、生成AIが利用しやすいデータの整理に各社が注力している状態です。

--まだ生成AIを使えていない企業やビジネスパーソンも少なくないようです。つまずいてしまうポイントとしてどういったことが考えられますか。

谷本:目的が不明確であるとか、経営層と現場との乖離など、さまざまな課題感があります。トップダウンで「生成AIを活用して、業務の効率化を図りましょう」という指示が下りてきても現場のニーズに沿ったAIを導入できず、使ってはみたものの浸透しなかったという話を聞きます。目的についても、「コスト削減」なのか、「営業効率化で顧客との接点を増やす」のか、「顧客の満足度を高めたい」のかなど、ある程度具体的な目的にまで落とし込んでから導入することが必要でしょう。

--単なる「AIありき」では失敗しやすいと。

松館:そう思います。導入すると決めたなら業務フロー全体をAIありきで見直し、新しいフローにAIを組み込む必要があります。「この業務では必ずAIを使う」という状態を作り出さないと、活用浸透も難しいかもしれません。要は、AIを単なる業務効率化ツールとして捉えないほうがいいのではないでしょうか。

ビジネスサイドとエンジニアサイドの融合が実現するマイナビAI戦略室の強み

--マイナビのAI戦略室の概要を教えてください。

谷本:AI戦略室はAIを経営資源として捉え、事業創出と業務改革を進めるための組織です。事業部のAIを基軸としたプロダクト開発や業務効率化、AIを扱ううえで必要な社員のリテラシー養成などを支援しています。

ユニークなのは、エンジニアメンバーと、各事業に携わってきたビジネスサイドのメンバーが同じ組織で活動していることです。私自身は就職情報事業本部で就職情報サイトの法人営業を担当した後、人事統括本部で採用や内定者育成に携わった経験から、ビジネスサイドの立場でAI戦略室に参加しました。いまも人事業務に携わりながら、AI戦略室の室長として、プロジェクトの統括や経営層にAI活用に関する提言をする立場にあります。

松館:私はエンジニアとしてAIを組み込んだプロダクトを内製開発するチームの責任者を務めています。

--なぜお二人がAI戦略室に参加したのか、またそれまでの経験がAI戦略室でどのように活かされているのか、教えてください。

谷本:営業から人事に異動したときは人材育成や採用面の知識不足を実感しました。そこで人事についてはもちろん、マーケティングの勉強も始めたところ、データの重要性に気づき、AIにたどり着きました。そのタイミングでAI研究・推進プロジェクトのメンバー募集があったので、飛びつくように応募したのです。

  • (写真)デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 室長/人事企画本部人材開発統括部 統括部長 谷本 健次

    デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 室長/人事企画本部人材開発統括部 統括部長 谷本 健次

谷本:AI戦略室では、AI活用の浸透に向け社内でどう火をつけていくか、といった仕掛けの部分で人事の経験が活きています。

松館:私の場合はもともといたAIシステム部からAI研究・推進プロジェクトに参加し、そのまま移行する形でAI戦略室に加わりました。マイナビのAI戦略室はビジネス側とエンジニア側が共存する場ですから、事業部門からの開発依頼を待つまでもなく戦略室内でビジネス側の要望を知り、意見を聞きながらプロダクトを開発できるところが最大の強みだと感じています。

谷本:ビジネス人材とエンジニア人材が融合した組織という点は、やはりAI戦略室最大の強みですね。エンジニアたちもビジネス課題を無視して技術課題に取り組みたいのではなく、自らの技術を事業にきっちりフィットさせ、その先にいるユーザーに価値を届けたいと常々思っているはずです。しかし別組織に分かれているとビジネスの課題やニーズがわからない。AI戦略室ではビジネス側とエンジニア側が近い距離で常にコミュニケーションを取り、とことん議論できるので、この融合には本当に大きな意味があります。

  • (写真)谷本と松館が笑いあう様子

発足半年で50件―スピード感あるプロダクト開発の裏側に迫る

--AI戦略室が開発した議事録作成サービス「Gijilog」、自己PR文提案サービス「マイナビAI Pencil」について説明をお願いします。

松館:「Gijilog」は社内で完全に内製したプロダクトで、オンライン/オフラインを問わずどんなWeb会議ツールでも音声を収集し、議事録として書き起こして要約まで作成するアプリケーションです。機能として各種要約テンプレートを用意し、フェーズに応じた要約を作成できるほか、データをSFA(営業支援システム)と連携できるなど、単に議事録を取って終わりではなくその先の資源として使うという観点で開発しました。もともとはAI研究・推進プロジェクトの一プロジェクトとして議事録活用を目的にスタートし、自社で求める機能やコストメリットを考えて内製することになりました。技術面では音声の話者分離の作り込みに力を入れたほか、ボイスレコーダーで録音したデータも書き起こせるなど、多彩なシーンに対応できるのが内製ならではの強みです。

  • (図)議事録作成サービス「Gijilog」

    議事録作成サービス「Gijilog」

「マイナビAI Pencil」は、求職者が職種・業種・強みの3つのキーワードを選ぶだけで、最適な自己PR文を1分程度で提案してくれるサービスです。従来の同種サービスのように生成AIが文をその都度生成するのではなく、LLM(大規模言語モデル)で事前生成された何百万通りものテンプレートから生成AIが最適なものを引き当てる仕組みなので、短時間で結果が得られ、自己PR文作成を効率化できます。

  • (図)自己PR文提案サービス「マイナビAI Pencil」

    自己PR文提案サービス「マイナビAI Pencil」

谷本:数百万通りのテンプレートは再評価しているので、レスポンスの速さだけでなくハルシネーションリスクをしっかり抑えた安全・安心の回答が得られる点も強みです。

--それぞれのサービス開発で苦労した点を教えてください。

松館:「Gijilog」はもう苦労ばかりで……(笑)。特に、肝になる書き起こしの精度向上には苦労しました。また、Web会議ツールに付属する議事録機能との差別化をどう図るかというプロダクトの方向性の部分でも大変なことが多かったですね。「マイナビAI Pencil」では、類似するサービスや生成AIに対して、サービスとしてどう優位性を確立していくかが最大の課題でした。ただ、試行錯誤の末に先ほど説明したテンプレート引き当て方式を採用したことで、プロセス短縮とハルシネーションリスク回避を実現できたので、結果としてはむしろ良かったのではないでしょうか。

谷本:AI戦略室には技術力の高いエンジニアが多いことに加えて、ビジネス課題にコミットする視点で開発に携わったことで、最終的に独自の価値提供につながるプロダクト開発を実現できたと思います。AI戦略室ではこのほか高校生向け動画面接練習サービス「AI-m(エイム)」というソリューションもリリースしていますが、これも事業部からの度重なる改善要望に対し、課題にコミットする姿勢でアジャイルに応え続けていくことで、社会に評価されるプロダクトとして成長していますし、エンジニアたちの技術力も同時に成長し続けていると感じます。

  • (写真)デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 部長 松館渉

    デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 部長 松館渉

--AI戦略室は30人という少数メンバーですが、限られた人数でも発足半年で50件に及ぶプロジェクトを進めていると伺いました。チームとしてスピード感と一体感をもって開発を進めるためのノウハウを教えてください。

松館:やはり大事なのはビジネスを理解し、どういった課題を解決するか……その部分がチーム内でブレないことですね。ビジネス側とエンジニア側が足並みを揃え、常に同じ方向を向いていく。これこそがノウハウといえるかもしれません。技術はあくまでも技術でしかないので、それを課題解決のためにどう使うかがわかっているからこそ、スピード感や一体感が生まれるのだと思います。

人間領域で事業展開するマイナビのAI戦略室が描くビジョンとは

--AI戦略室が描くマイナビのデジタル戦略のビジョンと、今後ステークホルダーに届けていきたい価値を教えてください。

谷本:発足後最初の3カ月で、AIを扱うからこそ大事にしなければならないビジョンや価値観をチームでディスカッションしました。マイナビはHR領域にいる企業ですので、その中でAI戦略を具現化する集団として、ユーザーが最適なキャリア選択を行えるマッチングの仕組みを追求していきたい。人の可能性に真に向き合うソリューションに、私たちは技術力で答えを出したいと考えています。その一方で、人の仕事を奪うのではなく、人の力を拡張し、人も成長できる、人間を中心に置いたAIを作っていくという世界観も大事にしながら取り組んでいきます。

松館:AIを突き詰めていくと、どうしても人が排除されてしまう危機感が生まれてきます。私としては生成AI活用が進む中で、世界が無機質になっていくのではなく、人と人との接点から生まれるヒューマンタッチなものをどう活かしていくか。そこに軸を置き、エンジニアとして技術力を発揮することを通じて、ユーザーに「あなたの人生の主役はあなただよ」というメッセージを送り続けていきたい。「人」に関わる事業を展開するマイナビに求められるのも、そういったソリューションを提供することなのではないかと思っています。

  • (写真)谷本と松館が笑いあう様子

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