2025年7月16日-18日に開催された自動車技術に関する専門展示会「人とくるまのテクノロジー展 2025 NAGOYA」において、米国の電源コンポーネントメーカーVicorは、車両電源システムの基幹部品となる車載モジュールを展示した。また、Vicorのプリンシパルアプリケーションエンジニアを務める羽岡 哲郎氏が17日のセミナーに登壇。同社の小型・高効率の電源モジュールで構成するSDV時代の車両電源アーキテクチャを解説した。本記事ではセミナーの模様をレポートする。

  • 出展社セミナーの様子

    出展社セミナーの様子

SDVの進化が求めるゾーン型電源アーキテクチャ

従来の車はハードウェア中心で設計されており、機能の追加や変更には部品の交換が必要であった。しかしSDV(Software Defined Vehicle)の登場により、部品を変えずともソフトウェアの更新によって新機能の追加や改善が可能になり、スマートフォンのようにアップデートできる車が実現される。

この進化により車の性能は向上したが、電力の使い方が複雑になるという課題も生まれている。特に、大元の駆動用バッテリーが800Vへと高電圧化するなかで、ECUやセンサー、アクチュエータが要求する48Vや12Vの電力をいかに効率よく、省スペースで供給するかが設計の肝となる。

SDVでは、車両内を物理的に分割したゾーンごとにECU(※1)を配置し、センターコンピューターが全体制御を行うゾーンアーキテクチャへの移行が進んでいる。それに伴い電源もゾーン型になると指摘する羽岡氏。車両コンピューターやゾーンECUといった中核コンポーネントには48V電源が供給され、そこから各センサーやアクチュエータが必要とする12V電源などが作られる電源構成が今後主流になっていくと解説した。
(※1)ECU(Electronic Control Unit)…自動車のエンジンやブレーキ、エアバッグなど、各機能を制御するための電子制御装置。

  • Vicor株式会社 オートモーティブグループ プリンシパルアプリケーションエンジニア 羽岡 哲郎氏

    Vicor株式会社 オートモーティブグループ プリンシパルアプリケーションエンジニア 羽岡 哲郎氏

  • SDVの電源アーキテクチャ

    SDVの電源アーキテクチャ

このアーキテクチャでは、駆動用の800Vバッテリーから48Vへ、さらに48Vから12Vへと、段階的な電圧変換が必要となる。この変換を担うDC-DCコンバータには、高い電力密度(小型・大出力)と高効率、そして負荷変動への高速応答性が求められる。

Vicor独自のスイッチング技術「SAC」

Vicorのソリューションの中核をなすのが、DC-DCコンバータにおける独自のスイッチング技術「SAC(Sine Amplitude Converter)」だ。SACでは、トランスの巻数比によって電圧の変換比が固定される。高効率・低ノイズであることに加え、双方向動作と高速過渡応答が可能という特徴を持つ。羽岡氏は、これらのSACの特徴について次のように説明する。

「高周波数で動作させることでトランスは小型化でき、流れる電流波形はsin波に近くなります。そして、電流がゼロになるタイミングでスイッチングを行うゼロ電流スイッチングにより、高効率と低ノイズを実現しています。また、トランスベースのため双方向の動作が可能。フィードバック制御を持たない構成により、負荷の急な変動にも瞬時に応答できる高速過渡応答性を実現します」(羽岡氏)

  • Vicor独自のスイッチング技術であるSACについて

    Vicor独自のスイッチング技術であるSACについて

Vicorは、このSAC技術を用いた製品をはじめ、SDVの電源アーキテクチャを構成するための車載向け電源モジュールを幅広くラインアップしている。これらは800Vから48V、48Vから12V、さらには充電インフラとの連携まで、アーキテクチャの各所をカバーする。

  • SDVのなかのVicor製品

    SDVのなかのVicor製品

800Vから48Vへの中核を担う「BCM6135」

SDVの電源アーキテクチャにおいて、800Vのバッテリー電圧から48V系統への変換は最も重要な部分の1つだ。ここで活躍するのが、800V/48V双方向SACモジュール「BCM6135」である。名刺の半分にも満たない61×35mmという小型サイズながら、定格出力2.5kWという高い電力密度を誇り、ピーク効率は97.3%に達する。SACならではの高速過渡応答性と双方向性は、特に要求の厳しいアプリケーションで真価を発揮する。

「たとえば、段差を乗り越える際に瞬発的な大電力を必要とするアクティブサスペンションに対して、安定した電力を供給しつつ、動作時に発生する回生エネルギーをバッテリー側へ効率よく回収することが可能です。この特長は、ステア・バイ・ワイヤといったアプリケーションにも応用できます」(羽岡氏)

さらに羽岡氏は、BCMモジュールの双方向特性を活用した「仮想48Vバッテリー」という概念も紹介した。これは、800Vバッテリーを48Vバッテリーのように見せることで、48V充電器での充電を可能にするシステムだ。この技術により、既存の48V系インフラを活用しながら、800V系の高効率を実現できる柔軟性の高いシステム構築が可能になる。

なお、BCM6135は、次世代の800Vシステムに対応するバージョンに加え、現在も広く採用されている400Vシステムに対応するバージョンもラインナップされている。

安定した48V、12Vを供給するレギュレータ群

BCM6135が出力する48Vは入力電圧に追従して変動するが、一部のコンポーネントには安定化された電源が必要となる。その役割を担うのがレギュレータモジュールだ。48V/48V昇降圧レギュレータ「PRM3735」は、BCM6135の後段に配置することで、安定した48V主電源を構築できる。出力電圧を制御できるため、48Vバッテリーの充電器として使うことも可能だ。

  • 48V主電源供給――48Vに安定化された電源を供給

    48V主電源供給――48Vに安定化された電源を供給

また、ゾーンECU内で12V電源を生成する際には、48V/12V降圧コンバータ「DCM3735」が用いられる。定格2kWの出力があり、安定した電圧を必要とするセンサー類への電力供給に最適だ。

超小型・双方向で12Vを供給する「NBM2317」

同じく48Vから12Vへの変換を担うモジュールとして、SAC技術を用いた「NBM2317」もラインアップされている。こちらはレギュレータではないものの、23×17mmとDCM3735の1/3ほどサイズで定格1kWの出力を実現する。電圧変動を許容できるアクチュエータなど、省スペース性が最優先される箇所への実装に向いている。

  • ゾーンECUからの12V電源供給

    ゾーンECUからの12V電源供給

充電インフラの課題を解決する「NBM9280」

800Vバッテリーを搭載するEVの普及における課題の1つが、既存の400V充電インフラへの対応だ。この課題を解決するのが、800/400V双方向変換SACモジュール「NBM9280」である。37.5kWという圧倒的な定格出力を持ち、400Vの充電器から800Vバッテリーへと昇圧して充電することを可能にする。もちろん、双方向性を活かして800Vバッテリーから400V機器へ電力を供給することもできる。

800V/48V、12V対応のDC-DCユニット試作機

Vicor製品の大きな利点の1つが、並列接続によって簡単に出力を増やせるスケーラビリティだ。たとえば、定格出力2.5kWのモジュールを2個並列に接続するだけで、特別な制御回路なしに5kWの出力を得ることができる。これにより、将来的な電力需要の増加にも柔軟に対応することが可能となる。

  • 並列接続で容易に出力増強

    並列接続で容易に出力増強

セミナーでは、Vicorのモジュールを組み合わせた実用的なソリューションとして、800V/48V、12V車載DC-DCユニット試作機も紹介された。

  • 800V/48V、12V対応のDC-DCユニット試作機を持つ羽岡氏

    800V/48V、12V対応のDC-DCユニット試作機を持つ羽岡氏

  • ブロック図について

    ブロック図について

この試作機は、800Vの入力を48V(出力2.4kW)と12V(出力1.4kW)に変換するもので、100%負荷時で94%という高い効率を達成。サイズは275×155×27.3mm、重量1.7kgとコンパクトにまとめられており、省スペース・高効率な電源システムの構築にVicorのモジュールがいかに貢献するかを具体的に示している。

内部は、BCM6135を2台並列接続して800Vから48Vに変換し、後段でPRM3735により48Vを安定化、DCM3735で48Vから12Vに変換する構成となっている。冷却構造は、モジュール表面から筐体を通してコールドプレートで効率的に熱を排出する設計が採用されている。

  • 冷却構造――モジュール表面から筐体を通してコールドプレートで冷却

    冷却構造――モジュール表面から筐体を通してコールドプレートで冷却

羽岡氏は講演の最後に、「Vicorのモジュールは、小型・大出力・高効率であることに加え、スケーラビリティやSACの双方向動作・高速過渡応答性といった特長を持つ。組み合わせ次第でSDVが必要とするさまざまな要求に対応できる」と、その優位性を改めて強調した。

自動車の高機能化を支える電源アーキテクチャの進化において、Vicorが提案するモジュールベースのアプローチは、設計の自由度と性能を両立させるための強力な選択肢となりそうだ。

  • 展示ブースにて、Vicorの電源モジュール製品を手にしていただくと、製品がとても小さいことが分かる

    展示ブースにて、Vicorの電源モジュール製品を手にしていただくと、製品がとても小さいことが分かる

Vicor Corporationについて

Vicorは、高性能なモジュール型電源コンポーネントの設計、製造、販売を行う米国(本社:マサチューセッツ州アンドーバー)の電源専業メーカーです。HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、オートモーティブ、通信ネットワーク、産業機器、ロボティクス、鉄道、航空防衛アプリケーションなどへ向けて、広く事業を展開しています。

日本法人のVicor株式会社(Vicor KK)は2017年に設立され、電源コンポーネントの販売・技術サポートを行っています。詳しくは、こちらをご参照ください。

Vicor、BCM®は、Vicor Corporationの登録商標です。
DCM™ は、Vicor Corporationの商標です。

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