技術は人々のくらしに貢献することで初めて大きな社会的価値を生み出す。その道筋を実現に導くのがエンジニアだ。2025年7月17、18日の両日、JPタワー ホール&カンファレンスにおいて「Developers Summit 2025 Summer エンジニアの事業貢献を応援するカンファレンス」が開催された。マイナビは高校生向け動画面接練習サービス「AI-m(エイム)」の開発において、エンジニアと事業部門が協力しながら同サービスを立ち上げ、挑戦を重ねた舞台裏を明らかにするセッションを実施。本記事ではその模様をお届けする。

  • (写真)Developers Summit 2025 Summer「AIで面接練習を変える!動画面接練習サービス『AI-m(エイム)』開発の舞台裏と挑戦」セッションの様子

    Developers Summit 2025 Summer「AIで面接練習を変える!動画面接練習サービス『AI-m(エイム)』開発の舞台裏と挑戦」セッションの様子

年内に7割が決まる高3進路、カギとなる面接に着目

セッションは「AIで面接練習を変える!動画面接練習サービス『AI-m(エイム)』開発の舞台裏と挑戦」のタイトルで行われた。マイナビからは、AIを活用したプロダクトの開発や運用保守を担当するデジタルテクノロジー戦略本部の三木天平、高校生向け進学情報サービスの企画・制作・販促・運用などを担当する未来応援事業本部の川原慧子が登壇した。

まず川原がAI-mの概要について解説。AI-mは、スマートフォンやタブレットで質問に答えると、AIがその様子を判定してフィードバックを返し、進学受験や就職試験等で行われる面接の模擬練習ができるという高校生向けサービスだ。

  • (スライド)高校生向け動画面接練習サービス「AI-m(エイム)」について

画面で進学志望か就職志望を選ぶとカメラが起動し、自分の表情が映る。この状態で質問に答えていくと、話す速さや言葉のつまずき 、表情に関するフィードバックが返され、さらに話した内容についても言葉遣いや表現・要素などの評価が示される形だ。そのほか、面接中の自分の動画を見返しながら、内容の文字起こしを確認できるといった機能も搭載されている。

「生徒は練習とAIのフィードバックを通して、自分がどう話したかを振り返ったり、どの部分を直せばいいかという気づきを得たりすることができます」(川原)

なぜマイナビは、このサービスを開発したのだろうか。その背景には、ある社会課題があった。川原によると、いま高校3年生の約7割 (※1)は12月までに大学や専門学校への進学、就職などの進路を決定しているという。その7割の高3生が挑む、年内に実施される各種試験のほとんどは、学力ペーパーテストではなく、書類や小論文、そして面接によって選考がなされるそうだ。

(※1)文部科学省「学校基本調査-令和6年度 結果の概要-」 (https://www.mext.go.jp/bmenu/toukei/chousa01/kihon/kekka/kdetail/2024.htm)

文部科学省「令和6年国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」 (https://www.mext.go.jp/bmenu/houdou/2020/141495200007.htm)

「生徒たちは日頃、勉強を一生懸命していますが、進路決定の際には学力ペーパーテストではないものが求められます。生徒は普段面接をする機会がないため対策の負担が大きく、また教員にとっても個々の生徒への面接指導は負担が大きいのが実情。こういった課題の解消に貢献できるサービスを生み出すことができないかと考え、AI-mの構想が生まれました」(川原)

動画練習サービス・AI-mの開発プロジェクトが動き出す

このAI-m誕生に至るプロセスで、開発側にはどういった苦労があったのだろうか。今度は三木がその舞台裏にあるストーリーを紹介した。

「AI-mは単なる技術導入ではなく、教育現場のリアルな課題にどう応えるのかという視点からスタートしました。教育現場のニーズと技術側のシーズがピッタリかみ合い、融合したことで、プロジェクトが動き出したのです」(三木)

教育現場における課題、裏返せばニーズは、上で川原が話した生徒・教員双方の負担の解消だ。一方、技術のシーズとしてはAIが発展し、音声認識、文字起こし、ラベリング処理といった要素が揃ってきていた。

「未来応援事業本部から『教員が1人で何十人もの面接練習を見ている』という話を聞いたとき、そこをAIで支援できるのではないかと直感しました」(三木)

  • (写真)株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 AIソリューション3課 課長 三木 天平

    株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 AI戦略室 AIソリューション部 AIソリューション3課 課長 三木 天平

当初は既存ツールを活用したトライアルからスタートし、面接練習をAIで支援できるか検証を行った。さらにPoCで音声認識の品質を確認し、実際の教育現場から「これなら生徒1人でも面接練習ができそう」といったフィードバックを得て、技術面のシーズが現実のニーズに刺さることを見極めていった。

実はこの時点では、ツール内製化の方向性はなかったという。ただ、現場のリアルな声を聞いたことが技術側の意思決定に強く影響し、「現場の改善要望を即座に反映するには自分たちで作るしかない、これは自分たちで育てていくべきプロダクトだ」と確信して、内製開発へ踏み出すことになったと三木は話した。

技術部門と事業部門のタッグによるプロジェクトチームを組成

実際の開発は、教育現場を知る川原の未来応援事業本部と、技術面を担う三木のデジタルテクノロジー戦略本部がタッグを組む形でプロジェクトチームを結成。両本部から、教育現場の知見を有しニーズの明確化や営業を担当する川原のチーム、サービス全体の企画・立案や設計・方向性を担うプロダクト企画チーム、AI技術の選定・検証・設計やAPI実装を担当する三木のAI戦略チーム、UI・フロントエンド・バックエンドを担当するアプリ開発チームというように、教育、企画、技術、開発の各専門性を発揮する社内の複数部門が参加・連携した。

開発中はコミュニケーションツールやミーティングを通じて「この表現は生徒に伝わるのか」といった細かな議論を日常的に行ったと三木。

「特に印象的だったのは『御社』『御校』といった面接でよく使う言葉の違いをAIがどう認識し、どうフィードバックするか、活発に議論したことです。音声認識の精度だけでなく文脈理解や教育的観点も含め、細部にこだわる姿勢で作り上げていったことが、AI-mの信頼性につながっています」と三木は強調する。

「揺れ」の中で進めたアジャイル開発が現場に刺さるポイントに

さらに三木は、教育現場で使われることを前提とした技術スタックの選定・構築や、高いユーザビリティ、学生へのフィードバックの質向上など、開発中の工夫・苦労についても語った。

まず技術面では、「止まらない」サービスが求められることから、多くの生徒が一斉にアクセスしてもその負荷に耐えられるよう安定性とスケーラビリティを重視。さらには個人情報の取り扱いというセキュリティ面も注視し、インフラをAWSベースで構築した。また音声認識モデルの選定も精度・速度・コストの3点で比較検証し、見極めていったという。もちろん同時アクセス集中に対する負荷テストも実施し、レスポンス性と安定性を確認した。

  • (スライド)AI-mのアーキテクチャと開発の工夫

開発で最も難しかった部分は、AI活用で生徒に何を届けるのかという部分だった。「単なる評価ではなく、自己成長につながる気づきを与えるフィードバックを目指しました」と三木は振り返った。面接官視点と教育的視点を融合させた評価基準を設計・調整。加えて、回答の優れた点と改善点のバランスを考え、かつ具体的根拠を示して評価に対する生徒の納得感を生むフィードバックを生成するよう工夫したという。

AI-mの開発はアジャイルで進められた。これは前出のように、教育現場の声を迅速に反映し、日常的に仕様変更を行うAI-mの開発にフィットしていたためだ。

もちろん開発にはトラブルがつきものだ。例えば、負荷テストで同時アクセス時の不安定さが判明。緊急会議をたびたび実施し、「止まらない」サービスを実現するため夜間バッチ処理によるリカバリ設計を追加するなど、状況に応じて柔軟な対応を行っていったという。

「AI-mの開発は常に『揺れ』の中にありました。仕様変更や現場からの新しい要望、技術的制約などのたびに立ち止まり、考え直して前に進む。この『揺れ』があったからこそ、現場に刺さるプロジェクトを実現できたと考えています」(三木)

本開発で得た学びと気づきとして、三木は「教育現場のリアルな声がプロダクトの方向性や設計に直結する」「異なる専門性や視点を持つメンバーが柔軟に議論することで新しい価値が生まれる」「正解がない中でもユーザーにとって意味ある選択を重ねることが重要」という3つを挙げた。

社会にもたらした大きなインパクトを超え、次なるフェーズに進む

再び川原が登壇し、「高校生に特化した動画面接練習サービスはおそらく業界初で、社会に大きなインパクトをもたらしたと感じています」と語った。

2024年9月の第1期リリースでは178の高校から利用申し込みがあり、2万3105人分の生徒アカウントが作成された。実際に利用した高校生のアンケートを見ると、7割が面接力向上に役立ったと答え、開発時の工夫が実って7割を超える生徒がAIのフィードバックに納得感があったと回答した。

  • (写真)株式会社マイナビ 未来応援事業本部 企画統括本部 企画運営統括部 コンテンツ運営部 部長 川原 慧子

    株式会社マイナビ 未来応援事業本部 企画統括本部 企画運営統括部 コンテンツ運営部 部長 川原 慧子

1期ではこのほか、「面接の精度が向上した」、「入試で合格できた」といったポジティブな声が生徒・教員双方から得られたのに対し、改善要望も多く寄せられたという。このフィードバックをもとに、5カ月以内に「文字起こし精度向上」「面接時間延長」「面接バリエーション増加」「フリー質問機能追加」の4つを実装せよとのミッションが出され、短い期間でチーム一丸となって対応。その結果として2025年7月には2期が無事リリースされた。

短期間ながらやり遂げられた最大の理由として三木は、ここまで紹介してきたような、仕様変更に臆することなく、正解がない中でもユーザーにとって意味があるものを届けたいという思いに基づく「アジャイルの学び」があったからだと明かした。

「現在は、改善サイクルが『回すもの』から『回り続けるもの』へと進化しています。ユーザーの声が次の一手の出発点になり、それをすぐに開発・実装へ結びつけていく。このスピード感と柔軟性こそがAI-mの成長を支える原動力です」と三木。

今後もリリース→利用→フィードバック→改善のサイクルを強化してサービスの価値を高め、「AI-mを単なる面接練習にとどまらず、教育の可能性を広げる基盤として育てていきたい」として、入試や就職における準備機会創出、教員の指導負担軽減など、教育現場が抱える課題にAI技術で応える「社会的インパクト創出フェーズ」に向かっていきたいとの決意を明らかにし、セッションを締めた。

  • (写真)大盛況に終わったマイナビのセッションの様子

    マイナビのセッションは大盛況に終わった

Developers Summit 2025 Summer
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