生成AIをはじめとする最新技術が多くの組織で採用される中、いわゆる“自治体DX”も新たなステージに入ったと見える。とはいえ官公庁には民間企業とまた異なるセキュリティ環境や組織風土、業務に対する考え方、コスト課題などがあり、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に足踏みする地方自治体も少なくない。2025年5月14日、自治体に関するこうした課題を捉えたセミナー「庁内デジタル格差の解消と業務効率化」がオンライン開催された。本記事では、クラウドエース株式会社で自治体等のクラウド移行、デジタル活用支援などを担当するカスタマーエンジニア、吉村恒平氏による講演「LGWANクラウド移行のリアル 那須塩原市とクラウドエースの二人三脚! 成功するクラウド移行の秘訣とは?」の模様をお届けする。

高度なセキュリティで自治体に適したクラウドサービスとは

クラウドエースはGoogle Cloud専業のシステムインテグレータである。Google Cloudに関してカスタマーサービスやSI・コンサルティング、認定トレーニング、Google Workspace販売・コンサルティング、さらには生成AIの開発支援など多彩なサービスをワンストップで提供し、導入実績も小売・製造・通信・メディアをはじめ多岐にわたる業界の1000社以上に及ぶ。さらにはこうした実績から得られたナレッジを自治体に展開しており、実際に那須塩原市(栃木県)のLGWAN環境のクラウド移行も同社の支援によって実現している。

  • 図版:クラウドエースが提供するサービス一覧

吉村氏はまず、自治体DXの観点からGoogle Cloudの強みについて解説。Google Cloudは政府が推進する官公庁・自治体共通のITプラットフォームであるガバメントクラウドに認定され、セキュリティの高さが評価されているうえ、Vertex AIをはじめとするGoogleの最先端技術を手軽に利用できる点、音声認識・画像解析・位置情報のAPI等が用意されGoogle Cloud内だけでシステム開発できる点などを挙げた。

  • 図版:Google Cloudの強み

セキュリティについてはより詳しく言及し、「ISO/IEC27001、27017といった多くのセキュリティ基準を満たしているうえ、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)に認定されています。また、クラウドサービスを提供するデータセンターはGoogleが独自運用し、24時間365日監視、ディスクストレージ廃棄に関する厳密なポリシー適用といった高度なセキュリティ対策も実施されています」と説明した。

加えて、Google Cloudは一般的にインターネットを介して接続するが、自治体に関しては情報セキュリティの観点で三層分離モデルを導入しているため、LGWAN接続系ネットワークから閉域網でつなぐ構成が必要であることも解説した。

  • 図版:自治体からGoogle クラウドへの接続について

那須塩原市におけるLGWAN環境クラウド移行の支援詳細をチェック

那須塩原市における支援事例の紹介に先立ち、吉村氏はネットワークやサーバー、ソフトウェア環境等の構築・運用において自治体が抱える課題を2点提起した。1点目はオンプレでの環境構築には高額な初期費用がかかること、もう1点は構築後の運用が職員の負担になることだ。吉村氏は「Google Cloudを使うことで、この2つをドラスティックに変えられます。サーバー増強やシステム変更、負荷分散の柔軟性などにより、結果的に住民サービスの向上につながる。こうした姿を目指して(那須塩原市のクラウド移行を)ご支援しました」と語った。

吉村氏は続いて、クラウドサービスの利用において想定されるセキュリティリスクとその対策について説明した。

「オンプレのシステムをクラウドに移行する際は、外部からの無差別・標的型攻撃などさまざまな攻撃の対象になること、内部での作業ミス等により作り込みが脆弱になると侵入を受けること、さらにはクラウドサービス自体の脆弱性についても検討する必要があります。こうしたリスクに対し、外部とのアクセス制限・セキュリティ強化のため例えばアクセス時の多要素認証を設けたり、セキュリティポリシーを適用してアカウントの権限を最小化したり、といった個別の対策をしていくことが求められます」

  • 図版:セキュリティに関する要件の対応方法

那須塩原市の支援に際しては、実際に1年をかけてこうした対策を施していったという。

「移行前は、まずセキュリティガイドラインの改定支援から入りました。定例会議を週2回行い、時には3時間にも及んだその会議の中で課題を1つずつ挙げ、(市側とクラウドエース側の)みんなでディスカッションして、連携しながら解決していくサイクルを確立しました。そのうえで、総務省のガイドラインを含む3つの異なるガイドラインと(那須塩原市の)現行版・改定案の比較表を作成し、それを基に毎回の会議でより良い改定に向け粘り強く意見のすり合わせを行いました」

さらには、クラウドエースが他自治体の事例を参考に作成した手順書のたたき台を基に、市担当者に伴走する形で内容のレビュー・修正を繰り返し、那須塩原市の特徴を踏まえつつ実用的な手順書の作成を支援していったという。

LGWAN移行中の支援については、ITやデジタルの専門職ではない市担当者に寄り添った支援を心掛けたと吉村氏。「説明するときは常に図を書き、専門用語もなるべく使わずに、一つひとつ理解してもらいながら、二人三脚で作業を進めていきました」と振り返った。例えばクラウド移行で何から着手すればいいのかという市職員の不安に寄り添い、移行におけるポイントを体系的に示してロードマップとしてまとめたり、他自治体事例を参考にしたうえで那須塩原市としての課題・目的を整理したり、といった支援に努めたとのことだ。

その結果できあがった構成は、LGWAN環境から閉域網で従来のオンプレシステムの移行先となるGoogle Cloudにつながり、そのアクセスには多要素認証とアクセス元制御の導入で安全性を確立。加えて脆弱性の早期検知・対策のためリアルタイムモニタリングの仕組みを取り入れ、セキュリティポリシーがしっかり適用される、Google Cloudを中心とする仮想プライベートクラウドサービスを構築した。

  • 図版:仮想プライベートクラウドサービスの全体構成

Googleの生成AI活用サービスでナレッジを有効に活かす

クラウドエースでは、那須塩原市の事例のようなオンプレシステムのGoogle Cloud移行を、現行システムの確認から移行に要するコストやリスクを洗い出すアセスメント、実際の移行、その後の運用フォローまでワンパッケージで提供できる「LGWAN接続系システム 段階的クラウド移行サービス」を用意していると吉村氏。利用時の目安として、LGWANとGoogle Cloudの接続料金(LGWAN・Google Cloud間の通信料金)は月額で約20万円、回線工事完了までのリードタイムが約2カ月だと説明した。

続いて吉村氏は、クラウドエースが提供する業務効率化支援の最新ソリューションへと話を進めた。業務効率化の観点で吉村氏が課題視したのが、日常業務における検索の作業である。

「統計(Helpfeel「エンタープライズサーチに関する実態調査」)によると、企業の社員は1日平均で1時間を検索に費やし、しかもその中で解決に至る割合は非常に少なく、日々の検索にストレスを感じているようです。こうした現状の結果、データが散在して必要な情報にたどり着けない、情報に対して適切なアクセス権が設けられておらず情報漏洩など重大事故につながりかねない、過去の情報から情報を引き出すのが非常に難しい、といった課題が生じます」

  • 図版:平均検索時間とロスを示す図

吉村氏はこれらの課題を解決できるGoogleのプロダクトとして、アップロードした資料に基づき生成AI「Gemini」が検索をサポートするAIノートツール「NotebookLM」、及びNotebookLMを機能拡張し検索をさらに便利にするGoogle Cloudのサービス「Google Agentspace」を紹介。

  • 図版:NotebookLMの説明図版

クラウドエースではこうしたサービスの導入も支援するとし、最初のアプリケーション構築と担当者向けガイダンス等の提供でGoogle Agentspace導入を1カ月でサポートするパッケージを提供していることも解説した。

最後に吉村氏は、生成AIを活用してナレッジを全庁展開することで、自治体DXや住民サービス高度化にも効果が期待できると語り、講演を締めた。

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