まずは生成AIに慣れることを目指す
1955年の創業以来、国内外での石油・天然ガス開発・生産を中核としつつ、近年は発電事業にも参入し、日本におけるエネルギー供給の重要な部分を担い続ける石油資源開発(JAPEX)。再生可能エネルギーの積極導入に加えて、二酸化炭素(CO2)を回収して地中に安定的に貯留する技術「CCS」や、CCSにCO2の有効活用を加えた技術「CCUS」にいち早く取り組み、総合エネルギー企業としてカーボンニュートラル社会実現への貢献を目指している。
同社では、生成AIが今後の業務で中心的役割を果たすようになるという展望から、まずは社員がAIに慣れていくことを目指し、サテライトオフィスが提供するAIソリューション「サテライトAI」を導入。2023年から全社展開を図っている。
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石油資源開発株式会社 経営企画本部経営企画部 基幹システムグループ 内田優氏
同社でAI活用を推進する立場にあるのが、経営企画本部経営企画部 基幹システムグループの内田優氏だ。内田氏は以前の所属部署でエンジニアを務めていたとき、業務に関わるデータ分析をするためにコードを書くことがあったようで、2022年11月にChatGPT(GPT-3.5)が公開された際、効率的なコーディングツールとして注目していたという。
実際にGPT-3.5を試してみたところ非常に実用的だったため、生成AIへの興味が高まり、当時の情報システム部への異動を希望。そして2023年4月に同部へ着任し、すぐさま上司に生成AIの導入を提案する。
「情報システム部門では業務効率化に携わっています。簡単なプログラムを作って業務の効率化に役立てることを考えましたが、生成AIがコーディングのサポートとして便利に使えることを実感していたので、どうせなら全社的に生成AIを使えるようにしたらどうでしょうと提案したのです」(内田氏)
着任と同時期にChatGPTの最新言語モデル・GPT-4が公開され、生成AIの波がやってきた。AI時代の本格到来を前に、社員がAIに慣れておくことが得策だということになり、提案から1カ月後の2023年5月に生成AIの導入を決定。
セキュリティとガバナンスの視点からソリューションを選定
そして導入決定の翌6月、導入するAIソリューションとして、サテライトAIを一部部署でトライアル利用し、7月には全社での本格運用に移行した。
まだまだ世間では、多くの企業が生成AIに関心を持ちつつも最初の一歩の踏み出しにためらっていたころだが、同社では情報システム部門はもちろん、他部署も含めて生成AI導入を否定する人がおらず、トントン拍子で進んでいったという。背景として、同社ではDXを強力に推進する体制が確立されていたため、AI導入にもスムーズに着手できたと内田氏は回顧する。
では、AIソリューションとしてなぜサテライトAIを選んだのか。
「これから仕事の中心になり得る生成AIにまずは慣れるため、社員が気軽に試せるツールがほしいと考えていました。そのとき、Google Workspaceの導入などで以前から付き合いのあったサテライトオフィスからサテライトAIを提案され、これならどんな社員も簡単に扱えるだろうと考えて、選定に至ったのです」(内田氏)
もちろん選定の理由は“気軽さ”だけではない。入力したデータを生成AIが学習し、それが機密データの漏洩につながり得る情報セキュリティは企業にとって深刻な課題であり、入力データが学習に利用されない仕組みであることが選定時の最重要テーマになった。
「サテライトAIは入力データが生成AIの学習に使用されず、セキュリティ面で安心できました。また、入力内容や利用者のログがすべて記録され、どのような使われ方をしているかチェックできるところも重要でした」(内田氏)
導入時は情報セキュリティとITガバナンスに関わるこの2点を主な基準としたが、後に利用が進み始めてからは、サテライトAIが複数の言語モデルを切り替えて利用できる点も高く評価するようになったと内田氏は付け加えた。
運用開始2年を前に社内浸透を実感
全社運用は上記のように2023年7月にスタート。社員の使用用途としては、質問の投げかけや資料要約、メール作成、海外とやり取りする際の翻訳、議事録作成、そして内田氏が当初便利さを実感するきっかけとなったコーディングサポートなどが多いようだ。また、エネルギー事業に関わる同社の特質上、石油関連の専門用語集や論文等を読み込ませて質問するほか、事業計画や投資評価計画に対してアドバイスを求めるコンサル的な使い方をする社員もいるという。
具体的な社内調査は行っていないものの、現時点では利用者全体の7~8割程度が一般的な生成AIの画面からチャットボットのように使える「AIボード」を活用しているとのこと。質問数も徐々に増え、2025年4月には4500の質問が投げかけられたという。サテライトAIを頻繁に利用する社員の割合も全体(約1300人)の1割程度に達している。
「まだまだ十分とはいえませんが、コアなユーザーはAIボード以外も積極的に使い始めていますし、利用者は全体的に増え続けている実感があります。何より、誰もがいつでもAIを使える環境を整備できたことが大きいですね」(内田氏)
現段階ではオフィスワーク中心の本社業務を行う社員に多く使われているが、事業所の現場でも会議の議事録作成など便利なユースケースが見つかれば、広がっていく機運が見られるという。また、社内浸透にはトップダウンの動きも重要であるといい、役員に対して生成AIに関する教育を実施して利用促進をしており、実際に使い始める役員も増えてきている。
ただし、当然ながらここまでの約2年を通して、何の問題もなく順調に進んできたわけではない。多くの企業で聞かれるように、導入当初はAIへの期待度があまりに高く、「何でもできると思っている社員が多かったですね」と内田氏。そのため、プロンプトの書き方を工夫することなくAIに難題を投げかけ、当時主流だったGPT-3.5の限界もあって結果的に望むアウトプットを得られず、「ガッカリ感が生まれ、導入から1カ月で利用が激減してしまいました」と振り返る。
そうした事態を受けて、社内ポータルサイトに専用ページを開設し、導入手順や使い方、プロンプト集などを公開するほか、社員からの質問にも丁寧に答えていった。また、具体的にAIでどういったことができるか、どのようなプロンプトを書けばいいかといった情報も提供。サテライトAIに新たな機能がリリースされると同ポータルの掲示板機能で通知し、とりわけ「自分でも便利だなと感じる機能は記事を作成して詳しく紹介しています」と地道な活動を続けている。新しい機能を紹介した際のアクセスは、社員全体の4分の1ほどで反応は悪くない。
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社内ポータルサイトにて、生成AIの基本的な使い方からプロンプトの書き方までまとめている
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作業内容に適した生成AIサービスを明示。チャート化することで、初心者でもわかりやすいように工夫している
こうした取り組みの結果、利用者は復活。コアに使うユーザーが同じ部署の社員に広め、社内全体での活用も増え続けている実感があると話す。
「この2年間、サテライトAI活用を社内で広めていくなかで、関わったことのなかった部署の社員からも“便利”という声が届き、それを機にコミュニケーションを取るようになりました。ログを見ても利用者が増えているので、サテライトAIの満足度は高いのだろうと推測し喜んでいます」(内田氏)
業務効率化が多様な形で進み始め、サポート体制も高く評価
業務効率化の点でも、まだ具体的な数値面の測定は行っていないものの、さまざまな声を集約すると高い効果が出ているようだ。RAGを活かしてチャットボットなどのアプリを作成できる「スキル機能」を利用する社員も多く、多様な業務の効率化への工夫が現場レベルで進んでいる。
もちろん、導入時はエラーやトラブル、機能に対する不満も起こりやすく、社員から苦情も届く。そうした場合はサテライトオフィスの担当者に問い合わせると親身な対応が得られ、エラーやトラブルは短期間で解決でき、機能への要望に関しても改修・追加が迅速に行われることから、サテライトオフィスのサポート体制を全体的に高く評価している。加えて導入推進側の立場として「AIエンジンの言語モデルを切り替えられる点や、ログを抽出・分析できる点が本当に便利です」と改めて強調した。
さらなる活用拡大に向けて、AIの急速な進化を受けた推論モデルの登場に内田氏は大きな期待を寄せる。
「推論モデルによって、曖昧な問いかけからでも精度の高いアウトプットを得られるようになるので、私自身かなり使っていますし、周囲へのアナウンスも始めています。今後は推論モデルを活用することで、社内でのAI活用もさらに広がっていくのではないでしょうか」(内田氏)
同社ではGeminiとNotebookLMを近々導入予定で、今後はサテライトAIと併用していく。そのすみ分けはこれから検討していくが、複数モデルを利用したいヘビーユーザーにはサテライトAIを中心に使ってもらうことを考えているようで、「業務によりAIに対して多様なニーズがあるため、社員それぞれのニーズや使い方に合致するほうを選んで利用してもらえるのが理想です」と語る。
最後に内田氏は、生成AI導入を考えている企業に向けて次のメッセージを発してくれた。 「AI活用の浸透は、とにかく“諦めない”ことが大事。当社でも最初はガッカリ感を味わった社員が多かったのですが、1年、2年と時間が経つと生成AIも進化するので、社員が便利さを実感し、業務で効果的に活用するときがやってくるはずです。そのときのために早い段階から導入し、慣れておくことがいいと思います」(内田氏)
[PR]提供:サテライトオフィス