情報システム部門の業務改革を目指すうえで、ローコード/ノーコード開発の活用はいまや常識となりつつある。その利点や注意点はどこにあるのか。グループ全体従業員数が約15,000名にも上るマイナビのデジタルテクノロジー戦略本部で、ローコード/ノーコード開発の可能性をよく知る二人の情シス業務担当者に話を聞いた。
強みはユーザーとの距離感。一方、急成長によるシステムのサイロ化が課題に
――「社内情シス」を率いるお二人の業務内容を教えてください。
R.T氏:当社にはさまざまな部署に多くのSEが在籍しています。私が担当している業務は、おもに就職情報事業本部と、ライフキャリア事業本部に所属する社員が利用する、業務システムの開発と保守です。私を含めて18人のチームで担当しています。
受注から売上計上までの各フェーズで使用される、業務システムの計画・立案、開発検討、運用保守が中心ですが、実際のコーディングは外部の開発会社に委託する形で進めており、私のチームは要件の定義や設計、プロジェクト管理などを担当しています。また、日々変化する事業ニーズに対応しながら、部門全体の生産性向上を目的とした、業務効率化施策の立案も行っています。
T.O氏:私はオペレーションデザイン統括部に所属しています。担当する業務は特定の事業部向けではなく、全社向けの業務改善や効率化に向けた施策の検討、実施、開発、運用、保守となります。就職情報事業本部やライフキャリア事業本部も担当しますし、人事や総務も含めたバックオフィス部門なども担当します。
各所の既存の業務状況を調査し、人手や時間がかかって効率良く動けていない業務や、残業時間の増えている部署からの相談を受けて、現在のシステムを使ってどう改善していくか検討しています。システムの改修が必要な場合はその判断もします。
私の部署では、ノーコードツールやローコードツールを積極的に活用しています。人が行う定型的な作業を自動化するのが得意なツールや、クラウドベースの統合プラットフォームで、複数のアプリケーションやシステム間の連携が得意なツールを用いています。
ソフトウェアロボットに任せられる業務を自動化して、人はもっと考えるべき仕事や注力すべき仕事に時間を使えるようにすることで、社内の全体的な生産性を上げていくのが私の仕事です。
――マイナビにおける情シス業務の特徴について教えてください。
R.T氏:当社の情シス業務の特徴はユーザーである社員との距離が近いことだと思っています。
特に私の部署では実際にシステムを利用している就職情報事業本部やライフキャリア事業本部の社員と毎日連絡を取り合い、定例会や課題に応じた打ち合わせもこまめに行っています。社員が不便に思っている部分や新規開発を望んでいる機能など、即座に拾い上げられる環境が整っています。
その場で業務要件を決め、最短で翌日には本番リリースが可能です。ビジネス環境の変化が激しい人材業界において、このスピード感は大きな強みです。
――マイナビにおける情シス業務の課題は何ですか。
R.T氏:当社はこの10年間は事業拡大フェーズで急成長しました。業務ごとに個別のシステムを新規開発することや、既存システムに無理やり機能を追加することもあり、各システムの連携が不十分で、情報やプロセスが『サイロ化』した部分があることが課題となっています。例えば、1つの結果を出力するために複数の場所に同じ内容の入力が必要なケースもあり、これは明らかに非効率です。
社員との距離の近さを活かして現場の本当のニーズを把握しながら、システムの連携やデータの流れの最適化、業務の自動化などを推進することが課題だと考えています。ローコード/ノーコード開発は課題の解決に向けた取り組みの1つになっています。
システムサービス間のハブとしてローコード/ノーコード開発を活用
――ローコード/ノーコード開発が役立つのは、情シス業務のどのような場面でしょうか。
T.O氏:ローコード/ノーコードツールには、クラウドのサービスとの連携機能が標準で用意されていることが多く、これが大きなメリットになっています。また、開発がスピーディで技術難易度が低いことや、一定レベルのセキュリティが担保される点もメリットです。
オリジナルのシステムをイチから開発するスクラッチシステムの場合、データやシステムとの連携を実装しようとすると、要件定義や機能設計をして、検証環境を経て、本番環境をリリースするまで、どんなに早くても1カ月以上かかります。その点、ローコード/ノーコードツールは、早ければ一週間もかからずに済みます。
また、プログラミング言語だと一定の学習コストを費やして、レベルを高めてからでなくては作れないようなものも、ローコード/ノーコードツール開発ならば、画面からある程度枠を作ることができるため、入社したばかりの社員でも取り組みやすいのです。
――マイナビでローコード/ノーコード開発を実際に活用した具体例を教えてください。
T.O氏:最近では2月末に依頼されて3月初めに実装した事例があります。当社にはセミナーなども含めたさまざまなイベントを実施して、そこに社外のユーザーを集客する業務が発生する事業部があります。そうした事業部から、イベントの開催時期とユーザーの状況を紐づけて管理できるクラウド製品を新規に導入し、業務アプリと連携したいという相談が来ました。事業部の都合により、スケジュールがタイトで、3月中に実装まで終えたいとの希望でした。
その事業部が導入予定のクラウド製品には、イベント管理のシステムからイベントの情報や参加ユーザーの情報などがWebフックで送れる機能が備わっていました。
このため、ローコード/ノーコードツールでデータの受け入れのところだけ整えれば、データの送り先は事前に用意されているコネクションから選べば良いので、3月中にはユーザーによるテストも終了してオーダーどおりのスケジュールでリリースできました。スクラッチで行ったら倍以上の時間が必要だったと思います。
――ローコード/ノーコード開発で注意すべき点はどんなところでしょうか。
T.O氏:ローコード/ノーコード開発は新しいサービスを使いたいときに容易かつスピーディに対応できる半面、自由度に劣る面があります。システム間の連携やセキュリティについて一定以上の水準を求める場合、フルコードのほうが良いこともあります。どのような場面でローコード/ノーコードツールを用いるか、先々の運用まで考えて判断することが大切だと思います。
――ローコード/ノーコード開発を社内インフラで利用するからこそメリットになっている部分はありますか。
T.O氏:ローコード/ノーコードツールは必要な機能だけを分離しやすいので、システムサービス間のハブとしても活用できる側面があります。当社は急成長にともない大きくなったシステムサービス間で、連携が十分にできていないことが課題です。そんな環境でも、あまり複雑なものでなければいまあるサービスに新しいサービスを付随させる作業がスピーディに行えるのは大きなメリットだと思います。
「攻めの情シス」へ至るには、情シス部門で働く人の意識改革が必要
――これからの情シス部門に必要なことは何だと思いますか。
T.O氏:情シス部門はいま求められているものが変化してきています。売上を直接生み出す部門ではなく、企業によってはコストセンターと言われることもある存在です。
これまでの情シス部門は、既存のシステムの保守が大きな業務でした。しかし、世の中はDX推進などのデジタル的な改革が求められるようになってきました。いわゆる受け身の状態から、もう少し自分達で提案してくださいと求められる状態に変わってきています。
企業もそうですが、私たち情シス部門で働く人たちの意識を改革していくことが大事です。そういう意味では自分自身のスキルを含めて、成長を止めないということが一番重要だと思っています。
R.T氏:私たち情シス部門も大きな売上を作れるような勢いがないと、世の中について行けなくなりつつあります。いまは社内向けの業務改善が中心ですが、「攻めの情シス」になることで、いずれ対外にもサービスを提供していけたらと思っています。
――ありがとうございました。
もともと企業内のニーズに受け身で応える業務が多かった情シス部門の人が、いきなり攻めの姿勢で積極的に提案するようにと言われても急な変化は難しい。
R.T氏は、情シスに届く相談の多くはすでに他の部門へ相談したものの解決できなかった事情があるという。従って無理な相談の場合もあるが、それでも「できません」と言わず、たとえ部分的にでも解決や進捗の役に立てるように心がけているそうだ。こうした姿勢は受け身でありつつも、提案を伴う「後の先」のような対応と言える。
T.O氏も相談を受けたときに、相談された業務のことだけを考えて対応せず、なぜその業務が効率化できていないのか調べ、もっと根本の部分に問題があれば相談者が求めたものとは違う形での問題解決を図ることもあると述べていた。
そうした問題解決においてローコード/ノーコード開発が役立つ機会は多く、受け身の情シスを攻めの情シスに転換していくうえで間違いなく武器になるだろう。
T.O氏は「最終的には全社の業務を標準化して、お客様から受注をいただいたら後の工程はすべて自動的に終わっていく。そんな完全自動化の未来に向けて一歩ずつ前進させていきたい」と抱負を語った。こうした究極の目標を達成するには情シス部門の業務改革だけではまだ難しいと思うが、未来がその方向にあるのは間違いないと感じた。
[PR]提供:TECH+広告企画