「生成AI」の進化に伴い、AIのビジネス活用が加速している。市場のニーズに応える新規ビジネスの創出や、深刻化した人手不足への対応など、AI技術が担う役割は多岐にわたり、もはやAI活用なしでは競争力を維持することは困難だ。
とはいえ、以前から機械学習やディープラーニングを使って現在・過去のデータから将来の予測を行う「予測AI」を製品開発や経営判断に活用してきた企業と、生成AIブームを機にAIの効果的な使い方を模索する企業が混在する状況で、AI活用の最適解を見つけ出すのは非常に難易度の高いミッションだ。AI人材の確保もままならず、効果的な活用や現場への定着を実現できていない企業も多くはないだろう。
そこで本稿では、グローバルでビジネスを提供し、AIを使った意思決定について豊富な実績がある3社へのインタビューをお届けする。特にオンプレミス上でAIを活用する企業が増えていることを踏まえ、その意義や導入における課題、そして小規模からスタートしたい企業に向けた取り組みの進め方を明らかにしていく。
今回のインタビューにおいては、世界トップクラスの外資系ITディストリビューターで、近年は製品・サービス・ナレッジを組み合わせて提供するソリューションアグリゲーターとしても活躍するTD SYNNEXと、サーバー/ストレージなどハードウェアを中心に多様なAIソリューションを展開するデル・テクノロジーズ、さらにAIベンチャーとしてソフトウェア面で市場を牽引するH2O.aiの担当者が集結した。
AI市場の最新動向や、3社の協業によるオンプレミス型AIソリューションパッケージの概要と特徴について話を展開していきたい。
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(左から)
H2O. ai Data Scientist,Solution and Customer Success Engineering 嶌田 有希 氏
TD SYNNEX株式会社 アドバンスドソリューション部門 データ・アナリティクスSE部 イ ヘリン 氏
デル・テクノロジーズ株式会社 パートナー事業本部 パートナーアカウントマネージャー 稲垣 雄大 氏
デル・テクノロジーズ株式会社 パートナーSE部 石山 啓一 氏
企業のAI導入における課題とは
―クラウドではなくオンプレミス上でAIを活用したいと考える企業も増えてきています。こうした傾向をどのように捉えていますか?
デル・テクノロジーズ 石山氏:
今後はローカル環境、すなわちオンプレミスでのAI活用が重要になってくると考えています。というのも、AIを活用するうえで、もっとも重要となるのは企業内に蓄積されているデータの活用になるからです。予測AIでも生成AIでも、モデルの学習が必要なのは同じで、そこでは必ずデータが必要になります。特に経営判断の指針とするような使い方では、パブリックなデータではなく、社内のクリティカルなデータを使って学習させることが求められ、オンプレミス上にAI環境を構築することは非常に重要なファクターになると思います。
現状、AI活用を検討するとなると、大半の企業はパブリッククラウド上で提供されているAIサービスの導入を検討するかと思いますが、より深い洞察を得ようとすると、社内にある機微なデータを取り込む必要が出てきます。そうなると、データを社外に持ち出すパブリッククラウドのAIではなく、オンプレミスの基盤上でAIを動かすというアプローチを採用する企業も増えてくると考えています。
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デル・テクノロジーズ株式会社 パートナーSE部 石山 啓一 氏
デル・テクノロジーズ 稲垣氏:
オンプレミスでAI基盤を構築するとなった場合、ソリューションとしての規模が大きくなるという課題が出てきます。コスト面でAIの導入に踏み切れない企業も多いのではないでしょうか。
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デル・テクノロジーズ株式会社 パートナー事業本部 パートナーアカウントマネージャー 稲垣 雄大 氏
デル・テクノロジーズ 石山氏:
デジタルネイティブではない中小規模の企業では、危機感があってもどこから着手すればいいのかわからないケースが多いのも事実としてあります。
―オンプレミス上でAI活用を推進するうえで、企業はどのような課題に直面するのでしょうか。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
AIに関して最新技術が毎日のようにリリースされるなか、パートナー/エンドユーザー企業が、そのすべてをキャッチアップするのは非常に困難です。さらにAI活用を牽引するエンジニア不足も深刻化しており、ナレッジ(学習)やAI人材確保の面で課題を抱えている企業は多いと思います。また、エンドユーザー企業の意思決定者は、AIの必要性を理解しているものの、実際に導入を検討する際には、ROIはどうなのか、スピード感を持って適切にAI活用を推進していけるのか、導入後は社内で定着化するのかといった不安を抱えている方も少なくありません。
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TD SYNNEX株式会社 アドバンスドソリューション部門 ソリューションビジネス開発本部 データ・アナリティクスSE部 イ ヘリン 氏
H2O. ai 嶌田氏:
そもそもの組織文化、AI活用を推進するための体制作りや、経営層や現場を含めた全社的な理解といったところが課題になっているケースも多いと感じます。
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H2O. ai Data Scientist,Solution and Customer Success Engineering 嶌田 有希 氏
―企業におけるAI導入にあたっての課題を踏まえ、どのようなお取り組みをされていますか?
デル・テクノロジーズ 稲垣氏:
弊社では、AIの導入・活用に関するすべての要素を包含した概念である「Dell AI Factory」を提唱しており、ハードウェアだけでなく、基盤、ソフトウェア、ユースケースまで包括的に提供できるソリューションを展開しています。昨今は規模や業種を問わず、あらゆる企業がAI活用に取り組んでおり、この波に乗り遅れると競争力の維持は困難な状況です。そこで弊社としても、グローバルで培ってきた実績とノウハウを活かして、日本企業におけるAI活用を支援していきたいと考えています。
デル・テクノロジーズ 石山氏:
これまで、エンドユーザー企業に対してダイレクトにソリューションを届けてきましたが、技術の進歩が著しい現代では、地方を含めて、すべてのエンドユーザーに価値を届けるのが難しくなってきています。弊社では、『AIを皆様に使っていただくためには、パートナーとともにソリューションを展開していくことが必要だと考えています。今回の3社協業によるAIソリューションパッケージも、その一環といえます。
H2O. ai 嶌田氏:
弊社としては、使いやすいツールを提供することで、AIエンジニア不足の解消に寄与していきたいと考えており、今回の3社協業によるAIソリューションパッケージにおいても、予測AIのコアとなる「H2O Driverless AI」をスモールスタート可能なプランで提供しています。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
弊社はITディストリビューターですが、近年ではさまざまなパートナー様の製品を組み合わせて提供するソリューションアグリゲーターとしても事業を展開しています。皆様が話されたとおり、進化の早い現代のAI活用においては、ソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダーだけでソリューションを提供するのは困難です。そのなかで、世界トップクラスの外資系ITディストリビューターとして海外の製品を数多く取り扱っている弊社の強みを活かせると考え、「Destination AI」というパートナー企業のAIビジネスを支援するためのフレームワークを展開しています。今回のソリューションに関しても、このフレームワークの枠組みで進めています。
パートナー企業のAI活用を全方位で支援する「Destination AI」とは
―グローバル企業である3社の協業によるオンプレミス型AIソリューションパッケージの提供が開始されました。本ソリューションの開発の背景についてお聞かせください。
デル・テクノロジーズ 石山氏:
今回協業した3社は、すべてグローバルでビジネスを提供しており、AI活用に関してもAPACでの豊富な実績があります。そこでの知見やテクニカル的な情報などをベースに、国内向けのソリューションを提供しようというのが、今回の取り組みとなります。
H2O. ai 嶌田氏:
我々のようなスタートアップのソフトウェアベンダーは、販売チャネルや営業力といった面で弱い傾向があるため、グローバルのITディストリビューターやハードウェアベンダーとタッグを組んでAIソリューションを提供できるのは本当にありがたいことだと感じています。今回のソリューションに関しても、弊社では以前よりオンプレミスでの活用を意識した製品開発を続けており、本ソリューションの開発コンセプトに合致していたと考えています。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
グローバルでの強力なパートナーシップがあったからこそ、実現できたものだと考えています。
―TD SYNNEX様が展開されているDestination AIについて、ご説明いただけますか。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
AIビジネスを展開するうえでの各フローに沿って、段階に応じたパートナー支援を行うためのフレームワークです。AIについての知見に不安があるパートナー様には「認知度向上」の段階から支援し、市場動向調査やAIベンダーのレポート、導入事例などを提供いたします。次の段階では「プリセールス支援」として弊社独自の学習プラットフォームを提供し、セールスを進めるうえで必要な知識を学習できるようにしています。さらに「販売時のサポート」「販売後のサポート」も提供しており、グローバルな知見を活かしたコンサルティングやデモ、PoC、アセスメントなど多様な支援を行います。まさに『Destination』、AIの目的地に向けた険しい道のりを、各段階でサポートするためのフレームワークになっています。
―Destination AIの枠組みのなかで推進された今回の協業において、各社様ではどのような役割を担われているのでしょうか。
デル・テクノロジーズ 稲垣氏:
弊社が提唱しているDell AI Factoryと、TD SYNNEXさんのDestination AIは非常に親和性が高く、小規模でのスモールスタートから、データレイクハウスを用いた大規模基盤の活用まで、さまざまな取り組みをサポートします。弊社では、国内企業にDell AI Factoryの取り組みをソリューションカットでお見せする「AI Innovation Lab」を大手町のオフィスに開設しており、そこでは今回のソリューションのような、デル・テクノロジーズのAI基盤とAIベンダーのソフトウェアを組み合わせたソリューションを提示しています。本ラボにお越しいただければ、オンプレミスでの先進的かつ効果的なAIの使い方を体感いただけると思います。
デル・テクノロジーズ 石山氏:
今回のAIソリューションパッケージでは、規模に合わせて松竹梅の3構成を用意しており、まずは予測AIを軸としたDXの取り組みを小規模からスタートしたい企業に向けて「梅」構成のモデルを展開しています。このモデルでは「PowerEdge T360」というコンパクトなタワー型サーバーを提供しており、GPUなしのモデルも用意しています。そこにH2O.aiさんが提供するDriverless AIのライセンス提供を加え、さらにOSとなるUbuntuのインストールや設定主設定、PoCの支援までをTD SYNNEXさんが一気通貫でサポートすることで、低コストかつ短期間で予測AIの活用を開始できるソリューションに仕上がっています。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
弊社のオフィス内にPoC環境を用意しており、本格導入に向けた検証作業などもサポートします。
H2O. ai 嶌田氏:
スモールスタートできる「梅」構成のプランは予測AIの活用を想定したパッケージとなっており、弊社からは予測AIのコアとなるH2O Driverless AIを提供しています。2017年から提供を開始した製品で、いわゆるAutoML、機械学習の自動化ツールと呼ばれるなかでは世界トップ水準の精度と使い勝手を実現しています。機械学習モデル作成のプロセスを自動化できるため、AIリテラシーが高くない現場担当者でもAIを活用しやすい環境を提供できます。AIエンジニアやデータサイエンティストでも、複数のプロジェクトを併行して進められるようになるなど、自動化により得られるメリットは多岐にわたります。業務における予測AIの活用、及び定着はもちろん、AIエンジニアの労働生産性向上も図ることができると考えています。AI活用の取っかかりとして使っていただけるプランとなっており、まずは「梅」構成のプランで予測AIの活用からスタートし、その後は要望に応じて、生成AIの活用も見据えた構成の「竹」「松」プランへと拡張していただけます。
3社協業AIソリューションパッケージの導入が、オンプレミス環境でのAI活用の第一歩となる
―今回の3社協業によるAIソリューションパッケージの提供開始を踏まえた、Destination AIへの期待と今後の展望についてお聞かせください。
デル・テクノロジーズ 稲垣氏:
弊社はハードウェアベンダーとしての立ち位置がメインとなるため、ソリューションアグリゲーターとしてAIをパートナー/エンドユーザーに届けるところまでサポートいただけるTD SYNNEXさんとの協業を通じて、弊社製品を使っていただけることには大きな価値があると感じています。今後も、ハードウェアだけの提供ではなく、H2O.aiさんのソフトウェアや、TD SYNNEXさんのサポートを組み合わせて、お客様に向けて新たな価値の創出を目指していきたいと考えています。
デル・テクノロジーズ 石山氏:
今後AIを活用するうえで重要となる、企業内に蓄積されているデータの活用において、オンプレミス上にAI環境を構築することは非常に重要なファクターです。その取り組みの第一歩として、Destination AIの枠組みのなかで構築された今回のソリューションパッケージは非常に有効だと考えています。弊社ではスモールスタート可能なシステムから、大規模データレイクハウスまで幅広いポートフォリオを用意していますので、お気軽にご相談ください。
H2O. ai 嶌田氏:
ツールを導入するだけではダメというのが、AI活用の難しさだと思います。企業が自走できるところまで伴走することが大切で、そこではソフトウェア以外の基盤構築やPoC、AIスキルのトレーニングといった部分が必要となります。その意味でも、AI活用に必要な製品・サポートを組み合わせて提供できるDestination AIの重要性は高いと考えており、我々としてもAIベンダーとしてソフトウェア面で支援していきたいと思っています。
TD SYNNEX イ ヘリン氏:
今回の3社協業によるAIソリューションパッケージでは、スモールスタートを前提として、予測AIにフォーカスした「梅」構成のプランから提供を開始していますが、今後は生成AI活用、LLMの開発も視野に入れた大規模な構成も展開していく予定です。デル・テクノロジーズさんのDell Data Lakehouseもそうですが、H2O. aiさんではオンプレミス上で管理できることを前提にした生成AIソリューションを提供されており、「竹」「松」構成においてもシナジー効果が期待できます。Destination AIに関しては、他のベンダーとの協業も検討しております。AIの目的地に向けた道のりを、弊社がしっかりと伴走させていただきますので、オンプレミスでのAI活用を検討されていましたら、ぜひお声がけください。