Vライブコミュニケーションアプリ「IRIAM(イリアム)」を展開する株式会社IRIAMが、配信サーバーをAkamaiのクラウド基盤「Akamai Cloud」に移行して、劇的なコスト削減を実現した。アウトバウンド通信にかかる費用(エグレスコスト)を「ほぼゼロ」にしたうえで、インフラ全体に占めるエグレスコストも含めた配信サーバー全体のコストを3分の1から10分の1以下にまで削減。サーバー移行後もトラブルは一切なく、事業成長に大きく貢献している。

  • (左から) 株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 林大丘 氏、   ginokent氏、井早匠平 氏

    (左から)株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 林大丘 氏、 ginokent氏、井早匠平 氏

独自開発の通信方式でラグ0.1秒のライブ配信を実現

スマートフォン1つでコミュニティ型のライブ配信を行うことができるVライブコミュニケーションアプリ「IRIAM(イリアム)」を提供する株式会社IRIAM。2024年12月末時点で累計425万ダウンロードを突破、売上は年間80億円を超え、拡大するVtuber市場でも人気のアプリだ。

IRIAMの配信の最大の特徴は、数百~数万人の視聴者で構成される従来の「メディア型」と異なり、ライバーとリスナーが深く関わりあう「コミュニティ型」であることだ。対面で話しているかのような配信を実現するために、リアルタイム性の高い通信環境の整備に力を入れている。プロダクト開発部の林大丘氏はこう話す。

「ギフトやコメントなどのやりとりにおける通信ラグを最小化することは私たちにとって重要なミッションです。コメントへの返答に1秒以上かかると、生で会話しているような体験を得られなくなることから、IRIAMではラグを0.1秒に収めることを目指しています」(林氏)

  • 株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 林大丘 氏

    株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 林大丘 氏

ラグのない環境を実現するために、同社では「モーションライブ方式」と呼ばれる通信方式を独自に開発した。プロダクト開発部のginokent氏はこう説明する。

「モーションライブ方式は、映像データをやりとりするのではなく、ライバーの表情変化などのデータのみをやりとりしてスマホ側で映像として構成する技術です。送受信するデータ量を大幅に削減でき、リアルタイム性の高いコミュニケーション環境を提供できます」(ginokent氏)

サービス当初から実装しているというこの技術だが、事業成長とともにいくつかの課題を抱えるようになった。

アウトバウンド転送料がインフラコストの3分の1以上を占めることに

プロダクト開発部の井早匠平氏は、サービスの拡大とともに「ネットワークコストが最大の課題となった」と語る。

「ハイパースケーラーを用いて配信サービスを構築すると、アウトバンド通信で発生するエグレスコストがインフラコスト全体に占める割合は高くなる傾向があります。IRIAMでも2023年12月時点でインフラコストの3分の1以上をネットワークコストが占めている状況でした。モーションライブ方式によってデータ通信量を大幅に削減していても、ネットワークコストが支配的な状況が続いていたのです」(井早氏)

IRIAMでは、サービス開始当初からハイパースケーラーのクラウドを全面的に採用してきた。たとえば、IRIAMアプリのアプリケーションサーバーや関連するスケジュール処理、データベース処理にはクラウド事業者のマネージド Kubernetes やサーバーレスのコンテナ実行環境、マネージド RDBMS などのサービスを利用してきたという。課題となっていたネットワークコストは、配信サーバーとして利用していたVMサービスからのアウトバウンド通信によるものだった。

「配信サーバーは、音声とモーションデータなどをユーザーに配信するサーバーです。配信サーバー自体は仮想マシン上で稼働していて、サーバー1台に複数の配信を収容する構成です。配信サーバーはサービス全体の配信数に応じてスケールイン・アウトさせて利用効率を高めてはいるものの、サービスの成長に伴いユーザー数や配信数が増えると、それに比例してアウトバンド通信は増えてしまうという構造でした」(林氏)

ハイパースケーラーの仮想マシンをAkamai Cloudへ「そのまま移行」

こうした事情もあり、ネットワークコストの問題は「諦めざるをえないもの」と見ていたという。その認識を大きく転換したのがAkamaiのクラウド基盤「Akamai Cloud」だった。

「前身であるLinodeがVPS(仮想専用サーバー)サービスを提供していることは知っていましたが、Akamai がクラウドサービスを開始したタイミングで、改めてサービス内容を見直してみました。すると、私たちが抱えていた課題を解決できる最適な手段になるとわかりました。特に魅力的だったのが、ネットワーク利用料がサーバーのインスタンス利用料に含まれている独自の料金体系の存在です」(井早氏)

たとえば、2CPU 4GBメモリの「Linode 4GB」というサーバーインスタンスには、4TBのネットワーク転送料が無料で付与される。加えて、無料枠を超過した場合の追加のネットワーク転送料は1GBあたり0.005USドルで提供されているが、これはハイパースケーラーと比較してエグレスコストを90%以上削減できる破格の単価設定だ。

「試算してみると、配信サーバーが稼働している仮想マシンを Akamai Cloud の仮想マシンに置き換えるだけで、ネットワークコストを劇的に削減できることがわかりました。IRIAM においては、月あたりの1配信サーバーのアウトバウンド通信は4TB以内に収まるため、エントリークラスの『Linode 4 GB』に付与される無料枠でもすべてまかなうことができ、実質的に、アウトバウンド料金が無料で運用できることがわかったのです」(林氏)

さらに、既存のアーキテクチャを崩すことなく、配信サーバーだけを切り替えられることも大きなメリットだった。

もともと配信サーバーはKubernetes を使ったコンテナで構成していたが、2020 年頃に仮想マシンベースに切り替えたという。仮想サーバーベースにしたことで仕組みがシンプルになり、システムの基本的な構造を全く変えずに配信サーバーだけをAkamaiのクラウドに切り替えることができるようになった。

「配信サーバー台数を独自ロジックで柔軟に管理するため仮想マシンに変更しましたが、そのおかげで既存の構成を変えないまま移行することができました。Akamai のクラウドは、APIを使って配信サーバーの仮想マシンイメージを展開したり、停止したりできます。VPSなどの場合はどうしてもAPI対応が弱いところがありますが、Akamai のクラウドは、APIを使った管理にもしっかりと対応しています。既存の配信サーバー管理の仕組みを維持したまま、新しい環境で配信サーバーを展開し、移行を簡単に済ませることができました」(ginokent氏)

  • 株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ ginokent氏

    株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ ginokent 氏

リアルタイム性を維持したまま数千万円のコスト削減を実現

Akamai Cloudへの配信サーバーの移行プロジェクトは、2023年12月からスタート。移行期間は2024年6月から8月までの2ヵ月間で済んだという。

「移行までの2ヶ月間、実質的な作業負担はほとんどなかったという印象です。ただ実は、システムの切り替えは計画どおりではありませんでした。開発環境での動作確認が完了していたタイミングで、たまたま当時の本番環境のハイパースケーラーのクラウドで障害が発生し『スケジュールを前倒しして、試しに移行してみようか』と取り組んだものでした。急遽実施することになった移行ではありましたが、実際に切り替えてみたところ何のもトラブルもなく運用を開始することができ、切り戻しも発生せずに現在まで安定的に稼働しています」(ginokent氏)

「これまでのクラウドサービスネットワーク転送量は1ヵ月で約200TBで、利用料は1年間で数千万円規模でした。Akamai Cloud移行後は、ネットワーク転送量分の数千万円を削減できました。実は、ネットワーク転送量もサービスの成長とともに1ヵ月で約300TBまで増加しているのですが、その増加分についても追加のネットワークコストを支払うことなく、サーバーインスタンス内の無料枠を活用しています」(井早氏)

  • 株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 井早匠平 氏

    株式会社IRIAM プラットフォーム事業部 プロダクト開発部 エンジニアリング第六グループ 井早匠平 氏

Akamai のクラウドへの移行後のコスト削減効果はまさに劇的だった。インフラ全体に占めるネットワークコストを従前の3分の1からほぼゼロにまで圧縮、配信サーバー自体のコストも5割程度削減できたという。また、コスト削減だけでなく、さまざまな効果も生んでいる。

「CPUやメモリ使用率、ネットワーク利用量などもモニタリングしていますが、使用率は安定していますし、ネットワークの送信エラーもほぼ観測していません。」(林氏)

IRIAMでは、2024年11月から米国でサービスを開始しているが、安定性、信頼性の高さはグローバル展開でも生きているという。

「米国は地域によってインターネットの品質にばらつきがあることもありますが、Akamaiのシカゴのデータセンターを利用して、安定かつ品質の高いサービス提供を実現できています。サポートの手厚さやレスポンスの速さも魅力的です。APIの充実などハイパースケーラーからの移行性の高さ、グローバル展開のしやすさなどと合わせ、当社の今後のビジネス展開にとって大きな武器になると考えています」(ginokent氏)

独自のコミュニティ体験を提供するIRIAMのサービスを、Akamaiのクラウド基盤がこれからも支えていく。