業務内容が専門的であるために他部門の理解を得づらく、コストセンターと見られることも少なくない情報システム部門。だが、DXが広がる今、情シスこそがその要となる存在であることは間違いない。これを体現するのが、情シスと現場が一体となってDXを推進するフジテックだ。だが、同社の情シスもかつては請負型で受け身だったという。同社の情シスは、いかにして“攻めの情シス”へと転換したのか。
3月7日に開催されたTECH+セミナー「情シスの業務改革 2025 Mar. 2025年度を見据えた最後のアプデ」に、フジテック 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二氏が登壇。「攻めの情シスへの転換~情シスの体質改善方法を丸ごと伝授~」と題し、デジタル化が進む現代の情シスの在り方について、自身の経験を交えて説いた。
「挑戦し続ける企業文化」を構築・管理する
友岡氏は、松下電機産業(現パナソニック)、ファーストリテイリングを経てフジテックに入社し現在に至る。そんな友岡氏が絶賛するのがファーストリテイリングの情報処理の速度、そしてその後の意思決定と実行の速度だ。内側から見たからこそ、そのPDCAの速さに「これは他の会社は勝てない」と感じたという。
そのスピード感の根底にあるのが、ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長 柳井正氏の著書タイトルにもなっている言葉『一勝九敗』である。
「野球なら、打率が3割もあれば優秀だと言われます。それに対して『一勝九敗』は、打率1割でいいということ。失敗は成功のための学びなので、失敗ではなく挑戦なんですね。ファーストリテイリングの情シスはすごいのですが、なぜすごいかと言えば組織がすごいからだとも言えます」(友岡氏)
つまり、“攻め”の情シスを目指していくには、情シスだけでなく企業全体が、とにかく打席に立ち続ける、あきらめずにやり切る企業文化へと変革する必要があるというわけだ。では、それにはどのようにアプローチすればよいのだろうか。ここで同氏が紹介した書籍が『企業文化』(著者:E.H.シャイン氏/発行:白桃書房)の一節「文化とは、集団内で共有された暗黙知の過程である」だ。
「暗黙知の過程」は、言い換えれば「風土」である。書籍では「リーダーはこの暗黙知の過程に気づき、管理できなければならない。さもなければ、それらの過程があなたを管理するようになる」とされているという。つまり、企業文化は方向性を定めて築き、管理していかなければいけないものであり、友岡氏は「これが非常に重要」だと説いた。
「何をやっているかわからない組織」からの脱却
2014年にフジテックに入社した友岡氏が最初に取り組んだのが、情シスを「Howを考える組織からWhy/Whatを考える組織」に変えることだ。
当時、フジテックの情シス部門ではユーザー部門からシステム開発要請書を受け取って内容を確認し、見積もりや納期の確認を行っていた。要請はExcelにぎっしりまとめられており、全部対応するには2年以上かかる量があったという。
「一つずつ見ていくと、この帳票にこういう文を追加してくださいみたいな小さな改善が多いんです。情シス部門はそういう小さな改善がすごく得意なんですが、そうした改善ばかりやっていると、会社としては何をやっているかよくわからない組織だという評価になるんですね」(友岡氏)
ここで問題なのは、やっている内容を可視化できていないことではない。そもそも経営にかかわるような本質的な取り組みを行っていないことが問題なのだ。友岡氏は、システム開発提案を情シス部門が行う体制に舵を切った。まずはユーザー部門から口頭ないしメールなどで“困りごと”を教えてもらい、情シスが現場で状況を確認した上で何をするべきか一緒に考えていくようにしたのだ。
「情シスは今まで、『What』は外から来るもので自分たちが考えることではないと考えていました。それを『何をすべきか、なぜすべきか』というところも考える組織に変えていきました」(友岡氏)
とはいえ、組織は一朝一夕に変化できるものではない。友岡氏曰く「経営者やCIOには苦悩と忍耐の日々が続く」ので、その点は覚悟が必要だ。
DXを推進する上で最も重視すべきは何か
こうして変革を遂げたフジテックの情シスは、現在、現場と共にDXを推進している。DXについては、多くの企業が取り組みを進めていることだろう。特に関心を集めているのが生成AIの導入だが、友岡氏は「DXの目的は何ですか」と問いかける。
「目的があって、お客さまがいて、取り組みがあって、どういうツールを使いますか、となる。ここで生成AIが出てくるわけなんですね。生成AIをやるぞじゃないんですよ。『何のために』なんです」(友岡氏)
DXの目的は経営理念と整合性がとれているか、顧客は誰なのか。友岡氏は「お客さまが価値を実感する瞬間を探索し、その源泉は社内のどこにあるのかを探すことが重要」だと語る。例えば、エレベーター/エスカレーターの製造・販売を行うフジテックの掲げるDXの目的は「“安全・安心”の確保をスマートに進化させる」ことだ。顧客が安全・安心を感じる瞬間を作り出せるプロセスは、遠隔監視や現場での保守である。
「そこを本当にITの力でサポートできているかと言うと、私が入社した当時は十分ではないという思いがあったので、強化していきました。情シスを強くする際は、どういう取り組みにフォーカスするべきかというところがものすごく重要です」(友岡氏)
トライ&エラーのDX事例
友岡氏自身、入社以来さまざまな挑戦を繰り返してきたという。講演で紹介された事例の中から、2つ紹介しよう。
1度は中止されたが、復活を遂げた事例
2015年4月、友岡氏の下に、PBX(Private Branch eXchange:構内電話交換機)に関する相談が舞い込んだ。更新時期が近いが、更新には相当の費用がかかる。友岡氏はいずれクラウド化の時代が来ると考えていたが、当時国内には目ぼしいクラウドサービスが見当たらず、海外に目を向けたという。そこで行きついたのが、GoogleからスピンアウトしたSwitch.coだった。フジテックはGmailやGoogleドライブといったGoogleのサービスを活用しており、相性が良かったのだ。
米国ではサービス開始していたものの、日本では販売していなかったため友岡氏はサンフランシスコの本社を訪問。翌日からPoCをスタートするほど惚れ込んだが、レイテンシーと頻発する無音着信が問題視され、1カ月で検証は中止となった。
だがその後、Switch.coが「Dialpad」と社名を変え、ソフトバンクと提携して日本でサービスインする ことが決まる。伴って品質も改善されると聞いた友岡氏は迷わず導入し、最初のユーザー企業の一社となった。社内ではPC電話としてブランディングを行い、携帯電話支給のないバックオフィス用として置き換えた。講習会と徹底した現場支援を行い、普及を推進したのだという。
「(挑戦して)1度はダメでも、ダメな理由が解消されたら復活するので皆さんあきらめないでください。結果として、ソフトバンクがDialpadと組んでクラウドのテレコムサービスを始めたというプレスリリースが出た際、私のエンドースメントコメントも掲載されて社内的にも話題になり、情シスの認知度が上がりました」(友岡氏)
“先行投資”が功を奏した事例
続いて紹介されたのが、海外のエレベーターのIoT化に関する事例である。2015年ごろ、国内ではエレベーターの遠隔監視が広く普及していたが、海外においては投資対効果が出づらいこともあり、普及が進んでいなかったのだという。加えて海外の業務を統制できるような仕組みが整備されておらず、普及を推進できる部門もなかった。だが、友岡氏は「IoTの世界は絶対に来る。現場の人がやりたいと言ってから作るのでは遅い」と考え、投資的な意味も込めてプラットフォームを作ることを決めた。
「社内にオーナーシップを取る部門がないということは、抵抗勢力がないということなので、勝手にできるんですよね。僕はこれを“ハッキング”と呼んでいて、『これは社内でハッキングできるな』と思いました」(友岡氏)
当時立ち上がったばかりのSORACOMの通信サービスと、AWSの基盤を利用し、日本からフルリモートで構築することで海外法人も低コストで導入できるプラットフォームを実現。検証にあたっては実際にシンガポールの複数の顧客の下に赴き、11拠点で接続実験を行った。さまざまなデータをリアルタイムで取得できることが分かったところで検証は終了。そこから先の展開はなかったが、「いつか必要になったときにすぐスタートできるプラットフォームを作る」という目的はほぼ達成された。
その後、転機は訪れた。接続実験の際にプラットフォームを導入していた現場のオーナーが来日したため、社内で遠隔監視のデモを見せることになったのだ。リアルタイムで現場の状況を見た顧客は大いに感動したという。
「営業部門は、お客さまが感動するとびっくりするんですよね。それまではあまり関心がなくても、お客さまが関心を持つと皆も関心を持つんです」
また、時が経つと、人件費の高騰なども手伝って遠隔監視の需要が高まり、サービス事業拡大に向けた可能性の一つとしてもフォーカスされるようになった。最終的にはコロナ禍によるロックダウンが後押しとなり、大きく利用が広がったという。
情シスとして、CTOとして、何を意識するか
友岡氏は日々、「情報システム部門はイノベーターであれ!」と言っているという。情シスは常に一番最初に新しいサービスや技術を試し、アーリーアダプターに向けレコメンドしていく存在であるべきだからだ。
ただし、キャズムを超えた後は自然に普及が広がるので、それ以上は追わない。次のステップは、生産性の高い上位2割のグループに提供すべき“道具”を選ぶことだ。
「残りの8割に配慮して簡単なツールを用意してしまうと、上位2割はより使いやすい別のツール(シャドーIT)に飛びつきかねません。8割は放置するわけではく、使いこなすのに時間がかかるのであまり急ぐ必要がないというイメージです」(友岡氏)
もう一つ、友岡氏が日ごろ口にする言葉が「現場に溶ける」だ。現場に行けば、課題が山積している。どのITツールが有効かはわからないし、すぐには解決できない。だが、常にそれらを心に留めておくことで、どこかの時点で課題とITツールが紐付き、解決の糸口が見える日が来るという。
「現場の見える場所、現場から顔が見える場所へIT部員の現住所を移動しましょう、ということをやっています」(友岡氏)
重要なのは経営、現場、ITの三位一体の状態をいかにつくるかだ。IT部門のマネジャーは現場とITの間に横軸を通すが、経営側からの縦軸を通すのはCIOの仕事である。
友岡氏は三位一体の状態を作っていく上で、社内外のコミュニティへの参加が有効だと強調。そうしたコミュニティへの参加や新しい試みへの挑戦をきちんと評価すること、一人一人に業務の品質に対する責任やコスト意識を持たせることの重要性などについて語り、「企業ごとに“良い企業風土”があると思うので、それに合わせて、今日お話しした中から採用できるアイデアがあることを願っている」と講演を締めくくった。
[PR]提供:TECH+広告企画





