2月某日、ローコード開発プラットフォーム「Claris FileMaker」を使い、約3時間で業務アプリを作成できる体験型の無料セミナーが開催された。この「Claris FileMaker体験セミナー」は、Claris FileMakerを提供するApple Inc. の子会社、Clarisが全国各地で定期的に実施しているもので、ローコードツールを触ったことがない人でも気軽に参加できるセミナーだ。「こんなことまでできるのか!」「これなら使えそう!」と多くの驚きがあった本セミナーのもようをお届けする。

  • (写真)セミナーの様子

注目を集めるローコードツール、課題は「使ってみないと良さがわからない」

プログラミングに関する知識や経験がなくとも、紙やExcelで行っている業務をアプリ化できる、ローコード・ノーコード開発ツール。自社の業務に合ったアプリを内製化できるということで、近年注目されている。なかでも、誕生から40年の歴史があり、世界で数多くの国際機関、行政、交通機関、教育機関、医療施設等で利用され、日本国内でも20万以上の組織で採用されているのが「Claris FileMaker (以下、FileMaker)」※だ。

※Claris FileMakerは、専門的なプログラム言語を習得しなくとも業務システムを開発できるローコード開発ツール。外部のシステム業者を挟むことなく、現場のことを理解している社員自らが自分たちの使いやすいシステムを作成できる。非常にユニークな高速開発環境により、法改正や運用ルール変更など、ビジネス環境の変化に対応し、システムを改良し続けることも可能。システム内製化により、社内の知識継承や標準化が進み、エンジニア人材育成にもつながるメリットもある。さらに、Apple Inc. の世界標準の最新のセキュリティを装備したプラットフォームであるので、情報システム担当者にとってはセキュリティリスクを減らすこともできる。

とはいえ、これまでシステム内製化を一度も経験していない組織の場合には、「実際に自分たちにもできるのか? 使ってみないとわからない」として、導入に踏み切れない企業も多いのではないだろうか。

FileMaker体験セミナーの最大の特色は、実際の業務でも使えるアプリをハンズオン形式で作っていくことにある。体験セミナーに参加してみたところ、その独自の機能性と使い勝手の良さに多くの驚きがあり、具体的な活用イメージが得られる体験となった。

開発初心者でも安心して参加できる

FileMaker体験セミナーの講師を務めるのは、Clarisパートナー企業に所属する経験豊富なFileMakerのプロ開発者だ。ローコード・ノーコード開発とは言いながらも、FileMakerはプロコードにも対応するため、日本国内には約170社の開発パートナー企業がある。

今回講師を務めた増冨 由到氏もFileMakerの開発運用経験があるため、ローコードツールの導入や開発でつまずきやすいポイントを踏まえて丁寧にリードしてくれる。また、会場には講師のほかに数名のスタッフがおり、基本的な操作から開発まで、わからない部分が発生した際にすぐに駆けつけサポートをしてくれる点も非常に心強かった。開発経験がなく、さらにMacやiPadを使い慣れていない筆者でも、スタッフのサポートのおかげで遅れを取らずについていくことができた。

  • 会場にはMacとiPadが用意されているため、手ぶらで参加できる。

    会場にはMacとiPadが用意されているため、手ぶらで参加できる。

では、実際にどのようにアプリ(カスタムApp)を作るのか。講師から手ほどきを受けながらセミナー参加者が作っていくのが「業務報告アプリ」だ。

業務報告アプリは、たとえば、工場における生産設備の定期点検や、店舗での日報作成、建設現場での修理報告などをイメージするとわかりやすいだろう。現場で紙に手書きしたものをExcelに打ち込んでいたり、デジタルカメラやスマートフォンで撮影した写真を手作業で報告書に貼り付けたりしているのであれば、それをFileMakerに刷新するだけで、業務効率化や業務改善につながる。DXの取り組みの中でも最初に手がける施策の一つになりやすく、セミナーで学んだノウハウと実際に作ったカスタムAppを自社に持ち帰って実地で試すのも、DXに向けての良い機会にもなるだろう。

まずはFileMakerへの理解を深める

本セミナーは、いきなり作業にとりかかるのではなく、3つのパートに分けられ順を追って進められた。はじめに「本日習得できるスキルと知識」のパートで講師からFileMakerの基本情報の解説が行われた。その上で、これから作るアプリについてまずはイメージを持てるように「完成品を触ってみよう」のパートが設けられ、そして「実際に作ってみよう」のパートで開発体験を行う流れとなっている。しっかりと予備知識を得られた状態で作業に入るため、スムーズに開発に進めるのがポイントだ。

1つ目の「本日習得できるスキルと知識」では、ゴールを意識してアプリを作る重要性が説かれた。実際に講師からは、意識するポイントとして

  • 必要な時に必要な場所で最新情報にアクセスできる
  • 現場のニーズにマッチしたソリューションを実現できる
  • 処理を自動化し現場に空いた時間を生み出せる

などが挙げられた。また後述するが、今回のアプリでは、iPadのカメラで写真を撮影してレポートに添付したり、バーコードを読み取ってレポートを検索したりする機能を作る。こうした機能を簡単に組み込める拡張性や柔軟性の高さも、FileMakerの大きな特長としてこのパートで紹介された。

「完成品を触ってみよう」のパートでは、参加者に用意されたMacとiPadを使いながら完成したアプリを操作し、これから作るアプリのイメージを膨らませた。

  • 完成したアプリ画面のキャプチャ

FileMaker は、MacやWindowsで動作するClaris FileMaker Pro を用いてアプリ本体を作成し、それをClaris FileMaker Server※ にアップロードして、Mac や Windows、iPhone、iPad、Webブラウザで利用するのが基本的な使い方だ。

※今回利用したのは AWS(クラウド)上にあるオンプレミス版のFileMaker Server だったが、Clarisが提供するClaris FileMaker Cloud を使えば、セキュリティも担保されており、安心して外出先からインターネット経由でカスタムAppにアクセスすることもできる。 なお、FileMaker Cloud は、AppleのISO/IEC 27001およびISO/IEC 27018の認証が適用されている。
https://support.apple.com/ja-jp/guide/certifications/apc34d2c0468b/web

FileMakerは大きく分けてデータベース、レイアウト作成、ビジネスロジックの3層構造で成り立っている。

データベースは、Excelなどからデータをインポートして作ることができ、ゼロから作ることもできる。複数のデータベースの項目同士を関連付ける(リレーションシップを設定する)際は、画面上でマウスをドラッグ操作するだけでよい。たとえば、顧客マスタの「顧客No」と、報告書の「顧客No」を関連付けることで、データを相互参照できるようになる。

  • 開発画面のキャプチャ

レイアウト作成は、ユーザーがiPadで操作する画面そのものを作る。レイアウト作成のための機能が豊富に用意されており、どの情報を表示させ、ボタンを押した際にどのようなアクションを起こすかなどを決めながら、アプリ全体のデザインやユーザー体験を設計していく。 ビジネスロジックでは、iPadで入力した文字や写真を、帳票としてPDFにして送信するなど、自動処理を設定することも可能だ。

今回作成した業務報告アプリは、メーカーが顧客先で点検を行う際の報告書管理システムという位置づけだったが、セミナーで体験するExcelからのデータインポート、iPadの音声入力やバーコード検索、写真撮影などは、どのような現場でも求められるものである。ユーザーにとって使いやすいアプリの要件を、身をもって学ぶことができるわけだ。

上記の機能を確認し、いよいよアプリ開発に入ることになる。

実際にFileMakerでアプリ開発を体験!

「実際に作ってみよう」のパートでは、参加者それぞれが手を動かしながら、フィールドの設定、ボタンのデザイン、ボタンを押したときの処理、報告書を作成する手順、カメラ撮影など、開発手順や方法を追体験していった。

作業を進めるなかで「こんなことまでできるのか」と驚いたのが、バーコード読み取り機能や、iPadでの写真撮影機能の実装だ。実装といっても難しいことは何もなく、画面レイアウトの過程で、ボタンを選んで配置し、そこに処理を割り当てるだけだ。

たとえば、バーコード読み取り機能の場合は、ボタンに使いたいアイコンを選んで設置したい場所にドラッグして配置する。そのボタンに、バーコード読み取りの処理を選んで割り当てるだけでよい。わずか数回のクリックで完了する。

  • 画面レイアウトの開発画面のキャプチャ

こうした機能はFileMakerの標準機能で実装できる。また、ボタンに使うアイコンについては、標準のもの以外にもユーザー向けに無償でアイコン素材集が提供されている

さらに驚いたのが、先ほど「処理」と説明したユニークな自動化機能だ。FileMakerでは自動化をスクリプトというプログラムコードで行う。コードといっても、処理で行う手続きを1ステップずつ日本語で記述したもので、あらかじめ用意されたものを選ぶだけでよいため、ExcelのマクロやVBAなどと比べてもはるかに簡単に扱うことができる。英語でのプログラミングが苦手な人でも、これなら馴染みやすいだろう。

  • スクリプト入力画面キャプチャ

iPad のカメラを起動し、指定した解像度で写真を撮影し、その画像をフィールドに保存する機能も同様にわずか数クリックで実装が完了した。そのためのスクリプトはたったの1行※だ。

※もし Swiftを使ってアプリ開発を行い、iOSのカメラを起動し、バックカメラを使用して解像度「中」で撮影する機能を、AVCaptureSession を使用して実装する場合には 60行ほどのコードを書く必要がある。(図参照)
  • コードのサンプルと日本語スクリプトのキャプチャ

    左はXcodeでカメラを制御するための60行以上に及ぶコードのサンプル、右は体験セミナーで実際に使われたFileMaker の日本語スクリプト。たった1行でそのコードの機能を実現している

また、[If] や [Loop]などの制御や、変数、計算式、関数、AI連携なども使うこともできるため、複雑な分岐条件を持つプログラムを作成することも可能だ。

セミナーでの体験が、自社のDXや業務効率化を前進させる

このように、FileMaker体験セミナーでは、データベースとアプリ開発の基本的な考え方から、アプリ内製化が業務にもたらすメリット、FileMakerを使った開発やFileMaker Serverへの展開、改修などを、実際に手を動かしながら体験していくことができる。

セミナーを通して「使ってみないとわからない」という不安を解消することができ、「せっかくシステムを作っても使われない」※という問題も、FileMakerの特徴を知ることで解決できるようになる。

※実際にシステムが稼働した後でも、カスタムAppを利用する現場のユーザーが必要とする機能は、追加費用や高度な技術なしで実現することが多い。たとえば、さまざまなフォーマットの帳票の作成、外部システムとのデータ連携、インポートやエクスポートの自動化、QRコード、iBeacon、 NFCの読み取り(iPhone /iPad)、手書き署名の保存など。これらの実務でも幅広く使える機能を適宜追加・改修していくことで、「使える」システムに育てていくことができる。

また、FileMakerを提供するClarisはユーザーの声を製品に反映する取り組みに熱心であり、日本企業からの要望で製品に実装した機能も多い。検索時の日本語ゆらぎへの対応(「バッグ」と「バック」、「ベッド」と「ベット」など)、和暦対応(西暦-和暦変換は書式設定のプルダウンで選ぶだけ)、ふりがな(漢字から自動生成)、縦書き対応(ハガキや封筒だけでなく賞状などにも対応)、表形式の表示、医薬品向けGS1コード対応、セキュリティ機能強化などがその例として挙げられる。このような日本の商慣習を理解した体制はツールを使う側としてとてもありがたく、安心して使える理由の一つになり得る。

約3時間の体験セミナーを通して、実際にFileMakerを使って開発を行ったことにより、多くの発見や学びを得ることができた。自ら触ってみることで活用のイメージもグッと湧き、こうしたアハ体験の重要性について身をもって感じることとなった。

FileMaker体験セミナーは全国各地で開催されており、無料で受講することができる。DXや業務効率化に向けて一歩進もうとしている方、ローコード・ノーコードツールを検討している方に、まずは本セミナーで自らの手で開発を体験することをおすすめしたい。

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