企業にとっていまやWebサイトは単なる“顔”をはるかに超える重要アイテムだ。しかし、更新や修正作業を外注すると時間やコストの無駄が発生する一方、内製化を試みても人的リソースの制約が壁となるのが現状。そこで注目されるのがノーコードツールである。プログラミング知識がない社員でも更新や修正が可能となり、デジタル人材不足の昨今、多くの企業で導入が進んでいる。本記事では、グループ会社である清水建設の担当者と相談しながらWix.com Japanが提供するノーコードWeb制作ツール「Wix エンタープライズ」を採用し、Webサイトリニューアルで多彩な成果を生んだ日本ファブテックの事例を紹介する。
洗練されていない旧サイトのデザインと業務負荷の悩み
日本ファブテックは、清水建設のグループ会社として、鉄骨構造物の製造や橋梁建設などを手掛ける企業である。そんな同社で、鉄構事業本部のKAPシステム部は、鉄骨構造物専用CAD/CAMシステム「KAP システム」の販売・開発・運用を担う部門だ。KAPはもともと自社の鉄骨製作省力化のため開発したものだが、“ファブリケーター(鉄工所)がそのノウハウを詰め込んで作ったシステム”との評判を集めて全国で利用されるようになり、清水建設でもKAPをベースとして、BIMツール『Revit』のアドインである「KAP for Revit」を開発し、社内活用している。
同部のシステム営業課では、本業として新規顧客へのKAPの営業活動や既存顧客へのサポートに携わる傍ら、KAPの紹介や新機能リリース時の情報発信を行うWebサイトのブログ記事更新も手掛けている。
ところがそのWebサイトに課題があったと、KAP システム部長の播磨裕敏氏が明かす。 「KAPのWebサイトは、3年前まで担当していた前任者が制作したものをそのまま引き継いだのですが、立ち上げから時間が経っていたため、デザインや色合いがやや時代に合わなくなり、一目で“映えない”と感じることが最大の問題点でした」
また、運用体制も十分ではなかったという。前任者から引き継いだ後、Webサイトの更新は営業職である川筋紳平氏が担当していた。しかし、同氏の本業は営業であるため、サイト運用に十分な時間を割くことが難しく、新機能がリリースされるタイミングに合わせて、2~3週に1度ブログ記事を更新する程度にとどまっていた。
「前任者から引き継いで以来、サイトの更新は数年間にわたり一人で対応してきました。ビジネスの観点からカスタマイズの必要性を感じつつも、頼れるリソースが不足しており、サイト全体の構造を変更するスキルにも限りがある状況でした」(川筋氏)
ビジネスにインパクトをもたらすリニューアルに乗り出す
KAP システムやKAP for Revitのインフラ管理で以前から播磨氏、川筋氏と協働していた清水建設 生産技術本部 BIM推進部の笹川和彦氏は、当時の状況を「KAP システムは業界でも屈指の性能を持つ非常に優れたソフトなのですが、当時の製品サイトはデザインが古く、それに加えて更新情報も探しにくい。KAP システムのブランディングという観点からも、“もったいないな”といつも感じていました」と回顧する。
播磨氏も、Webサイトを洗練されたデザインにリニューアルし、かつ運用体制もより効率的にして川筋氏らの業務負荷を減らしたいと考えていたという。「KAP システムに関する部署は社内でも完全に別部門扱いで、Webサイトに関する作業も自部門で手掛ける必要がありました。とはいっても当部門には知識もノウハウもありませんから、何かヒントを得られればと、ITに詳しい笹川さんに協力を依頼したのです」と振り返る。
「Wix エンタープライズ」との出会いと親会社・子会社の協働
2023年の末に、播磨氏、川筋氏に笹川氏も交え、KAP システムのWebサイトリニューアルに向けて、 Webサイト戦略の見直しプロジェクトが始まった。要件は、運用するシステム営業課の人材リソースが限られ、多くの場合は川筋氏一人で運用しなければならないことから、やはり負荷が低い製品が求められた。そこで、更新・修正に際しノーコードで作業を行うことができるというのが大きな要素になった。
加えて、問い合わせで苦労していた経験から、サポート体制がしっかりした製品へのニーズも強かった。さらには、導入以前の段階でWebサイトリニューアルの費用対効果は検討が難しいため、できるだけ導入・運用コストを下げられる製品も求めた。
こうした要件で、半年ほどかけて3人で議論を重ね、4、5製品を比較したものの、なかなか決め手がなく、「中だるみのような状況になっていました」(笹川氏)という。ちょうどそんな時期の2024年4月下旬、笹川氏は東京ビッグサイトで開催された展示会「Japan IT Week 春」に赴き、その会場で「Wix エンタープライズ」に出会った。
「Wixというと個人や中小企業向けツールのイメージが強かったのですが、Wix.com Japanのブースで、エンタープライズ向けサービスも提供していることを知ったのです」(笹川氏)
Wixは、ノーコードローコード市場では老舗のWebサイト制作サービスであるが、近年ではその機能が充実し、大企業でも活用できるレベルに進化している。笹川氏から「Wix エンタープライズ」の話を聞いた川筋氏は、「ノーコードで更新できるため作業が簡単で負荷がかからないところがまず1つ目のポイント。さらに、エンタープライズレベルのセキュティが担保されていること。そして、そこにWix.com Japanの専任者による手厚いサポートが付くなどビジネス向けサービスが充実していることが、『Wix エンタープライズ』に決定した理由でした」と語る。
専任サポートについては「問い合わせ対応の質や利便性が確実に上がると期待できるうえ、将来的に担当者を増やす、あるいは交代するといった状況でも専任サポートがあれば安心して任せられます。つまり、社内担当者が代わっても継続していける社内体制を実現できるという点が大きかったですね」と川筋氏は話す。
属人化を排した運用体制を専任サポートがしっかり支える
展示会からまもなく「Wix エンタープライズ」の採用を決断し、夏頃からサイトリニューアルに向けた作業をスタートした。まずは新たなWebサイトの大枠を外部に制作してもらい、以前とはガラリと変わった洗練されたデザインが出来上がる。そのうえで旧サイトに掲載していた記事をすべて、見栄えも意識し画像などを差し替えて、新サイトに手作業で移行した。「せっかく新しくするのだから、“映え”にはこだわりました」と播磨氏。手作業ゆえ作業量自体は多かったものの、印象としてはかなりスムーズに進んだと川筋氏は証言する。
KAPの新規Webサイトは、2024年9月に公開となった。その後も新たな記事の追加は川筋氏が行い、システム営業課の社員が画像を自動的にスライド表示させるといったカスタマイズや修正を随時加えている。「作業を担当する社員は、ノーコードなので直感的で簡単に取り組めると言っていました」と川筋氏。あるとき、川筋氏が出張前に、出張から帰るまでにあるカスタマイズを済ませておくよう指示を出したところ、なんと出張へ出かける前に数時間で作業が終わっていたという。播磨氏は選定時点から「Wix エンタープライズ」にテンプレートや素材が豊富に用意されている点を魅力に感じており、公開後の更新においてもその強みを最大限活かせていると話す。
そして笹川氏も「属人化はやはり問題。誰もが手軽に更新・修正できるようになったことで、サステナブルな環境が実現しています」と評価する。
また、専任サポートに関しては、公開時の独自ドメイン接続やSEOなどについて丁寧なサポートを得られたと川筋氏。質問に対してもスピーディーに返答がくるため、問い合わせ時の利便性は格段に上がっているという。加えて、運用開始に際しては専任サポートからの提案で「Wix エンタープライズ」の基本を学ぶ講習会が3回開かれたこともあり、不安なく運用できているとのことだ。
社内からの好反響を受け、攻めのWebサイト運用に近づく
「Wix エンタープライズ」の導入成果としては、上述のように運用・更新が格段に手軽になったことに加えて、Webサイトへのアクセス数はコンスタントに増えており、さらには社内で新たな動きが生まれ始めていることがあげられる。「鉄骨に携わる部門の社員からアピールしたい点を続々提案され、その提案が対応に困るほどやってきて、うれしい悲鳴になっています。これは、今回リニューアルしたサイトがブランディングやメッセージ発信の場として、現場から信頼されている証拠だと思います。旧サイトではそのようなことはまったくなかったので、サイトのリニューアルにより社内に新たな風を巻き起こしている印象です」と川筋氏は語る。
また播磨氏も、「川筋氏を見ていると、社内から多くの反応が寄せられ、それをきっかけに他のWebサイトを参考にしたり、新しい取り組みに挑戦しようとする意欲が高まっていることが一目でわかります。それも大きな成果の一つだと感じています」と語っている。実際そのモチベーションの高まりを背景に、川筋氏は新規ユーザー獲得や既存ユーザーの満足度向上を目指し、KAPのヘルプページ拡充、操作画面の動画説明などの要素追加を検討し始めているとのことだ。
笹川氏は「『Wix エンタープライズ』でWebサイトが一新されたことで、さまざまな面に良い影響が出ています。それは非常に喜ばしいことですので、サステナブルな体制のもとPDCAをさらにうまく回し、一歩進んでスパイラルアップまで高められれば、想定を超える成功になると思います」と話し、期待感を示した。日本ファブテックからのサポートに対する期待は非常に高い。Wix.com Japanとしてもサポート体制を日々充実させており、ユーザー企業の期待に全力で応えていく。