さまざまな業界で導入が進む生成AIだが、生成AIの基本的な知識から、経営層の理解や技術・スキルを持ったエンジニアの確保、環境構築、ソリューションの実装、セキュリティの担保など、活用にあたって課題は山積している。自社だけですべての課題をクリアし、具体的な成果を生み出すことは容易ではない。
菱洋エレクトロは、企業の生成AIによるイノベーション実現を支援するサービスとして「RYOYO AI Techmate Program」の提供を開始した。本稿では、2024年12月11日に法人向けイベントとして開催された「RYOYO AI Techmate Programフォローアップセミナー」の内容をレポートする。
「探求」から「本番稼働」のフェーズに突入した生成AI活用を支えるNVIDIAのプラットフォーム戦略
はじめに、プラットフォーム戦略で生成AI市場を牽引するNVIDIAの取り組みについて、エヌビディア合同会社 パートナー事業部 事業部長 岩永 秀紀氏より、生成AIの現状と未来の話が展開された。
2022年後半のChatGPT登場を機に、ビジネスや生活における生成AIの活用が一気に進んだと岩永氏。2023年を生成AIの可能性を探るためPoCを開始した「探求」の年、そして2024年を予算の確保やインフラの構築を含め、生成AIのビジネス活用が本格化した「本番稼働」の年と位置付ける。
「日本国内においても、ようやく生成AIが盛り上がってきて、AIに最適化されたデータセンターや、日本企業・組織が自社データの利活用を日本国内のデータセンターで運用するソブリンAIなど、AI活用のインフラ整備が進みつつあります。今回、菱洋エレクトロが発表した「RYOYO AI Techmate Program」も、こうした流れに結びついたものと捉えています」(岩永氏)
NVIDIAと菱洋エレクトロとのパートナーシップは2005年から始まり、現在も強固な関係を継続していると岩永氏は言う。デジタルツインやロボティクスなどAI活用が期待されている領域で、日本企業とNVIDIAのパートナーシップによりビジネスチャンスが広がっていくと今後を展望し、「本番稼働」へとなかなか移行できない日本国内の生成AI活用における計算リソース、ソフトウェア、人材育成などの課題を、菱洋エレクトロの取り組みにより解決できることへの期待感を述べた。
各分野をリードするテック企業が集結し、生成AIのビジネス活用を支援するプログラムを展開
続いて、菱洋エレクトロ ソリューション事業本部 副事業本部長の青木 良行氏より、企業向け生成AI導入支援サポートプログラム「RYOYO AI Techmate Program」の概要と特徴が紹介された。
青木氏によると、日本国内における生成AI活用は、いまだ社内業務の効率化が中心で、製品やサービスに組み込んで顧客に価値を提供するといった領域にまで辿りつけていないケースが多いという。生成AIのビジネス活用を阻む障壁として「投資のハードル」「人的リソース」「技術的スキル」の3つをあげる。
「数億から数十億円の初期投資が必要なことは大きな障壁で、検証により費用対効果を明示できなければ予算を確保することは困難です。また社内に生成AIに精通した人的リソースが足りないことも課題の1つで、これは現場だけでなく、生成AI活用の経営ノウハウ、すなわち経営層のリソース不足も含まれます。エンジニアのスキル不足も課題で、この3つが事業部の生成AI導入を妨げる足かせになっていると考えています。これらを解消するためのプログラムがRYOYO AI Techmate Programです。弊社とNVIDIA、さらに各パートナー企業の協業により、技術開発から人材育成・技術支援、パートナーマッチングまでトータルでサポートするプログラムとなっています」(青木氏)
RYOYO AI Techmate Programは、検証用のインフラとなる「RYOYO Test Lab」、最適なパートナー企業をマッチングする「RYOYO Techmate制度」、生成AIの人材育成、技術支援トレーニングを提供する「人材育成・技術支援」の3つを柱に構成されているという。
「RYOYO Test Labでは、弊社内に構築した生成AIのテスト環境を無料で利用することができ、費用対効果を検証いただけます。RYOYO Techmate制度は、各領域で知見と実績豊富なパートナー企業と協業することで、企業それぞれの生成AIビジネスをお手伝いさせていただく制度です。人材育成・技術支援については、先ほどあげた人的リソース、技術的スキルの課題を解決するためのプログラムで、これらを通じて企業の生成AI導入を統合的に支援していきます」とサービスの内容を解説する。
同サービスでは、「検証プラン」「学習プラン」「共同研究プラン」という3つのプランが提供される。検証プランでは、築地にある菱洋エレクトロ本社のRYOYO Test Labに構築された環境で、AIモデルの精度、性能テストをはじめ、スケジューラーやアプリケーションの検証など、企業の生成AI活用に向けたPoCの実施と導入支援が受けられる。
学習プランは、戦略編・技術編・実践編に分かれており、生成AIについての基礎知識から、AI人材の育成支援、組織構築、AIプロジェクトの進め方までを、座学やワークショップ、案件伴走型など、さまざまなアプローチで学習できる。
共同研究プランは、AI活用による企業の事業成長を、立案からPoC開発、スケールまで伴走支援するカスタムプランとなっており、企業それぞれのニーズや環境に合わせた支援が受けられるという。
「各プランでは、弊社だけでなくRYOYO AI Techmate Programのパートナー企業も参画し、企業の悩みを解決する質の高いサービスを提供していきます。今後の展望として、冒頭で岩永氏が話された、デジタルツインやロボティクス領域の生成AI活用を支援できるプログラムも、NVIDIAやパートナー企業と協業の話を進めています」(青木氏)
RYOYO AI Techmate Programに参画するパートナー企業が果たす役割とは
セミナー後半では、「RYOYO AI Techmate Program」のパートナー企業として企業のAI活用を支援する株式会社レトリバ、モルゲンロット株式会社、株式会社ゲットワークスの3社による講演が展開された。
レトリバ 代表取締役社長の田口 琢也氏は「レトリバはRYOYO AI Techmate Programのなかで、AI人材の育成と技術支援、特にソフトウェア領域における技術支援を担当しています」と、同プログラムにおける自社の担う役割について言及し、講演を開始した。
「レトリバは、約18年にわたって機械学習×自然言語処理の領域に取り組み続けている会社です。ChatGPTの登場以降、自然言語処理の活用範囲は一気に広がっており。弊社においても、生成AIのビジネス活用をテーマに、さまざまな取り組みを進めています」(田口氏)
田口氏は、生成AIの活用には、社内知見と生成AIを融合する「Retrieval Augmented Generation(RAG)」という技術が必要になると話を続ける。
「生成AIのビジネス活用では、企業内に蓄積された知見を、いかにコンピューターが扱いやすい形で生成AIのLLM(大規模言語モデル)に渡し、ユーザーが求める回答を返せるようにするかが重要になります。こうした仕組みを構築するには「RAG」という技術が有効です。RAGのプロセスには多くの自然言語処理技術が使われており、同技術の知見を持つ弊社ではRAGソリューション「YOSHINAサーチ」を開発し、企業の生成AI活用を支援しています」(田口氏)
レトリバでは「AI人材」「モデルの選定と改善」「ソリューションの実装」「高度なセキュリティ対策」という4つの観点から、企業の生成AI活用における課題解決に向けたソリューションを展開しているという。AI人材の育成からプロジェクト推進の直接的サポートまで、事業成長のパートナーとして生成AI活用のあらゆるフェーズで支援していくとし、そのプラットフォームとしてNVIDIAの「NVIDIA AI Enterprise(NVAIE)」に注目していると語る。
「NVAIE上で生成AIの開発・デプロイを行うメリットとしては「簡単にスタートできる」「簡単にさまざまなものが作れる」「推論速度が早い」「安全性が高く、運用コストが低い」の4つがあげられます。今回発表されたRYOYO AI Techmate Programにおいても、NVAIEのハンズオン支援、検証レポート作成をはじめ、NVAIEのAI人材育成支援、導入/技術支援(RAG構築・個別技術検証など)やYOSHINAサーチの提供などを行っています。最終的には人材育成支援から企画段階(導入戦略コンサルティング)、運用フェーズまで一気通貫で支援するサービスの提供を予定しています」(田口氏)
NVIDIAのGPU(AIプラットフォーム)開発技術と菱洋エレクトロのGPU提供実績をレトリバのAI活用知見と掛け合わせたシナジー効果で、日本企業のAI活用を加速させていきたいと意気込み、田口氏は講演を締めくくった。
計算インフラを提供しているモルゲンロットのセッションでは、 企画室 室長の小山 彩織氏が登壇。「RYOYO AI Techmate Programにおいては、RYOYO Test Labのテスト環境に、ジョブスケジューリング機能をGUI化し、コンテナ管理を容易にするHPC向けジョブ管理サービス「M:Arthur」を提供しています」と、パートナー企業としての役割を語り、生成AIを実行する計算環境として同社が提供しているGPUクラウドサービス「Cloud Bouquet」について話を展開した。
「Cloud Bouquet」は仮想インスタンスとして計算環境を提供し、GPUを1枚から必要分だけ利用することが可能で、最短1時間から利用できるなど、利便性と価格面で優位性があると解説。実際の計算事例を紹介するとともに、専任スタッフが環境構築を支援するため安心してサービスをご利用いただけますと語った。
ゲットワークス 事業統括部 部長の林 竜太郎氏は、「弊社ではコンテナ型データセンターの設計・構築・運用を主な業務としており、RYOYO AI Techmate Programを利用される企業様向けに、サーバー稼働環境、ファシリティの部分で協業しております。各企業の生成AI開発、ビジネス化、ひいては日本国内のIT基盤拡充に貢献したい」と語る。
2000年代初頭からデータセンターに関わり、ホスティング運営などを行ってきた同社。当初は他社のデータセンターを使用していたが、1ラックの電力量限界やコスト面から自社でのデータセンター構築を計画する。その拡張性の高さに将来性を感じ、コンテナ型に注目して設計と開発を開始し、2014年に1号機が完成。震災復興や再生可能エネルギーに紐づく事業展開を進める一方でGPUを用いた暗号資産マイニングの需要が急増し、膨大な電力供給体制を敷設するなかで生成AIブームが到来。大容量の電力供給と数多くの実証実験に基づくノウハウを用いてAI・HPCサーバーに特化したデータセンター開発を進める。2014年から開始した用水や井水を用いた冷却技術を活用し、現在の水冷・液冷環境にもスムーズに対応しているという。
講演では、同社が展開しているコンテナ型データセンター事業が紹介され、水冷用コンテナ型データセンターにおける効率的な水冷環境の構築など、最新の取り組みについても解説。より高度な生成AI活用が容易に実現する未来を垣間見ることができた。
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