多様なシーンでの活用を想定したX線手荷物自動検査装置の開発に携わり、AI画像処理周りを担当
駐車場や高速道路など全国7,000カ所以上に導入されている車番認識製品(ナンバープレート認識システム)をはじめ、最先端の画像処理技術を用いたソリューションで社会インフラの発展に貢献してきたアイテック株式会社(EyeTech)。パッケージ販売から受託開発まで幅広い事業を手がける同社では、近年のビジネストレンドである「AI」を活用した画像処理システムの研究・開発も積極的に進めている。
アイテックのAI画像処理技術は、鉄道・道路など交通インフラや駅務機器を中心にビジネスを展開している日本信号株式会社(NIPPON SIGNAL)の「X線手荷物自動検査装置」にも活かされている。アイテック 代表取締役社長の辻󠄀 洋祐 氏は、同製品の開発に関わった経緯をこう語る。
「X線手荷物自動検査装置は2018年から開発がスタートした長期的なプロジェクトになります。当社は以前より日本信号様が手がける製品の受託開発を請け負っており、その実績を評価されて本プロジェクトにおいてもパートナーに選定され、主に画像処理関連のシステム開発を行っています。直接の選定要因ではありませんが、当社の関連会社が歯科電子カルテシステムの開発に携わっており、レントゲン(X線)画像を扱う機会があったことが、開発においてプラスに働いたと考えています」(辻氏)
日本信号のX線手荷物自動検査装置は、X線を用いて刃物や爆発物などの危険物を自動検知する装置で、空港の手荷物検査場のように一点ずつの荷物を、時間をかけて検査できる場所とは異なり、駅やイベント会場など多くの人流を素早くスクリーニングしたいシーンでの利用を想定している。このため、開発にあたっては高スループットでスピーディに処理できることが求められたと、本プロジェクトでAIアルゴリズムの開発を担当したアイテック 技術開発部 シニアテクニカルエンジニアの林 達郎 氏は語る。
「X線手荷物自動検査装置という言葉を聞くと空港を思い浮かべる方も多いと思いますが、空港で運用している装置はスループットより検知性能が重視されており、たとえば鉄道の改札口で使おうとすると遅すぎて実用に耐えられないケースも出てきます。本プロジェクトでは、駅構内やイベント施設など、さまざまな場所で使える装置ということだったので、処理速度を重視して開発を進めました」(林氏)
インテル® OpenVINO™ ツールキットの採用で、GPUを組み込めない実環境でのパフォーマンスを担保
省スペースと高スループットを両立し、駅やイベント会場などで利用者の安全を担保するという製品コンセプトで開発が進められた本プロジェクトでは、ハードウェアとソフトウェアの両面で試行錯誤が繰り返された。なかでもアイテックが担当したAI画像処理の部分では、検出精度を下げることなく多様な環境で運用できる処理速度を出すことが求められており、最新技術の活用が不可欠だったという。また、低コストで導入できることも重視されており、当初はGPUの活用を前提としたディープラーニングを採用する構想はなかったと林氏。大きな転機としてインテルが提供する「インテル® OpenVINO™ ツールキット」の採用をあげる。
「本プロジェクトは2018年からスタートしましたが、当時はディープラーニングが普及してきたころで、その後オブジェクト検出(物体検出)の技術が出てきて検出力についてはある程度満足できるものになりました。ただその当時は2ステージ型の物体検出が主流で処理が重く、実環境での利用に耐えうるスピードが担保できませんでした。どうしようかと悩んでいたところ、「YOLO v3」という物体検知アルゴリズムを見つけて、これならば速度と性能のバランスが取れると判断して採用しました。その後、GPUを用いてAI学習を行っていたのですが、実環境ではスペース的にもコスト的にも高性能GPUの組み込みは困難です。そこで実環境での推論処理はCPUでとなるのですが、もともとGPU在りきで作っているため満足できるスピードが得られない。こうした状況のなかで、インテルが無償提供しているインテル® OpenVINO™ ツールキットの存在を知り、試してみることにしました」(林氏)
エッジでの推論アプリケーション開発を大幅に効率化するソリューションとして開発されたインテル® OpenVINO™ ツールキットは、インテル製CPUと組み合わせることでディープラーニング解析による推論の最適化・効率化を実現する。実際に検証した結果、CPUでの推論処理で満足できるスループットが得られたことで採用を決定したと林氏は当時を振り返る。
「TensorFlowやPyTorchなどのフレームワークを用いた学習モデルもCPUで動かすことはできますが、パフォーマンスはかなり落ちます。それに対してインテル® OpenVINO™ ツールキットはインテル製CPUの命令に特化しているので、かなり速く処理できます。はじめて試したときはかなり感動しました。基本的に独学で開発していたのですが、説明会などに参加しているうちにインテルとの窓口もでき、いまは困ったときに相談できる関係が築けています」(林氏)
辻氏も、GPUを組み込めない実環境で高スループットを担保できるインテル® OpenVINO ツールキットを高く評価。「近年は公共交通機関に危険物が持ち込まれるインシデントも増えており、カバンの中で重なり合った状態から危険物を見つけ出せる高い検出精度が求められていました。利用者に負担をかけずに検査を行うことを考えると、CPUだけで高いパフォーマンスを実現するインテル® OpenVINO™ ツールキットの採用はまさに必然でした」と話す。
高スループットな手荷物検査を実現した経験とノウハウは、今後の製品開発に活かされていく
OpenVINO ツールキットのパフォーマンスに手応えを感じたアイテックは、日本信号とハードウェア構成を調整。インテル製CPUを装置に組み込むことを前提に開発が進められた。「CPU性能が高ければ推論処理も速くなりますが、その分価格が上がるのでバランスを取るのに苦労しました」と林氏は開発時の苦労に言及する。
実際、手荷物の中で重なり合う多種多様な危険物を、あらゆる角度でも検出するための学習モデル作成は非常に難易度の高いミッションとなる。判定に時間がかかれば利用者のストレス増大を招くため、精度だけでなく速度も担保しなければならない。「刃物など実物のデータからモデルを作成しているため、検出精度には自信があります。包丁や鉈、鎌といった刃物を学習用に揃えて製品のクオリティ向上を図った日本信号さんの本気度がうかがえる完成度になったと思います」と辻氏。アイテックと関係が深い放射線専門医にもアドバイスをもらうなど、エンジニアと識者の英知が結集した製品に仕上がっていると力を込める。
こうして実環境での高精度かつ高速な推論処理に対応したX線手荷物自動検査装置は、すでに多くのシーンで活用されている。本プロジェクトを踏まえた今後の展望について、辻氏と林氏は次のように語る。
「国際会議やアミューズメント施設などにも導入されており、実際に装置を見たことがある方も多いかと思います。手荷物(カバン)からモノを出さずに高スループットで検査できる技術には、当社の経験とノウハウが活かされていますが、インテル® OpenVINO™ ツールキットがなければ達成できなかったと思います。現在も検出精度や速度の向上、検出可能な対象物の拡充を図るために改善を続けており、今後は海外展開も含め、より幅広く活用していただけることを期待しています」(辻氏)
「CPUを最新モデルにするだけで、アルゴリズムやプログラムの変更なしでパフォーマンス向上を図れるのはインテル® OpenVINO™ ツールキットの大きなメリットです。実際、開発当初のCPUを最新のものに入れ替えてみたところ、推論時間が半分以下になったという検証結果も出ています。さらにインテル® OpenVINO™ ツールキット 自体もバージョンアップが進み、プロジェクト初期と比べて使いやすくなっているのもポイントです。また昨今では生成AIがブームとなりモデルの大規模化が進んでいます。それに伴いモデルを圧縮できる量子化技術なども出てきていて、最小限の性能低下で軽量化が図れるようになってきました。インテル® OpenVINO™ ツールキットはこうした技術にも対応しているので、今後の製品開発にも効果的に活用していきたいと考えています」(林氏)
最先端の画像処理技術で社会インフラの発展を支えるアイテックと、AI活用の裾野を拡大するソリューションとして進化を続けるインテル® OpenVINO™ ツールキット。その相乗効果で生み出される製品・サービスには、今後も注視していく必要がありそうだ。
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