人事や会計領域に比べると、テクノロジー活用に遅れが見られることもある法務領域。しかし、いまリーガルテックとして急速に取り組みが進んでいる。そんななか、ビジネス・フォーラム事務局 × TECH+ EXPO 2024 Nov. for Leaders「DX Frontline 〜いま何を変革するのか〜」の講演にMNTSQ 代表取締役 板谷隆平氏が登壇。「『経営に資する法務』実現のためのDX 〜法務が経営に伴走するために必要なデジタル環境とは〜」と題して、法務部門が抱えている課題や、課題解決のアプローチ、リーガルテック採用と法務DX推進のポイントを解説した。
LLMと相性がよくリーガルテックの活用が進む法務領域
法務でのテクノロジー活用が大きく進展しようとしている。大量の文書を扱う法務領域は、大規模言語モデル(LLM)などの生成AIとも相性がよい。従来のAIでは難しかった自然言語処理などを含めてリーガルテックを活用したDXの取り組みが加速しているのだ。
現役の弁護士であり、MNTSQ 代表取締役を務める板谷隆平氏は「守りの法務を経営視点に引き上げ、法務部の業務効率化を進めながら、攻めの法務を実現していくことが重要です。法務は、DXの成果が最も出やすい部署の1つです」と強調する。
では、リーガルテックの活用とDX実現のためにはどのように取り組みを進めればよいのか。板谷氏はまず、日本の法務の現状について、大きく3つの課題があると説明した。
1つめは「攻めの法務に至っていない」ことだ。
「法務は事業の速度に貢献すべきファンクションです。契約交渉、法務相談は欠かせませんが、そこをボトルネックにせず、リードタイムを縮減し、ビジネスをより高速に進めていくことが必要です。また、不確実性が高い世の中にあってもそのリスクをコントロールして事業を前進させることが重要です」(板谷氏)
2つめは「守りの法務が限定的である」ことだ。
「守りの法務とは、法務的なリスクの観点から事業にストップをかける役割のことです。ただ、法務部員ごとにその知見が属人化していたり、職人芸化したりしています。全社的な経営視点でのリスク管理、データ分析ができていないケースが多いです」(板谷氏)
3つめは「人材難の深刻化」だ。
「法務人材全体の数が減っており、人材の流動化も進んでいます。一方で、法務が対応すべき領域は広がっています」(板谷氏)
経営に資する法務を実現するための「3つの打ち手」
では、こうした課題はどのように解消していけばよいのか。板谷氏は、それぞれの課題を深堀しながら、解決方法を提示した。
まず「攻めの法務」については、経営との距離を縮めることが重要だという。
「日本の法務は経営から遠い位置に位置づけられています。イギリスのトップ100企業でCLO(Chief Legal Officer)を設置している割合は7割弱ですが、日本では2割強にとどまっているとの調査があります。また、アメリカではCEOに直接レポートしている法務のトップは8割を超えますが、日本では2割を切っているとの調査もあります。日本の法務は経営にアドバイスできる地位を確立できていないのです」(板谷氏)
実際に意見を求められる頻度も低い水準にとどまっている。法務が経営陣から意見を求められる頻度が週に数回以上の企業は米国が7割弱であるのに対し日本は2割強。また、重要案件に対して法務部が内容の変更ができるかについて、米国は100%であるのに対し、日本は約4割だという。経営から距離が遠いことに加え、発言力も相対的に低いという実態が浮かび上がる。
また、「守りの法務」が限定的である背景には、契約情報の管理上の課題があるという。
「個人の記憶に頼って業務が行われている、自分以外の担当案件の情報を参考にできる状態にないという問題があります。また、社内に法務が把握していない契約書がある、契約ごとのリスク分析、モニタリングができていないといったケースも多いです」(板谷氏)
そこで重要になってくるのが、攻めの法務を実現するための「事業部門とのコラボレーションによる業務の高度化」、守りの法務を実現するための「データ基盤の構築によるガバナンスの向上」、人材難に立ち向かうための「法務部内の業務効率化」という3つの打ち手となる。この打ち手を講じるうえで重要な役割を果たすのがテクノロジーだ。
リーガルテックを導入しても成果につながらないケースも
しかし、テクノロジーの活用にも課題はある。
「法務部門はテクノロジーの活用が最も遅れている部門の1つです。例えば、契約書のひな形はイントラネットに保存されていて、法務部門とのやりとりはメールかチャットです。法務部門は案件を受け付けたあと表計算ソフトなどで管理しています。部門内でのやりとりはまたメールで行います。やりとりのなかでいろいろなナレッジが生まれますが、ナレッジはまた別のストレージサービスに手動でアップロードしたり、しなかったりしています。さらに事業部にレスポンスするときはまたメールに戻ります。締結するときは電子契約サービスが乱立しており、そのなかにデータが閉じ込められます。紙もあります。このようにメール、ストレージ、電子契約にバラバラになり、その管理も表計算ソフトなどで台帳管理して、更新や廃棄の管理もできていない状況です」(板谷氏)
こうしたなかリーガルテックを導入する企業も増えているが、導入が業務の一部に対してのみ行われ、より複雑化するケースも多いという。
「例えば、AIレビューを導入してレビュープロセスはAIで効率化できたかもしれませんが、ドラフトや締結、契約管理はまた別のサービスなので、さらにデータがバラバラになります。また、事業部側でサービスを導入して効率化できても、法務部に相談したときに返答がくるリードタイムが見えないということも起こります。法務部は早くレスポンスをしたいのに、定型的な作業や業務の属人化で逼迫したままなのです。さらに経営からは契約リスクの全体像が見えず、リスク分析ができないことも多いです」(板谷氏)
そうしたなかでポイントになるのが、契約のあらゆる業務、法務のあらゆる業務を包括的なサービスを利用して行うことだ。
「こうした課題を解消するためにリーガルテックベンターも改良を重ねてきました。近年は、ドラフト、審査相談、締結、データ集約、台帳管理、更新/廃棄といったすべてのプロセスをオールインワンでサポートできる世界観に近づいてきました」(板谷氏)
経営、事業部、法務がつながるプラットフォームが重要
会計・人事領域では、テクノロジーを活用して、分散化したデータの集約をしたり、情報を共有してコミュニケーションを迅速化したりする取り組みが進んでいる。法務領域においても、ようやくそうしたテクノロジーの活用が本格化しつつあるのだ。
「メールやストレージ、表計算ソフトなどによる台帳管理、データーベースなどを1つのリーガルテックサービスで管理します。また、リスクマネジメントや的確な交渉戦略、案件に対する適材適所のアサインなど、基幹システムと連携しながらデータを活用し、事業に対して戦略的な貢献が可能になってきました。さらに、AIを活用することで、リスクを自動判別し、リスクが低い定型的案件は事業部が担当し、リスクが高く法務チェックが必要な案件は法務へエスカレーションするといった活用も可能になるでしょう」(板谷氏)
そのうえで板谷氏は、全社的なDXに取り組む場合、法務部門のなかだけ、業務プロセスの一部だけで使うようなリーガルテックは避ける必要があるとアドバイスする。
「リーガルテックを採用する際に重要なポイントは、経営、事業部、法務がつながるプラットフォームであることです。また、データを自然に収集・活用できるオペレーションの設計ができること、事業速度やガバナンスへのインパクトが見込めること、法律事務所など社外のナレッジとの接続ができることもポイントとなります」(板谷氏)
そうしたリーガルテックサービスとしてMNTSQが提供するのが「MNTSQ CLM」だ。ナレッジ共有機能で事業部とのコラボレーションを強化するとともに、日本最高峰の法律事務所のノウハウを共有できる。また、これまで把握できていなかった案件や経緯情報の見える化、属人性の排除、リスク対応への準備が可能だ。さらに、人材難に対応できる自動化機能や重要案件にフォーカスするための機能を提供する。
最後に板谷氏は次のようにまとめ、講演を締めくくった。
「攻めの法務を実現するためには事業部門と法務部門がよりコラボレーションできるプラットフォームが必要です。また、このプラットフォームで守りの法務の視点を経営視点に引き上げ、全社的な法務リスクを可視化することが重要です。さらに、これらを実現するために、法務部の業務効率化が不可欠です」(板谷氏)
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