1958年に設立された東京硝子器械株式会社は、試験管やビーカー、フラスコなどの実験用ガラス器具をはじめ研究用試薬や、汎用機器、分析・測定機器等の器械類、研究設備にいたるまで、幅広い理化学関連製品を取り扱う総合卸売商社である。由緒ある同社においてもIT化の波は押し寄せており、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)の拡充やECサイトの利用促進が急務とされてきた。そのため、老朽化により現行業務との乖離が進む基幹システムの再構築が必要と考えた同社は、2021年2月に基幹システムの刷新プロジェクトを始動。Salesforceのプラットフォーム上で稼働するクラウド型の販売管理システム「Fujitsu GLOVIA OM」を採用し、基幹業務のモダナイゼーションを推進した。

  • 東京硝子器械株式会社 経営管理部 情報システム課 課長 島村 徹 氏

    東京硝子器械株式会社 経営管理部 情報システム課 課長 島村 徹 氏

外注による期待に沿わない改修を回避、結果生じた現行業務との乖離

基幹システムの刷新プロジェクトを推進した経営管理部 情報システム課 課長の島村徹氏は、これまでの基幹システムで顕在化していた課題について次のように語る。

「約20年前に統合ERPパッケージを導入しましたが、IT戦略を進めていくうえでボトルネックとなっていました。単純なシステムの老朽化に伴う運用上の懸念だけでなく、細かな改修をやってこなかったが故に、現行業務との解離が生じていたことが刷新を決めた要因です」(島村氏)

新しく立ち上げたWebサイトとの連携など、大がかりな改修は行っていたものの、業務プロセスの変更に対応する小さな改修を行ってこなかったことで課題が山積していた。

「ベンダーに依頼してERPパッケージ製品の導入・カスタマイズを行った経緯もあり、細かな改修を行う際にも外部に依頼する必要がありました。しかし、改修の依頼をして提示される費用と期間が、当社の想定水準を大幅に超えることが多く、外部に依頼して改修を行うのではなく、細かな業務の変化ならば運用でカバーするというアプローチが常態化していました」と島村氏は語る。

このため、今後のIT戦略を見据えた島村氏は、新たなシステムの選定にあたって、自社で細かなカスタマイズができるシステムであることを重視したという。

「ビジネス要件の変化に対応するという観点では、システムを構築・運用する方法は、大きく分けて2つの考え方があります。一つは、予算と時間をかけてほぼ完璧なシステムを構築し、その後もベンダーに費用を払って保守・改修していく方法です。もう一つは、既存のパッケージを導入し、自社の業務をパッケージに合わせていく方法です。当社のビジネス環境やITコストに関する考え方を踏まえると、どちらも採用したくありませんでした。そこで考えたのは、ベンダー任せではなく、パッケージを導入して内製でカスタマイズをしていくという方針です」(島村氏)

島村氏は本プロジェクトが始動する前から、Salesforceのプラットフォーム上で稼働するクラウド型基幹システムの導入を視野に入れていたという。その理由は、Salesforceが多くの企業に導入されている信頼性の高さと、カスタマイズ性に優れていることだった。

「以前Salesforceの開発に携わった経験があり、自社でカスタマイズできる点を考慮すると、Salesforceのプラットフォームは非常に魅力的でした。そのため基幹システムの選定に先行してSalesforceプラットフォームを検証するために、商品情報を管理する商品総合DBをSalesforceで開発しました」(島村氏)

商品総合DBは問題なく稼働したため、Salesforce上で利用できる基幹システムを導入するという方針に基づき、プロジェクトのスタートにこぎ着けることができたという。

自社でフロント部分を、ベンダーのテラスカイはバックエンド担当の共創スタイル

こうして新たな基幹システムの検討を始めた同社は、テラスカイのセミナーで「Fujitsu GLOVIA OM」(以下GLOVIA OM)と出合う。 選定の理由について「Salesforceのプラットフォームを選んだ時点で、GLOVIA OMの導入は決まったようなものでした。当時は、Salesforce上で稼働し導入実績もある販売管理システムはありませんでした」と島村氏は語る。パートナーとなるシステムベンダーについても、GLOVIA OMの導入実績があり、Salesforce関連のSIでも豊富な知見を持つテラスカイに決定した。

プロジェクトの始動当初は、基幹システム開発として一般的なウォーターフォール型の開発手法を検討していたという。しかし、コスト面の課題や前述した内製化の意向もあり方針を転換。バックエンド、すなわち販売管理システムのコアな部分をテラスカイが担当し、UIなどの業務の変化によってカスタマイズが必要となるフロント部分を東京硝子器械の開発チームが担当するという、2チーム制での開発が進められた。

「基幹システムの刷新という大規模プロジェクトのため、最初は要件を固めてウォーターフォール型で考えていたのですが、詳細設計フェーズ以降は請負契約から準委任契約に変更してもらい、2チーム体制でアジャイル的な開発で進めることにしました。まずはGLOVIA OMのベースとなる部分があり、その上にテラスカイがカスタマイズしたパッケージが乗り、さらにその上に当社が開発したパッケージが乗るといった3層構造をイメージして進めていきました。これにより、それぞれが強みを生かしながらより個々の関心領域にフォーカスした開発を並行して進めて行くことができました」(島村氏)

開発のチーム体制を解説する東京硝子器械株式会社 島村 徹 氏

また、同社の基幹システムは物流センター側のシステムやECサイトと連携しており、今回の刷新にあたって基幹システムと周辺システムを接続する仕組みを開発する必要もあった。ここについては、テラスカイの提案によりクラウド型のデータ連携サービス「DataSpider Servista」で対応することになった。

島村氏は「今後の変化に対応するためにも、Salesforceの基幹システムは外部システムへの依存関係を排除するようにしました。外部システムとの連携を進めるうえで、必要なフォーマット変換などをEAIサーバー側で対応できるDataSpider Servistaの導入は最適だと思いました。今後、さまざまなシステムとの連携を行う際も、非常に重要な役割を果たしてくれると期待しています」とテラスカイの提案を高く評価する。

自社エンジニアの成長にもつながった共創開発の効果

テラスカイと東京硝子器械の2チーム制で進められた本プロジェクトは、設計フェーズから開発フェーズまで、毎日の朝会で意思疎通を図ったり、チャットやチケット管理システムを活用したりするなど、両社が生産性の向上に努めた。綿密なコミュニケーションで進捗情報をこまめに共有し、大きな開発プロジェクトでは定例であるがベンダー側にとっては負担が大きい、報告用の資料作成を最小限にした。その結果、キックオフから約3年後となる2024年1月にカットオーバーし、同年5月より本格運用を開始している。

稼働以降、ユーザーからは機能追加や改善要望などが徐々に増えている。 「『自分たちの仕事を効率化するためにこうしてほしい』という声があがってきたことは、意識面での変革も踏まえて良い成果です。これまでの基幹システムでは〝システムに業務を合わせる〟運用が求められており、カスタマイズで業務効率を上げるという考え方が出てきませんでしたから」(島村氏)

IT戦略上、重視したシステム内製化も順調な成果を見せている。簡単な要望であれば迅速に対応し、週に1~2回のバージョンアップを実施できているという。

プロジェクトを通じた開発チームの成長も大きな成果だ。「当社はほとんどがSalesforceの開発経験が少ないメンバーで、Salesforceの導入実績豊富なテラスカイのサポートを得られたことは、エンジニアとしての成長につながったと感じます。3年間に及ぶ基幹システム開発を、自らの知見を伸ばす場として活かせたことは、当社のエンジニアはもちろん、両社にとって大きな経験だったのではないでしょうか」(島村氏)

また、システム刷新の効果として、5月に移転した新物流センターとのシステム連携も無事開始し、現状少しずつ取引先とのEDIによる連携も増えることでユーザーにとってのメリットに繋がっている。

プロジェクトの成果を語る東京硝子器械株式会社 島村 徹 氏

本プロジェクトの成果を踏まえ、東京硝子器械ではGLOVIA OMで構築した基幹システムの強化や改修を継続的に行っていく予定だ。今後はECサイトや周辺システムとの連携も深めていき、収益向上に貢献できる仕組みを構築したいという。

「基幹システムというのは会社の中核を成すもので、できるだけ長期にわたって使い続けられることが理想です。しかし、我々のような中規模の事業会社にとっては、より良いシステムとして保持するために逐次ベンダーに改修を依頼するのは、ハードルが高い。コストをかけて改修しても、改修をしない替わりに運用でカバーしても、必ずどこかで行き詰まりますから、内製化という手段は非常に有効なアプローチです。開発やカスタマイズが容易なSalesforceのプラットフォームと、その上で稼働するGLOVIA OMを採用した今回のプロジェクトは、内製化を検討する企業にとって参考に値するものだと思います」(島村氏)

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