BYOD化の基本方針に合わせて
PC教室のクラウド化に着手

東京(神楽坂/葛飾)と千葉(野田)、北海道(長万部)に4つのキャンパスを構える東京理科大学。近年ではデータサイエンスプログラムを立ち上げ、AI/IoTといった先端技術と従来の専門分野を融合させた授業を展開し、ITを活用して社会の発展に貢献できる人材の育成を進めている。同大学では、以前から「大学DX(デジタルトランスフォーメーション)」を積極的に推進してきたが、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大、いわゆるコロナ禍よりその流れが一気に加速。従来の板書主体の講義から、デジタル技術を活用した新しい教育スタイルへの変革を目指した教育DXを本格化させた。その1つが、学内実習室環境(以下、PC教室)のクラウド化プロジェクトだ。今回の取り組みで技術面の取りまとめを務めた同大学の吉田孝将氏(情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任)は、プロジェクトが発足した経緯についてこう語る。

  • 東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任 吉田 孝将氏

    東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 主任 吉田 孝将氏

「本学ではBYOD化(Bring Your Own Device化)を推進するという基本方針があり、既存のPC教室で行っていた授業を学生所有のパソコンで行うための環境構築を検討していました。ただ、学生ごとにWindowsやMacなどの仕様が異なるパソコンを使って、PC教室と同等の授業が成立するのかという懸念があり、まずはPC教室の環境を仮想化するというアプローチで、BYOD化にともなう課題の解決に取り組みました」。

こうしてBYOD化の推進という大学の基本方針に沿った取り組みとして始動した本プロジェクトだが、コロナ禍によってPC教室での授業が難しくなったことで重要度が向上。優先度の高いミッションとして、利用するクラウドサービスの選定に着手する。システム部を統括する石黒寛行氏(情報システム部 部長)は「BYOD化の推進を開始した段階では、PC教室の運営における課題解決までは考えていませんでした。コロナ禍への対応で、BYOD化と併行してPC教室の仮想化(クラウド化)を進めることで、結果的にコストやメンテナンスといったPC教室の課題解決につなげられました」と、プロジェクトの意図を語る。同大学では、Microsoft AzureやMicrosoft 365といったマイクロソフト製品を以前から利用しており、これらの既存環境と親和性の高いクラウド型のVDIサービス「Azure Virtual Desktop(以下、AVD)」が有力な候補となった。

  • 東京理科大学 情報システム部 部長 石黒 寛行氏

    東京理科大学 情報システム部 部長 石黒 寛行氏

「PC教室のクラウド化にあたっては、PC教室内のパソコンにリモート接続するという選択肢もありましたが、本学が現在所有しているOSやソフトウェアのライセンスではリモート利用が行えず、実現が困難でした。こうした課題を解決するための方法をマイクロソフトに相談したところ、現在のライセンスを活かせるAVDの導入を提案していただきました」と吉田氏。AVDの導入を決めた要因として「Windows 10が動作し、さらに複数ユーザーで同時に利用できるマルチセッションをサポートしていたこと」を挙げる。

AVDとCitrix Cloudを組み合わせて
学外からのアクセスに多要素認証を導入

ところが、2020年10月にPoCを実施したところ、AVD単体の導入では学外からのアクセスに関して望んでいた結果が得られず計画は停滞。そこで日鉄ソリューションズを新たなパートナーとしてシステム構成を再検討し、2021年10月にはAVDとCitrix Cloudを組み合わせて二度目のPoCを実施。AVDを単体導入した際の課題を解決できることを確認し、採用を決定したと小原功之氏(情報システム部 情報システム課 ITサポート室)は語る。

  • 東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 小原 功之氏

    東京理科大学 情報システム部 情報システム課 ITサポート室 小原 功之氏

「本学では以前からAzure Active Directory (以下、Azure AD)を利用しており、AVDの導入は認証システムをAzure ADに一本化できるというメリットがあったのですが、オンプレミス環境にあるActive Directory(以下、AD)と連携させるためには、本学で導入していないAzure AD Connectを利用しなければならないという問題がありました。そこでCitrix Cloudを組み合わせたAVD with Citrix CloudでPoCを実施。Azure AD ConnectがなくてもADとの連携が行え、さらにユーザーがAVDを使っている裏側でマスターイメージを修正して、翌日反映させるといったAVD単体ではできない柔軟な運用が可能になるなど、さまざまなメリットが得られることを確認し、AVD with Citrix Cloudの採用を決定しました。また、日鉄ソリューションズは各製品をしっかりと比較した上で実現可能性について回答し、難しい場合は代替策を提示する姿勢だったため、信頼できるパートナーだと感じました」。

吉田氏も「AVD単体のPoCでは、前述のとおり本学への要件を十分に満たしておらず、かつ、本学としては学内外の利用場所に応じて多要素認証をかけることが必須だったため、日鉄ソリューションズ提案のCitrix Cloudと組み合わせた構成を検討しました」と語り、AVD with Citrix Cloudにより学外からは多要素認証を利用してアクセス、学内からは多要素認証をかけずにアクセスという、2つの入口を設けた構成を実現できたと、Citrix Cloudを組み合わせるメリットを強調する。

日鉄ソリューションズの手厚いサポートによりセキュアで安定した環境を短期間で構築、構築から運用までワンストップでサービス提供

こうしてAVD with Citrix Cloudにより、PC教室のクラウド化が推進される。日鉄ソリューションズをはじめとしたパートナー各社の密接なサポートを受けながらシステム構築が進められた。「リモートで接続する際の多要素認証としては、Azure ADに寄せる方法もありましたが、Azure AD Connectを追加構築するというシステム面の変更だけではなく、ユーザーがWindows環境にアクセスするために認証を2回行う必要が出てきます。ユーザーの利便性を考慮すれば、Citrix Cloudの多要素認証を利用するという方法は非常に有効でした」と小原氏。学内からのアクセスは従来どおり、ユーザーに負担をかけないシステム構成が実現できた喜びを語る。

システムの構築は非常にスムーズに進められ、2022年2月15日にプレオープン、同年4月1日から正式リリースされ、すべての学生、及び授業でPC教室の環境を使用する教員に対して、AVDによる仮想環境の提供を開始している。現状では、既存のPC教室も稼働しており、本年度中は併行運用していく予定だという。「技術的に高度な相談であっても日鉄ソリューションズとの意思疎通はスムーズであったため、非常に短期間での構築が実現しました」と小原氏は、日鉄ソリューションズの支援を高く評価する。現在AVDシステムの運用もすべて日鉄ソリューションズに任せている。

  • システム構成概要図

    システム構成概要図

同時に360ユーザーが利用できる環境を構築
PC教室が抱える物理的な制限の解消に成功

正式稼働を迎えた現在は、1つの授業で最大160~180ユーザーの利用を想定して、同時に360ユーザーが使える環境を構築しており、同じ時間にAVDを利用する授業が重なった場合も対応できると吉田氏。小原氏も「認証方式や接続の方法が変わったことに関する問い合わせはいくつかありましたが、大きなトラブルは一切なく、AVD with Citrix Cloudは安定稼働を続けています」と手応えを口にする。

今回の取り組みを踏まえ、東京理科大学では対面・リモート両面での環境整備を進め、大学DXを推進していく予定だという。PC教室の構築・運用に責任者として携わり、今回のプロジェクトにも参画している篠原篤氏(情報システム部 担当次長)は、本プロジェクトの成果と今後の展望についてこう語る。「BYOD化により学生は自分のPCをいつでも使えるようになりますが、学生すべてのPCに同じ環境を構築するのは容易ではありません。教員側から見ると、ソフトウェアのインストールから指導しなければならず、授業の時間が減るというデメリットがあり、環境が統一されたPC教室を使用したいという意見も少なくないのが現状でした。ただ、PC教室の環境を学外から使いたいという要望は以前からあり、その意味でも、BYODの課題を解決しながら学外からのアクセスを可能にした本プロジェクトは、今後の取り組みに対して大きな意味を持ってくると考えています」。

  • 東京理科大学 情報システム部 担当次長 篠原 篤氏

    東京理科大学 情報システム部 担当次長 篠原 篤氏

石黒氏も、今回のAVD with Citrix Cloud導入とBYOD化の推進により、PC教室にある1,500台のパソコンの運用コストを削減できる目処が立ったことに加え、20以上あるPC教室を他の用途に利用できるようになったことや、情報システム部のメンバーがPC教室の運用維持から解放され企画業務により注力することが可能になったことなど、プロジェクト成果の実感を語る。

東京理科大学が取り組む「大学DX」は、大学をはじめとした教育関連機関はもちろん、デジタル技術でビジネスを加速させたい企業にとっても重要な気づきを与えてくれるはずだ。

  • 背景
  • コロナ禍の影響もあり、大学におけるDXが加速する状況のなか、BYOD化の推進に伴うPC教室のクラウド化プロジェクトが始動。学外からのアクセスに多要素認証をかけられることを前提に、クラウド型のVDIサービスの選定に着手した。

  • ソリューション
  • 学内のITインフラのユーザー管理にAzure Active Directory (Azure AD)を採用していることもあり、マイクロソフト製品との親和性が高いAzure Virtual Desktop(AVD)の導入を検討。Citrix Cloudと組み合わせることで多要素認証や運用面での課題を解決できる環境を構築した。

  • 成果

    360ユーザーが同時に利用できるVDI環境を構築し、PC教室の運用・維持にかかるコストを大幅に削減。将来的にはPC教室の廃止も予定されており、20以上あるPC教室を他用途へ転用することによるメリットも期待されている。

  • 東京理科大学 神楽坂キャンパス

    東京理科大学 神楽坂キャンパス

東京理科大学
本部:東京都新宿区神楽坂1-3
設立:1881年
学生数:19,113名(2022年5月1日現在)
教職員数:1,263名

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