各業界でデータ活用やAI導入が進む一方で、1社だけのデータでは思ったような分析精度がでず、費用対効果が伴わないといった声も多くある。こうしたなか、米国やイスラエルといったIT先進国で注目を集めているのが、「秘密計算」である。

秘密計算を中心としたデータセキュリティ技術を提供するEAGLYSの代表取締役社長 CEO 今林広樹氏は、6月23-24日に開催されたTECH+ EXPO 2022 Summer for データ活用「データから導く次の一手」で、秘密計算によるデータコラボレーションとAI強化の事例について紹介した。

  • EAGLYS 代表取締役社長 CEO 今林広樹氏

企業のデータ活用を阻む要因とは

サイバーエージェントとNTTドコモはデータを活用した広告事業を展開するため、2022年5月にジョイントベンチャーの設立を発表した。この事例のほかにも、データホルダーが相互にメリットを享受できる仕組みとして合弁会社を作る動きが活発化している。また民間企業だけでなく、国や自治体でも産業データやパーソナルデータ活用の取り組みが行われている。医療領域においても、希少疾患データの収集、創薬・副作用に関するデータ活用などに向けたデータ共有基盤について長らく議論されてきている。

このようにデータ活用の取り組みは各業界で進んでいるが、いずれの場合も、データ提供者とデータ活用者のあいだを、データ収集・管理およびAI・データ活用を行うプラットフォームサービスが仲介している構造が一般的だ。

しかし、こうしたビジネスモデルでは、データ活用者にとってはデータの利用しやすさなどのメリットがある一方で、インプットデータのセキュリティ・プライバシーの観点から、データが集まりにくい、データが出力される際に信頼度やAIの精度が低下してしまうといった問題も生じている。

  • データビジネスの構造

「秘密計算」で、データコラボレーションとAI強化を実現

ここでEAGRYSの強みとなるのが、秘密計算だ。秘密計算とは、データを暗号化した状態のまま処理できる技術であり、ガートナーの調査では、2025年までに大企業の半数が秘密計算を含むプライバシーコンピュテーションを実装することが予測されているなど、今注目が集まっている技術だ。IBMやGoogleといったIT大手も、秘密計算の要素技術である準同型暗号の研究開発投資を積極的に進めている。

「秘密計算は、インプットのデータをいかにセキュアにするか、アウトプットされるAIモデルをいかに守るかという視点において強みを持つ新しいデータセキュリティの技術。当社としては、これにより、データコラボレーションおよびAI強化を実現していこうとしている」(今林氏)

  • 秘密計算とAI強化

複数企業のデータを異なる鍵で暗号化し、常にセキュアな状態で分析する

秘密計算のソリューションでは、複数の企業が持つデータを異なる鍵で暗号化し、暗号化したまま分析することができる。鍵は分離して保管されており、分析処理中のデータも常に暗号化されているため、仮に第三者によってデータベースが侵害された場合もデータ流出を防ぐことが可能となる。

たとえば、クレジットカード会社とその加盟店との連携を考えてみると、加盟店はカード会社の持つデータの中身を見ることなく自社データと組み合わせた分析結果のみを得て、自社のマーケティング施策に活用していくことができる。

  • 秘密計算によるデータコラボレーションイメージ

今林氏は、秘密計算を用いたデータ分析について「セキュリティのレベルを上げることはもちろん、企業間では従来できなかった機密情報の連携に利用できる。それにより、リッチなデータで精度の高い分析ができるようになる」と説明する。

これを踏まえて今林氏は、実際に異なる鍵で1つのデータベースにデータを持ち寄り、データ分析した場合の具体的なイメージについて紹介した。

以下は、A社とB社でそれぞれ同じデータベースを表示した際のイメージである。B社のイメージ(右)では、A社が保持するデータ(左)は暗号化されていることがわかる。カラムごとに暗号化の有無を制御できるため、A社がオープンにしているカラムは、B社もそのまま生のデータを見ることができる。

※当デモデータは擬似生成されたデータです。実際のデータではありません

以下は、集計結果の一例である。B社(右)をみると、項目が暗号化された状態のままA社と同じ結果が表示されていることがわかる。

秘密計算を用いたデータコラボレーションの事例

ここからは、秘密計算を用いたデータコラボレーションの事例を紹介したい。

まずは、広告・マーケティングの領域において、施策の要因分析やパーソナルデータの分析に秘密計算を使うケース。

顧客データや購買データ、調査データを一元化して分析したい場合でも、現状では、セキュリティ・プライバシーの課題があるため、部分的にデータ収集・編集する労力が分析のサブテーマごとに発生してしまっている。また、匿名化やマスキングする労力がテーブル統合のたびに都度発生する、匿名化が進みすぎてスコアリング精度が低下するといった課題もある。

ここに秘密計算ソリューションを利用すると、全体データを一元的に収集できるため、個別分析ニーズに一括で対応することが可能となる。さらに、匿名化・マスキングの自動化のほか、スコアリングの精度向上も期待できる。

自治体のヘルスケアデータを民間企業と共有した事例では、自治体のネットワークに外部からアクセスできないという課題があった。また、プライバシー情報であり高いセキュリティが求められるため、生データを持ち出すことは不可能。一方で、匿名化すると精度が低い分析しかできないという状況だった。

そこで、中間に秘密計算用のサーバを設置。セキュアAPIにより、必要なタイミングでデータを取り込むことが可能となった。

化学メーカーを中心とした新素材開発の事例もある。

新素材開発は、1000に1つと呼ばれるほど多くの実験が求められるが、ここで、実験データおよびAIモデルのシェアリングを活用したマテリアルズ・インフォマティクスが有用となる。研究データの秘密は守りつつシミュレーションを行うことで、多くの実験をせずとも素材候補の予測が可能となる。

EAGLYSでは、この他にもさまざまな業界で秘密計算を活用したデータコラボレーション実績を持つ。今林氏は「データコラボレーション・AI強化を軸に新規事業創出をしていきたいと考えている。興味のある企業様はぜひ問い合わせていただきたい」と呼びかけていた。

[PR]提供:EAGLYS