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2021年6月16日開催のオンラインセミナー「NVIDIA AI DAYS」(エヌビディア合同会社主催)では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速やAI活用推進をテーマに、日本の産業界の活力ある未来づくりにつながる多彩なセッションが実施された。本記事では、セッションの一つとして行われた「日立製作所×NVIDIA 対談 日立製作所の製造部門が実現した『モノづくりDX』で見えた日本の設計開発環境のあるべき姿」の模様を詳しくお届けしよう。

モノづくりDXの加速に向け日立製作所が導入したNVIDIA vGPUとは

まずはテレワークに効果的なソリューションであるNVIDIA vGPU(仮想GPU)の日本向けビジネスを担当するエヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャ 後藤 祐一郎氏が登場。NVIDIA vGPUを利用したvGPU-VDIについて紹介した。

後藤 祐一郎氏

エヌビディア合同会社
エンタープライズ事業本部
vGPUビジネス開発マネージャ
後藤 祐一郎氏

サーバー仮想化技術と組合せ、サーバーに搭載したGPUのメモリを仮想的に分割、複数台の仮想マシンで高いコア性能を効率的に利用することができるNVIDIA vGPUのテクノロジーを導入すると、複数の仮想マシンで仮想GPUが使えるようになる。

具体的な使い方としては、大きく分けて「仮想アプリケーション」「仮想PC」「仮想ワークステーション」「仮想コンピュートサーバー」の4つが考えられる。NVIDIA vGPUテクノロジーによってさまざまなデバイスをデータセンターに集約すれば、今まで実現できなかった多彩な業種や職種のテレワークを可能とし、業務データをセキュアに守りながら、ファイルアクセスを高速化してスピーディーなテレワーク環境が実現できるという。

「NVIDIA vGPUにVDIを組み合わせるソリューションは、製造業、建築・土木、教育、医療、メディア&エンターテイメント、広告・出版、自動車、金融・保険、さらにはエネルギー、インフラや官公庁・自治体まで、あらゆる業種で安全・快適なテレワークに採用されています」と後藤氏は語った。

  • NVIDIA vGPUで実現するテレワーク
田中 良憲氏

株式会社日立製作所
産業・流通ビジネスユニット
エンタープライズソリューション事業部
産業システム本部
DXクラウドソリューション部
主任技師 田中 良憲氏

続いて、vGPU-VDIを自社サービスに採用した、株式会社日立製作所 産業・流通ビジネスユニット エンタープライズソリューション事業部 産業システム本部 DXクラウドソリューション部 主任技師 田中 良憲氏からその取り組みについて解説が行われた。 同社のストレージ設計開発を担当する秦野事業所では、設計製造部門がモノづくりDXの加速に向けて3次元VDIを導入した。vGPU-VDIを採用したのは日立クラウド型設計業務支援サービス(DSC/DS)だ。

「日立では製造業のさまざまな場面で発生するデータをIoTで収集・蓄積し、利活用する仕組みを提供しています。DSC/DSは、モノづくりに関する情報を設計製造部門の各プロセスで共有し、設計の効率化と業務最適化による生産性の向上を支援するサービスで、vGPU-VDIを採用し設計業務でのデータ活用を支援する「3次元仮想デスクトップサービス(DS-VDI)」などをサービス化しています」(田中氏)

「3次元仮想デスクトップサービス」は集約された環境をいつでもどこでも利用可能にするための仕組みで、設計業務に求められる機能をクラウド上で実現し、テレワークを推進するものだ。

  • 3次元仮想デスクトップサービス

設計業務において、なぜこうした仕組みが必要となるのか。田中氏はこう話す。
「設計業務はCADなどで高いスペックの端末を必要とするため、快適な操作が可能となるVDI環境の整備が最優先課題となっていました。この環境の実現に加えて、設計図面や仕様書、属人化された経験・知識などを同じ環境で統合管理すれば、まさにいつでもどこでもシームレスに、品質を落とすことなく作業することが可能になります。もちろんその際は情報漏洩リスクを最小限に抑えることも必要です。こうした要件を備えた仕組みとして、NVIDIA vGPUテクノロジーによるvGPU-VDIが適していると判断しました」

日立グループは2000年代当初からVDIを使って業務を行っていた。当時から一般事務については問題も生じていなかったが、CADはより高いスペックが要求されるため、技術者は狭いデスク上にCAD向けの大きな端末を置いて作業をしていたという。

製造業におけるテレワークの課題

日立製作所におけるvGPU-VDI採用の具体的な話に入る前に、田中氏は製造業一般におけるテレワークの難しさについて解説した。

新型コロナウイルスの感染症拡大の影響でオフィスに出勤できなくなり、周知のように多くの職場でテレワークに移行。しかしながら、製造業ではテレワーク化がなかなか進んでいない。田中氏が示したパーソル総合研究所の調査結果によると、2020年の最初の緊急事態宣言解除後、テレワーク実施率の全体平均は25.7%だが、製造業は生産技術・生産管理・品質管理で21.6%。製造(組立・加工)に至っては3.4%とかなり低い数字になっている。

設計業務の現場でも、やはりテレワークは難しい。では、なぜ設計者はテレワークができないのか。一つには、従来の業務の進め方のままテレワークに入っても、機密データの取り扱いをはじめとして出社を余儀なくされる業務は変わらず存在する。製造業では紙などの現物を使って仕事を進める慣習が強く、業務知識も属人化する傾向があり、上司の指示を直接受けられないことによる設計者ごとの品質格差の問題もあった。設計ルールを見落としてもテレワークではその場で指摘されることがないため、結果的に手戻り発生につながりやすい。そしてもちろん自宅ではワークステーションがないため、CADが使えないという物理的制約も大きな課題だった。

こうした課題に対して、田中氏は解決に向けた方向性を次のように提示する。
「まずは、テレワークを実現するための環境整備です。場所やCAD端末の物理的制約を排除し、いつでもどこでもいつも通りに業務ができる環境を整備する。それも、セキュアにアクセスできる統合環境をつくることが重要です。これについては、まさにVDI環境を整備し、社外からアクセスする環境をつくることが解決の第一歩でしょう。もちろん環境をつくっただけでは不十分で、組織横断で設計プロセスやノウハウを共有するためのツール導入、設計に関する知識・経験を利活用するための仕組みづくりも必要になります」

  • 設計業務の課題と解決の方向性

高いグラフィック性能、強力なセキュリティ機能のVDI環境を実現

日立製作所では、これらの方向性に沿って国内外の設計拠点やサプライヤーとの協調設計を実現するための施策を検討する。実は同社がこの検討を始めたのは、コロナ禍が発生するはるか以前、2014年のことだった。

「そもそものきっかけは、ある事業所でCAD設計を3次元化するため、より高スペックなマシンが必要になったことでした。高スペックマシンを用意するには多額のコストがかかりますが、一方ではマシン運用コストの低減も求められます。加えて、設計が多拠点化することで情報漏洩リスクが上がるため、強力なセキュリティ機能も必須でした。社内からこうした相談を受け、検討を始めたそのタイミングで、vGPU-VDIが登場したことを知ったのです」と田中氏は振り返る。

すでに一般業務ではVDIを活用していたこともあり、CADでもVDIを活用できるのではとの声が自然に生まれた。vGPU-VDIを導入することで、高スペックマシンであっても運用コストを下げられるうえ、この環境をデータセンター上に構築しデータを集約することでセキュリティ強化も狙える。検討の結果、vGPU-VDI環境への移行に踏み切った。

vGPU-VDIを採用したDSC/DSのサービス開始後、マシン稼働率は平均30~40%程度だったものを70%以上にまで引き上げることができ、マシンリソースを柔軟に調整できるようになったことでマシン利用コストも30~40%低減できた。また、クラウドによるマシンの一元管理化によりランニングコストが減り、設計環境の共通化や環境負荷低下を実現。どこでも使える環境になったことで、移動時間・費用などのコスト低減や現地人材活用の加速など、働き方のフレキシブル化も達成したという。

  • 日立における設計業務改革事例

>>日立クラウド型設計業務支援サービス(DSC/DS)についてはこちらから<<

日立製作所はこの状況で、コロナ禍を迎えた。2020年4月、秦野事業所の構造設計者ほぼ全員にvGPU-VDIが利用できる環境を構築。テレワークへスムーズに移行できたことに加え、セキュリティ強化により情報漏洩に対する安全性も大きく向上したとのことだ。
「社員の健康を守るとともに、設計業務をほぼ止めずに移行できました」と田中氏は評価した。vGPU-VDIの採用はさらに進み、現在ではグループ内の20部門が活用しているという。

vGPU-VDIの活用の幅を広げ、サービス拡大を目指す

今後について、田中氏はこう話した。
「現状はCADを使った構造設計での利用がメインですが、構造解析・電磁界解析・熱流体解析といったCAEの分野へと活用を広げていきたいですね。さらにはAIなどコンピューティング環境の強化も進め、サービスを拡充していきたいと考えています。日立製作所は多くのビジネスユニットを抱えており、多様な部門からサービスを使いたいとの声がきています。今後、社内はもちろんのこと、社外にもサービスを提供できるように開発を進めていきます」

最後に後藤氏は、次のように語ってセッションを締めた。
「vGPU-VDIをご活用いただいている、日立製作所様における「モノづくりDX」の説得力ある事例をこれから多くの企業の方々が参考にされるかと思います。そして、日立製作所様の事例は今後、日本全体の設計開発力の向上につながっていくのではないかと期待を感じました。当社も日本全体の設計開発力の向上に寄与するため、製品開発や展開などいっそう力を入れ、多方面にわたってご支援したいと考えております」


機密データの取り扱いやCAD端末の物理的制約などで出社を余儀なくされる業務によりテレワークがしづらい環境の製造業において、今回のイベントはDX推進のためのひとつの切り口となったのではないだろうか。vGPU-VDIはさまざまなデバイスをデータセンターに集約し、今まで実現できなかった多彩な業種や職種のテレワークを可能とし、業務データをセキュアに守りながら、ファイルアクセスを高速化してスピーディーなテレワークを実現できる。ニューノーマル時代の働き方を実現すべく、VDI環境の整備を考えている企業は、ぜひ相談してみてはいかがだろうか。

>>日立クラウド型設計業務支援サービス(DSC/DS)についてはこちらから<<
  • 後藤氏、田中氏のツーショット

[PR]提供:NVIDIA