デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進やCOVID-19の影響などにより、実店舗での売上が減少傾向にあるなか、ECに軸足を移す企業も増えてきているが、忘れてはならないのは“顧客体験の最大化”を意識した事業戦略で推進すること。単にECによるデジタル化を進めるのではなく、実店舗を含めたあらゆる顧客接点を見直し、オンライン・オフラインを問わない自由な購買スタイルを実現。そのうえで顧客一人ひとりに価値ある体験を提供する「ユニファイドコマース」の実現が重要となる。

2021年2月25日にオンラインセミナー『顧客ロイヤルティを高める鍵は「ユニファイドコマース」にあり ~「三越伊勢丹グループ」「TSIホールディングス」の顧客体験最大化事例に学ぶ~』が開催された。

最初のセッションでは、ECサイトをリニューアルし、店舗とECを横断したビジネスを展開する三越伊勢丹グループによるSalesforce Commerce Cloudを導入した事例についてご紹介。

2つめのセッションでは、nano・universeをはじめ数多くのアパレルブランドを有するTSIホールディングスを迎え、ユニファイドコマースの支援実績豊富なTIS(※)の有識者らとともに、顧客と店舗の「新たな関係性」を踏まえた先進的なEC戦略が語られた。


※ (編集部注) 本レポートでは、株式会社TSIホールディングスとTIS株式会社が登場します。前者はアパレル企業、後者はシステムインテグレーター/コンサルティング企業です。文章では特に見分けづらいのでご注意ください。

ECサイトのリニューアルで「サービスのシームレス化」を目指す三越伊勢丹のEC戦略

最初のセッションでは、膨大な商品を扱う百貨店である三越伊勢丹のEC戦略と、ECサイトのリニューアルにおいてSalesforce Commerce Cloudを導入した事例について語られた。

  • 三越伊勢丹のEC戦略

今回のECサイト再構築プロジェクトで中心的な役割を担った株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ テクノロジー推進部 部長の唐沢 猛氏は、ECサイトの刷新に踏み切った経緯をこう語る。

「スマートフォンからの購入も増え、全体的にECサイトの売上が上がっている状況ですが、三越伊勢丹では現在も実店舗の売上が圧倒的に高く、ECの売上比率は数パーセント程度です。ECの売上を伸ばすことはグループとしての大きな目標となっており、ECの事業展開として、さまざまな施策を行っています。その1つとしてECサイトのリニューアルに取り組みました」(唐沢氏)

三越伊勢丹グループが目指しているのは、実店舗でもECサイトでも同じコンテンツが見られて、同じサービスが受けられる「サービスのシームレス化」。すなわちオフラインとオンラインの垣根なく「楽しい買い物体験」を実現することだという。ECサイトのリニューアルにおいても、このコンセプトを重視していると唐沢氏。「UI、UXにこだわりを持ち、百貨店のイメージや世界観を崩さないことを意識して構築しました」と振り返る。

  • 三越伊勢丹グループが目指すサービスのシームレス化

    三越伊勢丹グループが目指すサービスのシームレス化

リニューアルされたECサイトでは、Yシャツのオーダーメイドサイトやギフトサイトといった先進的な取り組みが行われており、連載や特集など多彩なコンテンツを提供している。これらを実現しているのが、セールスフォース・ドットコムが提供するECプラットフォーム「Salesforce Commerce Cloud」だ。株式会社セールスフォース・ドットコム プリンシパル・ビジネスコンサルタントの國村 太亮氏は、三越伊勢丹のECサイトについて印象を語る。

「三越伊勢丹のECサイトということで、実店舗でクオリティの高い購買体験をしてきたお客様からの期待感も高く、同じような体験をECで実現することが大前提だと思います。今回リニューアルされたECサイトでは、ナビゲーションから購買行動を開始でき、商品のディティールページもしっかりと作り込まれているなど、お客様のニーズに応える完成度になっていると感じました」(國村氏)

今回のプロジェクトで、三越伊勢丹システム・ソリューションズのパートナーとしてシステム構築を担ったのは、Salesforce Commerce Cloudに関する豊富なノウハウを持つTIS株式会社だ。同社のデジタルマーケティングサービス第2部エキスパート 西川 伊左央氏はこう語る。

「近年では、EC基盤全体を自由度の高いモジュールで再構成する動きが進んでおり、バックエンドも含めたワンストップのシステムが求められています。今回の事例では、ECフロントをSalesforce Commerce Cloudで構築し、既存のバックエンドや周辺システムと連携するような構成でシステムを構築しました」(西川氏)

唐沢氏は「フルスクラッチで構築していた従来のECサイトでは新しいサービスを迅速に提供するのは難しく、ある程度ベースの整ったソリューションを使うのが最適と判断しました」とSalesforce Commerce Cloudを採用した経緯を解説。他のSalesforceの製品を使っていたことによる安心感や、求める機能が揃っていたことが選択の決め手となったと語る。

システム構築を担ったTISの西川氏も、Salesforce Commerce Cloudは完成度の高いソリューションと評価する。

「豊富なテンプレートが用意されており、デザインを決めるだけでECサイトを構築できます。ベストプラクティスという形でノウハウが集約されているので機能面も充実しており、カスタマイズする際にもベースとなるテンプレートがあるので進めやすいのがメリットといえます」(西川氏)

フロントからバックエンドまで、多数の関係者とスムーズに認識を共有

今回のECサイトリニューアルでは、フロントからバックエンドまで連携したシステムの構築が行われたが、その一連の流れに関与する関係者が多いことが課題になったと唐沢氏は語る。

「ECサイトの構築には、さまざまな領域があり、大勢の関係者をどうまとめるかに苦労しました。商品登録を行うチーム、マーケティングを考えるチーム、出荷のことを考えるチームなどカテゴリごとにチーム分けを行うことで、効率的に進められました」(唐沢氏)

西川氏も、バックボーンが異なるメンバーが集まったプロジェクトでは、要件を詰めていくところが難しかったと語り「豊富なテンプレートを用意し、実際に動かしながら説明できるSalesforce Commerce Cloudを採用したことでスムーズに共通認識を実現できました」と振り返る。

唐沢氏は今回のプロジェクトを通じ、ECサイトのリニューアルは、戦略的なシステム刷新の推進につなげられると実感しているという。國村氏も「EC基盤の入れ替えは業務の見直しにつながり、業務の断捨離による効率化が期待できます」と力を込める。

「百貨店の大規模なECサイトの構築だけでなく、単品通販のサイトを短期間で構築したいといったニーズに対してもSalesforce Commerce Cloudは対応できます」と西川氏。柔軟性の高いSalesforce Commerce Cloudの導入効果を語り、セッションを締めくくった。

TSIが実践するユニファイドコマース戦略のアプローチとは

続いてのセッションは「アフターコロナのあらたな顧客体験とユニファイドコマース」と題し、数多くのアパレルブランドを有するTSIホールディングスが推進するユニファイドコマース戦略について語られた。

  • アフターコロナのあらたな顧客体験とユニファイドコマース

個性的なブランドを幅広く展開しているTSIは、昨年度のECサイト売上高が360億円で、ECの売上比率は25.3%に達している。そう語るのは、株式会社TSI ECストラテジー 取締役の渡辺 啓之氏。同社では、以前よりオムニチャネル化に注力しており、「実店舗とEC双方を利用する顧客を増やすことでLTV(顧客生涯価値)を向上させる」というコンセプトに基づき、事業戦略を構築してきたという。

そこでTSIが取り組んだのがEC機能の集約となる。事業子会社それぞれのEC組織、機能を統合し、ノウハウの横展開、運用高度化と投資の最適化を図るためにデジタルチームを一本化。ユニファイドコマースも含め、新たな戦略を全体的に推進できる仕組みを構築した。

そのシステム構築を支援しているTIS株式会社 デジタルマーケティングサービス第2部 エキスパート 山本 豪氏はこう話す。

「ユニファイドコマースに向かう企業は増加傾向にありますが、その実現には組織的な課題、店舗とECの評価制度、ノウハウの有無といった課題が存在し、まだまだ壁が多い印象があります。そういったなかで、TSI様は非常に先進的な取り組みを行っていると感じています」(山本氏)

TSIでは、実店舗とECサイトの連携による顧客体験の改革において「店舗スタッフ」に着目。スタッフが投稿したコンテンツを経由したEC売上の向上(自社EC売上の35%)を実現したほか、スタッフのオンライン接客などスタッフを起点にオンラインとオフラインをつなぐ取り組みを推進しているという。

「ユニファイドコマースやOMOの取り組みではシステム構築が先行しがちですが、それをいったん横に置いて、着眼点をスタッフにいかに顧客体験の最大化に活かせるのかに変えました」と渡辺氏。実際に実店舗のスタッフがオンラインの世界で活躍した実績を可視化し、その結果が見逃せない数値となったときに、ユニファイドコマースの取り組みが加速すると予測する。

渡辺氏は、ライフスタイルが変化したことで既存ビジネスに限界が見えたと現状の課題を語り、店舗起点からオンライン起点へジャーニーを組み替えて、それを反映したビジネスモデルを構築しなくてはならないとTSIの事業戦略を解説。「デジタル=ECという一収入源」ではなく「デジタル=企業の生存戦略そのもの」と捉え、"顧客体験の変革"を軸に、他の戦略も変革していくというアプローチで、事業、組織、人材の変革を進めていると話す。

  • 顧客体験の変革

「実際に取り組みを推進する際には、企業戦略(DX戦略)に基づいて対顧客の戦略をどう組み立てるのかを定義し、ユニファイドコマースでない部分も含めて取り組みを進めることが重要になると思います」(渡辺氏)

ユニファイドコマースの実現を支援するTIS DXビジネスユニット グランドエグゼクティブフェローの浦田 努氏は、渡辺氏の話を受けてこう語る。

「ユニファイドコマースは、小売業における今後の企業戦略の1つの核となりますが、他の事業戦略と密接に連携していることを意識し、バランスをとって進めていくことが重要となるはずです」(浦田氏)

実店舗を起点としてシステムを構築し、ユニファイドコマースを推進する

セッション後半では、TSIがユニファイドコマースを実現するために取り組んだ施策について解説された。TSI ECストラテジー マーケティングPF Div長の越智 将平氏は「顧客との接点をデザインし直すというテーマでユニファイドコマースの取り組みを進めていますが、根源にあるのは“顧客提供価値”で、ユーザーが幸せにならないと意味がないと考えています」と語り、ブランドビジネスを展開していくうえでは、実店舗も重要な接点となると力を込める。

「具体的な施策としては『直営サイトのコーデ販売徹底強化』、すなわち店舗スタッフのコンテンツ化から『来客予約』→『接客予約』へとつなげ、その実現にあたり『販売の新キャリア制度』として専属スタイリスト、オンライン接客、ストアプレスといったスタッフの育成・拡充も進めています。また、実店舗でチェックインした際にモバイルで有益な情報を提示し、スタッフと顧客のコミュニケーションを活性化させる施策も展開しています」(越智氏)

  • 直営サイトのコーデ販売徹底強化

これらの店舗を起点としたデジタルサービスを提供するため、TSIが導入したのがTangerineが提供する小売DX支援SaaSサービス「nearME」となる。Tangerine 株式会社 代表取締役の平井 清人氏は「nearMEは店舗を起点としたデジタルサービスを提供して顧客体験を向上させるためのツールです」と語る。TSIの取り組みにおいては、来店時にスタンプを付与するチェックインサービスを提供している。

TISの山本氏は「ユニファイドコマースと聞くとECに寄っていくイメージを持つかもしれませんが、店舗側を高度化も重要になります」とTSIの取り組みを評価。TISのユニファイドコマースへのアプローチとして、システムの構築にとどまらず、戦略的な部分に関しても支援していきたいと語る。同社では、顧客体験につながる部分を「サービスレイヤー」として柔軟かつ迅速に提供。普遍的なシステムは「プラットフォームレイヤー」として整備し、APIでサービスレイヤーと簡単につながる仕組みを構築してサービスを展開しているという。

システムベンダーとユーザー企業の共創により、実績を積み重ねることが重要

渡辺氏は「ユニファイドコマースは、まだ始まったばかりでベストプラクティスがなく、システムベンダーとユーザー企業が共創し、事例・実績を積み重ねていくことが重要になります」と、ユニファイドコマース実現のポイントを語る。

TISの浦田氏も、「ユニファイドコマースの取り組みはカスタマーサクセスが起点となり、顧客のニーズを想定するところから始めることが大切」とし、今回のTSIの取り組みのように、推進する強い意志を持つことが重要と話す。

本セッションで語られたユニファイドコマース推進のアプローチは、実店舗とECサイトの融合による顧客体験の最大化を目指す企業にとって重要な気づきを与えてくれるはずだ。 また、当日のセッションは限定公開しているので、ぜひ以下のリンクから動画を視聴していただきたい。

【録画配信】
顧客ロイヤルティを高める鍵は「ユニファイドコマース」にあり
~「三越伊勢丹グループ」「TSIホールディングス」の顧客体験最大化事例に学ぶ~
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