IoT、AI、ロボット……私たちはさまざまなテクノロジーの恩恵を享受して便利な生活を送っています。その仕組みや働きについて考えようとすると少し身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、テクノロジーは私たちの理想や夢を現実のものにするための力強い手段となりえます。今回は、テクノロジーの力を借りて日常を今よりちょっと彩る面白いモノづくりを手掛ける団体「乙女電芸部」のメンバーにお話を聞いてみました。
プロフィール
乙女電芸部部長。
作品制作やワークショップデザインにおいてもリーダー的存在。
映像やイラストレーションの制作を担当。
地方からリモートで活動中。オンラインワークショップの知見が豊富。
花や自然から着想を得た工作が得意。
オリジナルzine「おとでん新聞」ではDTPを担当する。
活動のきっかけは、「テクノロジーは、かわいいものに使ったほうが楽しいじゃん!」
――まず、乙女電芸部の活動内容や設立のきっかけについて教えてください。
矢島さん:乙女電芸部は、大学の近しい研究室のメンバーで部活として立ち上げました。理工系の研究では新規性や有用性、再現性が求められますが、当時はそこに対して少し息苦しさを感じていて、「電子工作やプログラミングのスキルや知識を、自分が欲しいと思えるかわいいものに使ってもいいじゃん」と思ったことがきっかけです。
結成から10年経った今は、社会人サークルとして活動を続けています。最近では、電子工作の経験がない子どもたちや主婦の方々に向けたワークショップの開催を中心に、作品づくりや電子工作キットの制作なども行っています。
――乙女電芸部としてはこれまでにどのような作品を制作されてきましたか。
矢島さん:乙女電芸部として一番はじめにつくったのは「なでなで帽子」です。ベレー帽の中にスポンジのついたモーターがあり、ずっと頭をなでなでしてくれるという作品です。
「なでなで帽子」を制作した際に感じたのは、自分の欲望は電子工作で叶えられるんだということ。「なでなでしてほしい」とはなかなか人には言いづらいですが、テクノロジーを使えば、そんなちょっとした乙女心を現実のものにすることができます。当時の指導教員に見せたところ「まったく共感できないし、研究にはならない」と言われてしまいましたが(笑)、だったら思い切って趣味を突き詰めるのもいいかなと思い、活動を続けていくことにしました。
今野さん:電子工作と聞くと仰々しいことをしなければいけないと思っていましたが、もっと気軽に始めてもいいんだと感じましたね。
奥出さん:テクノロジーありきでつくれるものを考えるのではなく、自分のやりたいことを思い描くところから始めるのがポイントだったと思っています。
――ほかにはどのような作品がありますか。
矢島さん:その日のメイクのテーマと使うコスメを提案してくれる「ちょっと未来のドレッサー」です。ディスプレイ表面にマジックミラーを貼り付けることで、映像と自分の顔とが同時に鏡に映るようになっています。スイッチをオンにすると、「ガーリー」「モード」「ナチュラル」などその日のメイクのテーマをドレッサーがランダムに指定し、サーボモーターによって該当のコスメラックが回転して手前に来ます。これは、毎日違う色味で気分が上がるメイクをしたいという欲望がベースにあります。
奥出さん:今ではさまざまなスマートミラーが市場に出ていますが、自分自身の楽しさにフォーカスしたところは、乙女電芸部っぽいなと思いますね。LED調光のスイッチに海外製のビーズをはめ込んだり、おしゃれな額縁をつけたり、ケーブルが絶対に見えないように設計したりと、外装にはこだわりました。
――こうした作品のアイディアはどのように考えられるのですか。
矢島さん:「ちょっと未来のドレッサー」では、合宿形式のワークショップを行い、メイクに対する不満や悩みをとにかく付箋に書き出してメンバー内で共有しましたね。各自メイク道具を持ち寄って並べてみたり、メイク中の様子を観察したりしながら、誰もが共感できる悩みや不満を洗い出し、自分たちが実現したいことと掛け合わせながらアイディアを練り込んでいきました。
奥出さん:乙女電芸部では「彼の視線が向くと揺れるピアス」などもつくったことがあります。電子工作やプログラミングというと男性的なイメージがあるかもしれませんが、"乙女"の視点で欲望を満たせるような作品をつくるということが、乙女電芸部の特徴だと思います。テクノロジーを使ったおもしろ作品は昔からよく話題になりますが、自分の気持ちを高めるというところにもテクノロジーは活用できるんですよね。
テクノロジーを知れば、世の中の見方も変わる
――一般向けのワークショップではどのような企画を実施されているのですか。
矢島さん:目的や対象によって内容を決めていますが、今は8割程度が小学生向けの企画ですね。お声がけいただければ、日本全国のファブスペースや美術館、科学館、企業などに足を運びワークショップを行います。
奥出さん:小学生を対象としたものだと、LEDで光るブレスレットやブローチをつくるワークショップが定番です。ワークショップでは、光の三原則から、LEDや電池の仕組みまで、電子工作をしていくなかで楽しく学ぶことができます。
――ワークショップを通じて参加者のみなさんにはどのようなことを伝えたいですか。
今野さん:研究室のメンバーでアミューズメントパークへ遊びに行ったときに、故障中で乗れないアトラクションがあったんです。電子工作のスキルや知識がないときには、それを見て「乗れないのか」と残念に思うだけでしたが、少しでも知識があると「デバッグが大変そう」、「メンテナンスって大変だよね」といった裏側のことにまで思いを馳せられるようになります。実際に自分の手でモノをつくることで、世の中の見方が変わるということです。ワークショップが「自分の身の回りにあるモノは誰かがつくったもの」、「自分でもつくれるモノがある」と感じていただける機会になるとよいです。
――作品をつくったり、ワークショップを実施したりするにあたって、電子部品を購入されることがあるかと思いますが、普段はどのようなところで購入されていますか。
矢島さん:職場が近いということもあり、コロナ禍以前は秋葉原のお店で買っていました。今はオンラインショップで買うことも多いですね。
――アヴネットのオンラインショップでも電子部品を購入することができます。アヴネットのオンラインショップを見て、魅力を感じた点があれば教えていただけますか。
矢島さん:私は普段回路設計の仕事をしているのですが、検索性の高さはありがたいと思いました。検索一覧で型番を入れるだけで、部品のフットプリントや3Dモデルなどの欲しい情報を一度に閲覧することができます。
今野さん:私は仕事でAC-DC電源を使うのですが、関連製品の欲しい情報がまとまって表示されるのには感動しました。制作物に対して厳密な設計が求められる場合には、部品の大きさや形が重要になるので、選定の際に非常に参考になりますね。
――アヴネットでは、エンジニア向けコミュニティであるHackster.ioというサイトも運営しています。
矢島さん:ユーザーがHackster.ioへアップしているレシピには購入品リストも掲載されていて、複数のECサイトへのリンクがあるのは使いやすいなと思いました。
「自分に素直にわがままに」テクノロジーを楽しんでほしい
――乙女電芸部の今後の展望を伺えますか。
矢島さん:今年5月に、オライリー・ジャパンとの共催で「光るクラゲストラップ」をつくるオンラインワークショップを開催する予定です。動画配信サービスのライブ配信を通して、なるべくたくさんの人にお届けできればと考えています。
これまでは子ども向けのワークショップが多かったですが、今後はさらに対象範囲を広げ、性別年齢問わずワークショップへ気軽に参加してもらえる方法を探っていきたいですね。コロナ禍によって家にいる時間が長くなっているなか、より快適にお家時間を過ごすために電子工作をするというカルチャーをつくっていけたらと思っています。
――最後に、TECH+の読者に向けてメッセージをいただけますでしょうか。
今野さん:テクノロジーを活用してすごいモノがつくれる人は一握りかもしれませんが、テクノロジーのことを知るだけで広がる世界がある、ということをお伝えできればと思います。知識があれば、これまでブラックボックス的に使ってしまっていたモノの裏側について考えてみたり、他にどのようなことができるか予想したりなど、より日常が豊かになると考えています。
奥出さん:テクノロジーは、時代とともに発展してきています。これまでは不便で当たり前だと思っていたこと、かわいくなくて当然だと思っていたことが、未来のテクノロジーによって解決できるかもしれません。テクノロジーは、これまでできないとあきらめていたことを解決していくための希望でもあると考えています。次世代を担う子どもたちをはじめ、いろんな人がそうした発想を持って、「当たり前」を変えていってくれるといいですね。
矢島さん:"乙女"というのは「自分に素直にわがままに」なることだと考えています。そうした気持ちは性別を問わずみなさんが持っているものだと思うので、ぜひ私たちの「わがままな工作」を見ていただき、自分なりの工作を楽しんでみてほしいなと思います。
「光るクラゲストラップ」をつくるオンラインワークショップ
5月1日、2日に開催されるMaker Faire Kyotoのなかでオンラインワークショップを行います。詳細は乙女電芸部のTwitter、Maker Faire Kyotoのwebサイトにて発表予定です。ワークショップのテーマは「光るクラゲストラップをつくろう!」。お家のなかでちょっとした海の世界がつくれるかもしれませんよ!
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