スマートフォンの普及により、GPSやWi-Fiなどを用いた位置情報の活用が進みつつある。位置情報を利用したマーケティングは、これまでのWebマーケティングでは見極めが難しかったリアル(オフライン)のユーザー行動を、高い精度で測定することが可能となる。

本記事では、2019年2月28日に開催されたセミナー「新たな顧客体験を創造するこれからのデジタルマーケティング」において、シナラシステムズジャパン 大野 皓平氏の講演を参考に、「位置情報マーケティングの今」について解説する。

位置情報はユーザーの「リアル」がわかる

一般的に、デジタルプロモーションはWebサイトやSNSなどから取得した「オンライン」の情報を分析して施策が検討される。しかしオンラインの情報では、そこから先の「リアルなユーザー行動」のデータは取得できない。つまり「来店に至るまでの行動」や「来店してから購入に至るまでの行動」についてはわからないままになる。

「例えば、私は毎週スポーツジムに通っていますが、だからといって頻繁にスポーツジムを検索しているわけではありません。逆に、スポーツジムを検索している人が、スポーツジムに通っているとは限りません」(大野氏)

  • シナラシステムズジャパン 大野 皓平氏

    シナラシステムズジャパン 大野 皓平氏

これまでのデジタルマーケティングでは、オンラインから離れたユーザーのリアルな行動まで把握するのは難しく、クーポンの配布やアンケートの実施などのアナログな手法で集めた情報をもとに、おおよその予測を立てるしかなかった。しかし昨今では、オフライン後にユーザーが取る「リアルな行動」の情報を、高い精度で把握することが可能となっている。

位置情報を取得する3つの計測手段

位置情報を取得する計測手段としては、大きく分けて「GPS」「ビーコン」「Wi-Fi」の3つがある。それぞれに長所と短所があるが、大野氏によると「Wi-Fiが最もバランスがよい」という。

計測手段の特徴
GPS:機器設置は不要/アプリに依存/屋内では位置のズレが生じやすい
ビーコン:専用の機器とアプリケーションが必要/検知の品質が非常に高い
Wi-Fi:Wi-Fi機器の設置が必要/アプリ依存なし/店内外や滞在時間などを測定可

なお、シナラシステムズはソフトバンクと共同で、Wi-Fiを中心とした位置情報を用いてオンラインとオフラインを横断する「統合マーケティングツール」を提供している。このシステムは、Wi-Fiによる来店計測を以下に挙げる3つのフィルタリングで制度を高めている。

  1. 電波強度:電波強度が高い場合は来店客(店内)。弱い場合は通行人(店外)
  2. 滞在時間:滞在時間が長い場合は来店客。数分程度なら通行人
  3. 営業時間:営業時間内なら来店客。時間外なら通行人
  • Wi-Fiによる来店計測

    Wi-Fiによる来店計測

「私は以前から、『Wi-Fiはリアル行動のコンバージョンタグ』だと考えています。Wi-Fiによる位置情報の取得によって、Webというデジタルと来店というリアルがつながるのです。ただ、Wi-Fi以外の計測手段にも、短所があれば長所もあります。ですから、場面や目的に合わせ組み合わせて使うのもよいでしょう」(大野氏)

位置情報マーケティングの活用事例

当日のセミナーでは、大野氏による「位置情報を活用したデジタルマーケティングの事例」が多数紹介された。その中から、興味深い事例をいくつかピックアップして紹介しよう。

事例1:レジャー施設「来場に効果があるSNSはどれか」

SNSをプロモーションに活用しているものの、具体的に来場につながっているかが不明。そこで、Webサイトにタグを入れて、サイト流入後の来場を計測。その結果、最も効果が高いSNSと低いSNSとの間には、2倍の差があることが判明し、効果に応じた労力の再配分を実施。

事例2:大手スーパー「店舗への集客には、どこの範囲にいる人を狙うのが効果的か」

店舗への来店を促す広告は、どこの範囲にいる人にまでなら効果的に働くのかを、位置情報から計測。配信するパターンは次の4つだ。

  • 現在店舗にいる人(リアルタイム)
  • 半径1km以内にいる過去の来店客
  • 半径2km以内にいる過去の来店客
  • 半径3km以内にいる過去の来店客

測定の結果、半径1kmを超えると来店単価(1来店あたりの広告費)が約20倍と急激に上がった。効率の点からも、現状の広告配信は半径1km圏内向きと考えられる。

事例3:旅行会社「ユーザーの嗜好に合わせたターゲティングの細分化」

より効果的なプロモーションを展開するために、位置情報からユーザーの行動を細分化。平日の位置情報や登録時の居住地が東京、休日には東北や関西などに位置情報がある場合、「旅行が好きな人」として広告を配信して来店につなげる。

ゴールデンウィークなどの長期休暇では常に北海道にいるような人は、北海道が好きな人である可能性もあれば、単純に帰省先が北海道であるという可能性もある。これらは、北海道にいるときの位置情報が、観光地ばかりなら前者、あまり移動せず1カ所にとどまるなら後者など、位置情報によってユーザーの行動を細かく分類することが可能になる。

位置情報の活用を成功させるために必要なもの

位置情報を活用すれば、デジタルでは測りきれない顧客のリアルな行動を把握できるようになる。そうなれば、より精度の高いWebプロモーションの施策を実行することも可能となるだろう。しかし大野氏によると「位置情報を用いた来店計測にトライしてみたものの、なかなかうまくいかず、一度きりで終わってしまったケースも少なくない」という。

位置情報によるリアルデータの活用を社内で定着させ、マーケティングを加速させるためには「明確な仮説を立てること、そしてリアルデータを深く理解したエバンジェリストの存在」が必要となる。

「位置情報のデータは、測定した環境や条件によって、それぞれに特徴があります。絶対的な正解は存在しないのです。ですから、いろいろと試して、継続して測定を行い、基準となる値を見極めていかなければなりません。そこに、エバンジェリストとなる人が登場すれば、その人に引っ張られて、自社にあった独自のKPIを作り出そうという動きが生まれてきます。私たちシナラシステムズは、オンラインとオフラインの垣根を超えた情報全体の最適化を目指していきます。今後も、この分野で悩みを抱えている方と、どうすればいいのかを一緒に考えていきたいと思っています」(大野氏)

シナラシステムズジャパン

[PR]提供:シナラシステムズジャパン