もうすぐ、あの3.11から8年が経つ。また、新年度をむかえるにあたり、社内体制の刷新や新入社員の入社が始まるこのタイミングは、「職場の防災」を見直すよい機会だろう。企業に対する防災コンサルティングなどを行う防災備蓄収納プランナー協会の長柴 美恵代表理事から、職場における災害の備えについて、そのポイントをうかがった。

従業員の生命を守るために

歴史的な大災害となった東日本大震災から今年で8年が経過するが、この期間は決して平穏なものではなかった。日本は毎年のように災害に襲われている。伊豆大島土石流(2013年)・御嶽山噴火(2014年)・熊本地震(2016年)・西日本豪雨(2018年)など、大規模な被害が生じて多くの人命が失われる事態は、残念ながら珍しいことではなくなった。

一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会の代表理事、長柴 美恵氏が防災に関わるようになったのも、東日本大震災がきっかけだ。もともと整理収納コンサルティングをしていた長柴氏は、東北で仮設住宅の住み心地をよくするための講習会を始めた。活動のなかで防災における「備蓄」と「収納」の大切さに気づき、プロフェッショナルとしての「防災備蓄収納プランナー」を育成する協会を、2016年8月に発足させた。

  • 一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会
    代表理事 長柴 美恵氏

職場で準備しておくべきものとして、長柴氏が真っ先に挙げたのは「自分の身を守る意識づけ」と「『従業員の連絡先』をクラウドや紙ベースでバックアップしておくこと」だ。

「災害が起きたら、なによりも自分の命を守る事が最優先です。ついパソコンを支えたりしてしまうかもしれませんが、データよりも自分の身を守ってください。復旧はそのあと、となるのですが、私が福島で出会った社長さんは、従業員の連絡先が津波で流されてしまったがために、全員の安否が確認できるまで1ヶ月以上かかったそうです。なので、別の連絡手段を用意しておくことはとても重要です。その方は『従業員がいなければ会社はダメになる』とすごく辛そうな顔で話されていました」(長柴氏)

加えて、日本人の性格として、災害が起きても職場に向かおうとしてしまう傾向があると長柴氏。「まずは状況を把握して、危険な場合は『会社に来なくてもよい」と伝えることも必要』と、従業員の命を守る大切さを説いた。

しかし、職場で働いている時間は、家にいる時間よりも長い。災害時の安全を確保するためには、職場にとどまり「家に帰らない」という状況もありうる。そのために備蓄するものが防災用品だ。東京都内の事業所は、3日間分の水・食料・そのほか必要物資を備蓄することが義務づけられている。

防災用品は、「会社が用意するもの」と「個人が用意するもの」をはっきりと区別すべきだと長柴氏は言う。

「水・食料や発電機、ガスコンロ、照明、トイレの凝固剤など、共用のものは会社で備蓄した方がよいでしょう。逆に、下着や歯ブラシなどいち個人として必要なものは社員が自分で用意すべきです。女性・男性で必需品も変わってきます」(長柴氏)

非常食の管理方法

防災用品はただ保管するだけでなく、その「場所」も検討する必要があると長柴氏は強調する。

「気温が40度を超えるような場所では、食料が傷む可能性があります。想定されている温度を確認しましょう。また、地下の冷暗所に電気関係や食料品を備蓄するケースも多いですが、水害リスクの高い場所では危険です。地域環境に合わせて、いざというときに取り出せる場所に備蓄をしましょう」(長柴氏)

すでに備蓄に取り組んでいる事業所も多いだろう。次に問題になってくるのは、非常食の更新だ。長柴氏は「試食会を行事に取り入れる」ことをすすめる。

  • イベントの開催とともに備蓄品の購入も1年ごと小分けにするとよいとすすめてくれた

    イベントの開催とともに、備蓄品の購入も1年ごと小分けにするとよいとすすめてくれた

「大手食品メーカーが非常食に参入してきたことで、10年前に比べると美味しいものがたくさん増えています。賞味期限ギリギリで社員に渡すと廃棄になりやすいので、賞味期限切れ1年前くらいから、試食会のような防災イベントを開催してはどうでしょうか。防災の日やオフィスの書類などを整理する際に合わせると導入しやすいと思います。みんなで食べてみることで『この味がよかったから自宅でも備蓄しよう』と、社員の意識を高めることにも繋がります」(長柴氏)

災害時のフリーWi-Fi活用

災害時の備えとして、水や食料などの生存必需品に次いで重要なものが「通信手段」だ。災害を受けた被災者ほど、テレビを見ることもできず、ネットも繋がらないために、何が起きたのか分からない。場合によっては、自分が今いる地域が安全かどうかの判断すらできない。通信手段は、命を救うために欠かせない「備蓄品」なのである。

「00000JAPAN」は、被災地域の人々のために無料開放されるWi-Fiサービスだ。災害時には、企業や学校・病院・駅・交通機関などに設置されたWi-Fiスポットを経由して、このフリーWi-Fiを利用できるようになる。熊本地震から運用が始まった災害時の通信サービスであり、LINEやFacebookなどを通じて安否情報の伝達に活躍した。

00000JAPANについて

災害時に使えるフリーWi-Fi「00000JAPAN」とは?
――Wi-Biz 北條博史会長インタビュー

こうした災害時のネット環境を用意するために、無線LAN機器メーカーのフルノシステムズは、「防災Wi-Fiソリューション」の提供を始めている。同社の既存のアクセスポイントに「鍵つきのスイッチ」を追加することで、00000JAPANへの切り替えを簡単にできるようにしたものだ。情報システムに詳しくなくとも――たとえ体育館に避難した小学生であっても――その場でカギを回せば、すぐに00000JAPANが利用できるようになる。

  • スイッチは手のひらに十分おさまるサイズで、複数の社員に持たせることもできる

    スイッチは手のひらに十分おさまるサイズで、複数の社員に持たせることもできる

通信手段がなければ、社員に連絡を取ることもできない。また、職場や避難所などで寝泊まりすることによるストレスを、通信によって和らげることができると長柴氏は「防災Wi-Fiソリューション」を評価する。

「職場から自宅に帰ることができず、家族と連絡も取れないのでは、不安は募るばかりでしょう。復旧までの期間、少しの言葉を交わせるだけでも大きく違います。また、つらいめにあっている人同士ではなかなか愚痴を言うことができません。我慢してしまうのです。離れている友人に『トイレが汚い』とか『お風呂に入りたい』とか本音を言えるだけでも、楽になるものです。少しでもインターネットが使えれば、被災者のこころの負担を和らげることができるのです」(長柴氏)

新年度に心がけること

備えることの大切さは災害だけに限らない。交通事故やインフルエンザの流行、情報漏洩など、事業活動に支障が出るような事態のリスクは常にある。

一方、社内を見渡せば、ずっと未使用のまま埃を被っているモノや、意味もなく残っているモノがあちこちにある。本当に有効なモノはどれだけあるだろうか。担当者だけでなく、社内全体で「安心できる職場づくり」へと意識を向けることが必要だ。

長柴氏はインタビューの最後、職場における防災への心構えとして、こう締めくくった。

  • 「まずは命を守ること」長柴氏は改めて災害時の心得を強調した

    「まずは命を守ること」長柴氏は改めて災害時の心得を強調した

「熊本地震のころから企業の防災への関心は高まっています。『本業に忙しいから、防災に取り組む時間なんて無いよ』と思っていても、いざ災害が起きたらどうでしょうか。業務が止まったり、従業員が亡くなってしまったりしたら、それは会社にとって最も大きなダメージとなるのです。災害はどうしても起こってしまいますが、二次災害は人の手で防ぐことができます。ぜひ会社の業務として、非常事態への備えに取り組んでいただきたいと思います」(長柴氏)

一般社団法人 防災備蓄収納プランナー協会の情報はこちら
https://bichiku-shunou.or.jp/

『00000JAPAN』の情報はこちら
https://www.wlan-business.org/customer/introduction/feature

『Wi-Fiモードセレクター』の情報はこちら
http://www.furunosystems.co.jp/bousai_wifi/

[PR]提供:フルノシステムズ