企業においてコンピュータシステムは単なる付加的な設備ではなくビジネスの本流を左右する重要な要素になりつつある。製造業においては設計支援や生産管理を担う根幹であり、金融業においてはコンピュータシステムの速度が勝ち負けを決めるといっても過言ではない。小売業やサービス業などではスマートフォンによっていかに顧客との接点を持ち続けるかが要点ともいわれるが、最終的に情報を集約するのはサーバーだ。サーバーやストレージ、ネットワークシステムを集中的に管理運用するデータセンターが企業の命運を握っているのであれば、そこを差別化することが情報システム部門に課された命題といえるだろう。ザイリンクスはデータセンターをアクセラレーションするためにFPGAを活用することを提案している。ザイリンクスはFPGA市場におけるリーディングベンダーとしてこれまで組込系システムに向けたプログラマブル・デバイスを開発、提供するファブレス半導体企業というのがマーケットでの一般的な認識だが、そのザイリンクスがデータセンターでのFPGAの応用に注力しているという。組込系デバイスベンダーからデータセンターを強化するプラットフォームサプライヤーにシフトするザイリンクスの今を聞いた。

あらゆる面でCPU・GPUを凌駕するアクセラレーションを実現

ザイリンクスの営業部本部長である秋山 一雄氏は「ザイリンクスはFPGAではトップベンダーですが、今、大きくコンピューティングに関するトレンドがシフトしていると思っています。高速化と省電力化がデータセンターの大きな課題となっている現在、CPUだけでコンピューティングを行うことには限界が見えています。ムーアの法則の限界ともいえますが、その際にGPUだけではなくFPGAが有力な選択肢として挙がってきています」と語る。

  • ザイリンクス株式会社
    グローバルセールス 営業部 本部長 秋山 一雄氏

エンジニアリング本部シニアFAEマネージャーの堀江 義弘氏は「GPUは演算リソースの使用効率を上げてスループットを向上するためにデータをまとめて実行する「バッチ処理」という手法がよく用いられます。この手法ではスループットは向上する反面、処理するデータがそろうのを待つ遅延が発生します。FPGAはハードウェアによる高速かつ大容量の並列処理により、低遅延と高いスループットを同時にかつ安定的に実現します」とGPUとFPGAの違いを説明する。

  • ザイリンクス株式会社
    エンジニアリング本部 シニア FAE マネージャー 堀江 義弘氏

また性能に関しては機械学習の推論を例に、ハイエンドCPUと比較して約20倍、最新のハイパフォーマンスGPUとの比較でも4.7倍の性能が出るという(バッチサイズ=1の場合)。さらに消費電力においては4倍の電力効率を実現しており、データセンターの熱対策コストの削減やラックの高密度化への効果は大きい。

こうしたFPGAの強みを背景に、同社は2018年10月に開催されたザイリンクス・デベロッパーフォーラム(通称XDF)において、業界でも注目を浴びることとなった大きな発表を行った。ファブレス半導体企業として1984年の創業以来培った品質と信頼性のノウハウを武器に高信頼性を保証する商用アクセラレーターカード「Alveo」を発表したのだ。これが「データセンターファースト」のキャッチフレーズのもと、デバイスベンダーからプラットフォームサプライヤーへの脱却を図るザイリンクスの第一弾の製品となる。

  • 性能、速度、電力効率、すべての面でCPU、GPUを凌駕するアクセラレーションカード「Alveo」

    性能、速度、電力効率、すべての面でCPU、GPUを凌駕するアクセラレーションカード「Alveo」

データセンター向けの営業活動に従事する住川 直久氏は「エンタープライズのお客様にとって、FPGAは難しそうという感覚があったと思います。しかし既に組込系以外にも多くの事例があるので、まずはそれを知っていただきたい」と語り、Hadoopや金融業界での導入事例も増えていると紹介した。

  • ザイリンクス株式会社
    グローバルセールス アンド マーケティング
    営業部 ストラテジックアカウント セールスマネージャー 住川 直久氏

ダイムラー社が車載AIシステムにザイリンクス テクノロジの採用を発表したことは、低遅延、パフォーマンス、消費電力における優位性を明らにした事例といえるだろう。それを裏付けるようにデータセンターにおいて低消費電力化とパフォーマンスの向上を実現するソリューションとしてザイリンクスFPGAの適用が近年広がりを見せている。

  • 本文で紹介したダイムラー社以外にもSKテレコム社のスマートスピーカーにザイリンクスのFPGAが採用されている

    本文で紹介したダイムラー社以外にもSKテレコム社のスマートスピーカーにザイリンクスのFPGAが採用されている

堀江氏はFPGAを使用するメリットの大きい適用分野としてスマートNIC(Network Interface Card)やスマートSSDを挙げた。「ネットワークのソフトウェア化と転送レートの高速化が同時に進んでおり、ネットワーク処理の負荷はCPU性能の限界を迎えている。CPUがソフトウェアで処理してきたOVS, SSL/TLS(※)などのネットワーク処理をスマートNICに搭載されたFPGAにオフロードすることでCPUの負荷を大幅に軽減しネットワークの高速化を実現するトレンドが加速しています。これはネットワークとのインターフェース機能を搭載できるFPGAの大きな強みのひとつです。この強みはストレージの世界にも起きています。SSDコントローラーカードにFPGAを実装したスマートSSDでは、圧縮、イレイジャーコーディング、重複排除などの機能、さらにはSQLなどのデータ検索機能をCPUからオフロードし、データ転送量を削減することで大幅な高速化と低消費電力化を実現しています」と語る。

(※)
OVS=Open vSwitch
SSL=Secure Socket Layer
TLS=Transaction Layer Security

スマートNICもスマートSSDもCPUでは処理が難しくなった機能を実装することでASIC並みの高速性とASICでは実現できない柔軟性を同時に実現できている良い事例だ。データセンター全体の高速化と省電力は近年のIT部門における重要な課題となっているが、スマートNICに代表される「サーバーのCPU負荷を減らすこと」にFPGAが大きな役割を果たしていることは知っておくべきであろう。

実際の運用を見越した充実のプラットフォームを提供

またソフトウェアスタックも充実している。IDE(統合開発環境)としてザイリンクスのSDAccelが用意され、コンピュート、ストレージ、ネットワークなどに特化したファームウェア、その上にミドルウェアやライブラリ、さらにTensorFlowやSDN、OpenStackなど業界標準のフレームワークを利用可能としており、開発言語としてCやC++が使えること、AWSにFPGAのインスタンスが存在し、オンプレミスとクラウドを相互に利用できることはエンタープライズのIT部門としては注目すべきポイントだ。

  • ソフトウェアの開発・運用まで、"実践"を見越したプラットフォームが用意されている

    ソフトウェアの開発・運用まで、"実践"を見越したプラットフォームが用意されている

組込システムとデータセンター、対岸をつなぐ「データセンターエコシステム」

ザイリンクスは、データセンターへと活用が急速に広がるなかで、導入事例、ノウハウやソリューションを共有するエコシステムの拡大にも力を入れる予定であるという。住川氏は「世界に先駆けて日本法人がそれをリードする形でコミュニティの拡大を目指す」と語る。

ザイリンクスによるデータセンターのイノベーションについて、レッドハットでエンベデッドシステムを担当する田中 勝幸氏は「レッドハットはハイパフォーマンスコンピューティングのエリアでは以前から多くの利用実績があります。最近はエンタープライズ企業のデータセンターでの仮想化やコンテナ化の需要が大きく、組込系システムとデータセンターのシステムは少し距離がある感覚だったのですが、ザイリンクスのソリューションがFPGAをデータセンターで活用する方向になることで可能性が広がっていることを実感しています」とコメントし、人工知能などのワークロードに対してサーバーを強化する選択肢としてGPUだけではなくFPGAも有力な候補となってきたことに大きな期待を表している。

  • レッドハット株式会社
    パートナー・アライアンス営業統括本部OEM営業本部
    Embedded営業 シニアパートナーセールスマネージャー 田中 勝幸氏

さらに、レッドハットとザイリンクスのパートナーであるアヴネットについても田中氏は「組込系システムとデータセンターシステムの両方を理解しているパートナーというのは意外と少ないので、アヴネットにはその部分のシナジーを期待しています」とコメントする。

  • ザイリンクス、レッドハット、アヴネットが提唱する「データセンターエコシステム」

    ザイリンクス、レッドハット、アヴネットが提唱する「データセンターエコシステム」

組込系デバイスベンダーからデータセンターを強化するプラットフォームサプライヤーへ。AWS、マイクロソフト、アリババクラウドなど世界のハイパースケーラーで利用が広がるFPGAの可能性はこれからだ。

  • 集合写真

セミナー開催情報

FPGAが切り拓く次世代コンピューティングの世界
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セミナー

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本稿では紹介しきれなかった最新の技術・製品動向をデモもまじえて分かりやすく解説します。各社よりビジネス・マーケティング戦略もご紹介しますので、次世代コンピューティング関連のビジネス開発責任者・エンジニアの方に最適なセミナーです。

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