2016年夏に北米オハイオ州やペンシルバニア州などで、17年ゼミが大量に発生しました。17年ごとに発生する不思議なセミです。北米には17年ゼミ以外に13年ゼミもいます。不思議なことに13と17という素数です。この数値以外に周期的に発生するセミはいません。何故素数のサイクルで発生するようになったのでしょうか。

13年ゼミと17年ゼミは何故生き残ったのか

昆虫好きな人はご存じかもしれませんが、素数ゼミ進化の謎を辿ります。日本の研究者の説と海外の研究者の説の間で微妙に異なる部分もありますが、静岡大学の吉村教授の理論によると、素数ゼミの進化には数学の素数と素数以外の数の最小公倍数の特性の違いが関係しているそうです。素数ゼミは17年または13年ごとに北米で一斉に発生するわけではなく、ある地域の素数ゼミだけが、その地域だけで、17年あるいは13年という決まった周期で発生します。そして、発生する年は地域ごとにずれているので、アメリカ中が一斉にセミだらけになることはありません。

昆虫が登場したのは、今から2億年近く前の恐竜がいたころです。それからほぼ2億年が経過した200万年前は氷河期となります。その寒さのためセミの成長もどんどん遅くなり、地中で過ごす時間が長くなったと言われています。一方で北米大陸の中の盆地や暖流の影響で、比較的過ごしやすい場所では、一部の生物は氷河期の中を生き延びました。そのころにはセミは地中で10年以上過ごすようになりましたが、13年と17年の周期で地上に顔を出す素数ゼミだけが淘汰に勝ち残ります。その原理を図解で見てみましょう。

下表は、各サイクル間での、生まれた時に他のサイクルのセミが同時に発生するかを○印で示しています。例えば、6年サイクルのセミ(6行目)を見ると、1年、2年、3年の異なるサイクルで登場するセミとも出くわすことになります。一方、素数サイクルのセミは、最初のサイクルの年には毎年発生するセミと同じサイクルのセミにしか遭遇しません。ただし、氷河期のころには10年以上地中で過ごすようになっていたので、毎年発生するセミは寒さに耐えられず、死滅(または無視していいほどの数)していったと考えられます。

ここで異なるサイクルのセミと交配することで、子孫の遺伝子の劣化が進み、死滅する確率が上がるというのです。この点、英国の研究者は遺伝子ではなく天敵となる生物との遭遇説を唱えていましたが、いずれにせよ、異なるサイクルの種との遭遇が、素数サイクルのセミが圧倒的に少なく有利だというのです。これが、200万年という長い時間の中で数を維持できたのが13年ゼミと17年ゼミということになったようです。

ここで19年や23年といった19年以上の素数だっていいじゃないか、という疑問が生まれますよね。研究によると、18年以上になると昆虫そのものの寿命の観点から生存が困難となるようで、18年以下で最大の素数の17と次に大きい13という数字に落ち着いたということのようです。

少し分かり易くいうと、18年間分の酸素の備蓄がある安全で温かい地下室の中で、酸素がもつぎりぎりまで過ごして、13年目または17年目に覚悟を決めて外部に出て優性遺伝のできる相手と子孫を残していくのが、最も子孫繁栄には効率的だったということでしょう。素数の特性が、RSA暗号以外にも昆虫の進化にまで影響した面白い現象です。

おまけの話

2004年にニューヨーク付近で大発生した素数ゼミの次の発生は、17年後の2021年といわれています。その数、数十億匹と予想されています。その年の夏、ニューヨーク近郊に出張や観光に行かれる方は、鳴き声と路上の死骸にびっくりしないようにしてくださいね。

本記事は、アイ・ユー・ケイが運営するブログ「つぶやきの部屋」を転載したものになります。

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