2023年2月15日、GSアライアンスは、同社が合成している量子ドットを合成最適化し、それを水菜に肥料として与えたところ、紫外線の照射に対して水菜を発光させることに成功したと発表した。では、この"光る肥料"はどのような点で役立つのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

植物が取り込むことで発光する量子ドットナノ肥料を開発

この光る肥料とはどのようなものなのか。それは「量子ドットナノ肥料」という。量子ドットとは、量子化学や量子力学に基づく光学特性を持つ、ナノスケールの超微細構造を持った材料のこと。1個あたり原子が数個から数千個集まった微細な塊で、直径は0.5nm~9nmだとされており、人工原子や人工分子などとも言われる。

一方のナノ肥料とは、読んで字のごとくナノサイズの肥料のことだ。ナノサイズなので、細胞と細胞の間を通過することができる。すると、微生物に分解されていない状態でも植物が取り込めるため、より効率的に栄養を植物へと運び入れることが可能になり、投入する肥料の量を削減して収穫量を増加させることもできるという。

そしてGSアライアンスでは、この2つを掛け合わせた量子ドットナノ肥料として、窒素・リン・カリウムを含有した、発光するグラフェン量子ドットを開発したのだ。

  • 紫外線照射下における、通常の肥料で成長した水菜(左)と、量子ドット型ナノ肥料で成長した水菜(右)

    紫外線照射下における、通常の肥料で成長した水菜(左)と、量子ドット型ナノ肥料で成長した水菜(右)(出典:GSアライアンス)

光る肥料がもたらす5つのメリットとは?

では、光る肥料にはどのようなメリットがあるのだろうか。開発するGSアライアンスは、5つのメリットを挙げている。

1つ目は、植物の状態を正確に確認できるようになることだ。植物は、見た目では元気に見えても、実はしっかりと栄養を吸収しておらず弱っていることがある。しかしその変化に気付くことは困難で、見過ごしてしまうケースが多いという。だが光る肥料を用いれば、発光状態を確認することで植物の状態を正確に把握することが可能になるのだ。

次に、農薬や殺虫剤などの検出、あるいは亜鉛・銅・鉄といった植物の成長に不可欠な栄養成分を送り届けられているかの確認に活用できる点がある。植物に量子ドットが届いているかが可視化されることで、一見わからない情報も得られ、品質管理も容易になるのだ。

そして4つ目が、遺伝子導入技術への適用だ。人口増加などに対する解決策として、遺伝子組み換え食品が1つの選択肢となっている。そこで量子ドットナノ肥料のテクノロジーを活用すれば、組み換え遺伝子や核酸を、植物細胞へと効率的に届けることができるようになるという。

さらに5つ目として挙げられたのは、植物の成長促進効果。太陽光中の紫外線を、光合成でより効果的な青や赤色の光に変えることで、植物の成長を加速させられる可能性があるというのだ。

  • シャーレを用いた発芽実験によって成長した、通常の肥料で育てた水菜(左)と量子ドット型ナノ肥料で育てた水菜(右)

    シャーレを用いた発芽実験によって成長した、通常の肥料で育てた水菜(左)と量子ドット型ナノ肥料で育てた水菜(右)(出典:GSアライアンス)

いかがだっただろうか。光る肥料にこれほどまでに大きなメリットがあることに、正直驚いた。植物の生育や高い品質管理、そしてこれからの食料生産において、とても重要な研究成果だと感じる。