経済ジャーナリスト夏目幸明がおくる連載。巷で気になるあの商品、サービスなどの裏側には、企業のどんな事情があるのか。そんな「気になる」に応え、かつタメになる話をお届けしていきます。

コンビニは立ち読み客を「利用」していた!?

道路に面したコンビニの雑誌・書籍コーナー

コンビニの雑誌・書籍売場って、必ず道路に面していませんか? これじつは、立ち読みにきたお客さんを上手く「活用」していたんです。誰もいないお店って、心理的にちょっと入りにくいですよね? 逆に強盗にとっては狙い目かも。一方、雑誌や書籍を立ち読みするお客さんは、売場の滞在時間が長め。そこで「長居するお客さんには外から見える場所にいてもらおう」と、あのレイアウトになっているんです。

そう、コンビニのレイアウトって、なるべくたくさん買ってもらうため改良に改良を重ね、こうなっているんですね。ところが最近、このレイアウトを変えようという動きも……。そんなわけで今回は「現状なぜこのレイアウトなのか」、さらには「なぜ変わろうとしているか」をお伝えします。

きっと、コンビニ業界の頭の良さに舌を巻くと思いますよ!

レジ横の和菓子が重要な責務を担っていた!

まず、既存のレイアウトについて解説させてください。どのコンビニでも、飲料やお弁当ってわりと奥にありますよね、理由は簡単です。皆さんはコンビニに何を買いに行きますか? 多いのはサンドイッチ、おにぎり、飲料あたり。じゃあお客さんは目的の品だけ買って帰るかといえばそんなことはなく、スイーツを手にとったり、「あ、洗剤なかった」と日用品を買ったりします。一方、お店の売上げは、客数×客単価で求められるもの。すなわち一人お客さんがきたら、お店側はなるべく「ついで買い」「衝動買い」してもらいたいのです。とすると、飲料やお弁当をなるべく奥に置けば、商品を手にとってレジに並ぶまで、いろんな商品を見てもらえるじゃないですか! というわけで、飲料やお弁当はなるべく奥に、がコンビニの鉄則なんです。

実をいうと、コンビニのレイアウトの工夫はほぼこの感じ。例えばビールを買うと、そのすぐ隣か、振り返ったところあたりにおつまみが置いてないですか? これは「お隣の法則」「振り返りの法則」といわれます。近くに置いておくと、ついで買いしてもらいやすいのです。

レジ横にある定番商品

さらには「レジ横」や「レジ近くのエンド(=棚の端)」は衝動買いをしてもらいやすい場所。ここには価格帯が低いお菓子が並ぶことが多いようです。なぜって、レジに並んでいるとき、レジ横のチロルチョコや和菓子、レジ近くのエンドにあるガムを見て「あ、これも」と思ったことありませんか? また「レジ前のジャンブル陳列」も、商品を思わず手にとってしまう仕掛けのひとつ。ゴンドラを出して、わざわざちょっと大雑把に並べると「値引き」「投げ売り」の暗示になるのです。そこで「安いならこれも」と手にとるわけ。

また「ゴールデンラインの法則」も使われます。商品が陳列されている棚を眺めるとき、人は少し伏し目がちに眺めます。だから棚のなかで目立たせたい商品は、人の目の位置より少し下、具体的には床から135センチくらいの場所に置かれます。

さらには「いい場所」にどんな商品があるかで、そのコンビニがどこに力を入れたいかわかりますよ。「コンビニはどこでも同じでしょ?」と思ったら大間違い。仮に女子大の近くならスイーツや女性向けのお弁当を充実させますし、例えば「六本木のコンビニはストッキング売場が充実している」という都市伝説もあります(遊びに行く女性が買っているわけですね)。また、レジ横の和菓子にもお客さんへのメッセージが込められているんですよ。和菓子は比較的高齢のお客さんに好まれます。そこで「コンビニには“若者向け”のイメージがあるかもしれませんが、高齢の方も大切にしてますよ」というメッセージを込め、和菓子を目立たせている場合があるのです。

セブン-イレブン社長が話す店舗レイアウト刷新の理由

しかし、この計算され尽くされたレイアウトが、最近、変わろうとしています。2017年、セブン-イレブンは、店舗レイアウトを刷新する戦略を打ち出しました。ざっくり言えば、レジカウンターが少し長くなり、冷凍食品、チルドケースのスペースも増え、逆に雑誌・書籍のコーナーは縮小されています。そこそこ大きなニュースになったので、ご存じの方も多いかもしれません。

なぜなんでしょう?

答えは「変化への対応」です。コンビニが一気に増えた時代に比べ、雑誌の売上げは下がっています。非公式ですが、コンビニ業界の雑誌系の売上は10年前に比べても半減、逆に冷凍食品系の売上は4倍になった、というデータもあります。また、コーヒーやドーナツなどレジカウンターで扱う商品が増えたから。たしかに、ちょっとむりやり感が出ちゃっている店舗もありますね。

ちなみにセブン-イレブンの井阪隆一社長は、以前、筆者のインタビューに答え「コンビニは変化対応業です」と話したことがあります。そして、この新レイアウトこそ、井阪氏が話した「時代の変化を反映」するもの、というわけ。

余談ですが、筆者の本業は経営者への取材で、企業のトップはまず間違いなく「変化への対応こそが企業経営の要」といいます。そう、すべては過渡期。当たり前だと思っていた「コンビニのいつもの感じの店舗レイアウト」も変化し続け、いつか、現在のコンビニを見た未来の若者が「なんかこのコンビニ、懐かしい感じだね」なんて話す日が来るのかもしれませんね。ちなみに、セブン-イレブンでは、先行テストを行ったお店の売り上げはきっちり増加したそうです。

著者略歴

夏目幸明(なつめ・ゆきあき)
'72年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店入社。退職後、経済ジャーナリストに。現在は業務提携コンサルタントとして異業種の企業を結びつけ、新商品/新サービスの開発も行う。著書は「ニッポン「もの物語」--なぜ回転寿司は右からやってくるのか」など多数。