
日米関税交渉の合意によって日米両国が造船分野での協力も進めることになったことを背景に、国内造船業界では支援体制が強化されるとの期待感が強まっている。造船業を巡っては、建造能力を高める中国と韓国で世界の新造船受注の8割超を占める中、日本はシェアが1割以下に低迷するなど厳しい状態が続く。しかし、日米協力を背景に、政府がこれまで以上に国内業界への基盤強化策をてこ入れする環境が整いつつある。
6月には、自民党内で海運・造船などの海事産業が「国家安全保障を支える極めて重要な役割を担っている」として、官民協力や投資が必要だとの政府への緊急提言がまとめられた。
提言では特に国内造船業の再生に取り組む必要があると指摘。国主導で1兆円以上の投資基金を創設することや国内造船所への支援、業界再編を推進することなどを求めた。
国交省はこの提言にも後押しされ、26年度予算の概算要求では造船業再生に向けた予算獲得を狙う。建造工程の生産性向上や設備投資支援などには前年度を上回る予算額を要求。日米協力分野については額を明示しない「事項要求」とした。
ただ、造船分野での日米協力は容易ではない。業界関係者は、「日本国内でも人手不足は深刻だが、建造実績がほとんどない米国内で人材を集めるのは現実的ではない」と指摘。現地に投資しても実を結ぶかどうかは不透明だ。
国交相の中野洋昌氏は「この機会を生かして、今後の造船市場における優位性を確立していくことが重要だ」と語る。ニーズの高い次世代燃料船などを念頭に、国内での産業基盤強化に着手したい構えだ。