世界はつながっている 【私の雑記帳】

人類は進化しているのか

世界はつながっている─。人類が誕生したのは約500万年前のアフリカで、以来、〝猿人〟、〝原人〟、〝旧人〟、〝新人〟(約4万年前に出現、クロマニョン人)といった進化を遂げてきたとされる。

 この間、人類は戦闘、対立・抗争を繰り返しながらも、新しい秩序を求めて、調和、共存を模索。

 常に争い事を経験しながら、それを治める手立てを講じてきた人類だが、2025年という今も、新たな『分断と対立』を抱えながら、新秩序づくりへの人類の模索が続く。

 国と国のつながり、社会と社会、人と人のつながりを求める営みだ。国も、企業社会も人も決して単独では生きてはいけない。〝新しいつながり〟をどう構築していくか。トランプ・ショックが吹き荒れ、当の米国ですら、〝株安・債券安・通貨安〟というトリプルパンチを受け、混乱が続く。

 当分の間、この混沌とした状況が続くことを覚悟しながら、ソリューション(解決策)を求め続けていかないといけない。本当に、人類は進化しているのかどうか、その真価が問われていると思う。

他者のために、他者とともに

 For Others, With Others(他者のために、他者とともに)─。この教育精神を掲げるのは上智大学。イエズス会によって1913年(大正2年)に設立され、112年の歴史と伝統を持つ大学。

 その上智大学で初の女性学長が誕生。杉村美紀(すぎむら・みき)さん。1962年(昭和37年)3月生まれの63歳。専門は国際教育学で、総合人間科学部で教授を務めてきた人。

 杉村学長は今年4月の入学式で、『For Others, With Others』の言葉を新入学生に送った。

 杉村学長のインタビュー内容は後日、本誌『財界』誌に掲載するが、「皆さんと手を取り合い、開かれた大学に」と、常に笑みを浮かべながらも、共存共栄社会実現に向けて、芯の強さを持った言葉でインタビューに応じていただいた。

 東京・四谷の応接室の壁には、中世期に日本で布教活動をした宣教師・フランシスコ・ザビエルの肖像画が掛けられている。

 ザビエルがじっとこちらを見ているような気配を感じながら、杉村学長に話をうかがった。

国際教育の真髄

 杉村さんは、国際教育学、多文化教育論が専門ということもあって、世界各地を飛び回っておられる。昨年9月、新学長に選ばれた─という知らせを受けたのも、エチオピアにいた時だったという。

 国際教育は、異なる文化や価値観の中で、互いに尊重し合い、地球規模の視野を持って課題解決に向かうというもの。

 その根本は、人として生きるために、どう考え行動するかという所にある。最先端分野の開拓もそうだし、紛争地での難民救済や、厳しい環境下でのあり方など、難問解決に立ち向かう人材を育てることに国際教育学の真髄がある。

 多くの留学生が学ぶ同大学の新入学生に杉村さんが、『For Others, With Others』と第一声を放たれたのには、そうした思いがあってのことだと思う。

 フランシスコ・ザビエル(1506―1552)は、中世期にイベリア半島北東部のスペインとフランスの境に興ったナバラ王国出身だとされる。いわゆるピレネー山脈の麓に位置するバスク地方で、両国の狭間で常に戦乱の中に身を置いていた地域。

 イエズス会創設者の一人であったザビエルが日本に来たのは1549年(天文18年)。薩摩国・坊津に上陸し、日本で布教活動を続けた。当時の日本は戦乱期で、織田信長が勢力を拡大し、全国統一をほぼ果たそうとしていた。

 ザビエルの行動力というか、人への感化力には目を見張るものがある。薩摩の守護大名、島津貴久や周防(山口)の大名、大内義隆、さらには豊後(大分)の大名、大友宗麟といった多くの有力大名と面会している。大友宗麟は後にキリシタン大名と呼ばれた人物。

 ザビエルは日本人の印象について、「今まで発見された国々の中で最高」と表現し、日本人より優れている人々は異教徒の間では見つけられないと評価している。

 また、当時あった足利学校(栃木)の存在にも触れ、日本(人)の教育熱心さにも刮目している。

 彼は、キリスト教への警戒心が出始めた日本を去り、インドのゴアで亡くなるが、日本人の精神に与えた影響は大きい。山口や鹿児島など各地にザビエルの名を冠した教会が今日も存在している。

 鹿児島でいえば、ミッション系中高一貫教育の私学、ラ・サール学園も、1949年(昭和24年)、ザビエルの坊津上陸400周年を記念して、地元の財界が音頭を取って設立された。

 戦乱期の中で、人材づくりに奔走したザビエルの生涯である。

山下一仁さんの言葉に・・・

 21世紀に入って25年目。2001年にはアメリカ同時多発テロ事件が起き、2008年にはリーマン・ショック、国内では東日本大震災(2011)が起きた。

 2022年には、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、戦争は3余も続く。イスラエルとイスラム軍事組織・ハマスとの戦闘も終結のメドは立っていない。

 そうした混乱が続く中での、米トランプ政権の高関税策。だが、ディール(取引き)という次元で国際間の利害解決が一気に進むほど、現実世界は甘くない。

 多くの利害が対立し、絡み合う中で、解決への道筋を示すのはやはり、「世界はつながっている」という意識ではないか。

「米国は搾取されている」と叫び、貿易赤字も他国のせいだ─というトランプ氏の主張に米国民の半分は同調。しかし、その低所得層の人たちも、高関税策がインフレを招き、物価高で生活が苦しくなることに気付き始めた。高関税策への反発が強まり、世界では脱アメリカの動きも出始める。

 ここは、世界はつながっているとして、共生の思想に立ち戻る時だ。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁さんは次のように言う。

「東日本大震災の時に僕がびっくりしたのは、震災が起こった時に、デトロイトの自動車メーカーの生産ラインが一斉にストップしたことです。何故かいうと、塗装の黒インクが手に入らなくなったからです。日本で黒インクを製造している工場が東日本大震災でやられたんですね。日本からインクの輸入が途絶えたから、デトロイトの工場まで止まってしまった」

 山下さんが続ける。

「われわれが見つけられない、分からないような小さな部品が全体を左右するような影響を持つわけです。インクなんか大したことないじゃないかと思うけど、それが無ければ車は作れない」

 国も企業も個人も、一人では生きていけないという現実を直視するところから、グローバル世界を考える時だと思う。