
全てを見抜かれていた…
─ 前回はバブル崩壊後、高級オーディオ機器が売れなくなり、半年で売上が半減。資金繰りに奔走する日々が続き、リユースビジネスへの業態転換を徐々に考え始めたというお話でした。
山本 はい。やはり、オーディオ機器は贅沢品ですからね。景気が悪くなった時でも、食料品などの生活必需品は買わなければなりませんが、節約するなら贅沢品は真っ先にその対象になりますよね。だから、あの頃が一番苦しかったです。
ハードオフを上場企業に育て上げた山本善政の 「幾多の試練を乗り越えて」
─ それがハードオフ1号店を出店する前年の1992年でしたね。
山本 そうです。実は一度、日本酒『菊水』で有名な菊水酒造の社長だった高澤英介さんに資金繰りの相談へ行ったことがありました。
とにかく、銀行から最後通告を受けましたから、彼らは融資してくれない。それでも何とかしなければならないということで、スケベ根性で高澤さんなら何とかしてくれないかと。あわよくば保証人になってくれないかということで、高澤さんに会いに行ったわけです。
─ そこで高澤さんに保証人になってくれとお願いしたんですか。
山本 本当はそう言おうと思って、喉元まで出かかったんですが、高澤さんはわたしに会うなり、一言だけ言ってくれました。
「山本さん、真っ白になりなせや」と。
─ 新潟弁で?
山本 ええ。これは新潟の北の方の方言で、要するに、真っ白になりなさいと。リセットしなさいということですよね。
結局、わたしは高澤さんに全てを見抜かれていたんです。実は、新発田市(新潟県)には加治川といって桜並木で有名な川があるんですよ。この上流に菊水さんの酒蔵があり、蔵が流されたことがあったんです。
この時、菊水さんが新しい蔵をつくるための融資をお願いしたら、銀行から断られたことがあったみたいなんですね。
ですから、ある意味では、わたしと同様の経験をしていたわけで、高澤さんも苦しい時代を乗り越えてきたわけです。
だから、全てお見通しという感じで、わたしが相談に行きたいと言った時点で何の要件か分かっていたんでしょうね。それで、一言だけ「真っ白になりなせや」と。
─ なるほど。頭の中を一度リセットして、自分で打開策を考えろと。
山本 そういうことです。一度、真っ白になって考えてごらんということですよね。
それで冷静になって考えた時に、前回申したように、自分は正しき理念を追求してこなかったと。正しき理念を持ち合わせていなかったことが自分の敗因であり、今、自分が置かれた立場というのは、そのツケが出た結果なんだと思って、ようやく現実を直視できるようになりました。
その意味では、高澤さんもわたしの人生を変えてくれた恩人です。それ以来、わたしもことあるごとに「リセット」という言葉を使うようになりました。