
「もはや建設業界に経験者は数少なくなっている。しかも、今後は少子高齢化で人口は更に先細ることは確実だ。そうであるならば、未経験者を採用して当社で育てるしかない」
今でも忘れもしない2011年3月11日の東日本大震災。この日を境にゼネコン各社は東北に人材を派遣し、東北以外で働く建設業界の人材は一気にいなくなってしまいました。当社は08年に私が父と父の同僚の3人で創業した建設業の人材派遣業の会社を前身としていたのですが、影響は甚大なものでした。
建設業界の経験者を探そうと広告を打っても全く人は集まりませんでしたし、ハローワークで募集を出しても音沙汰がありませんでした。何とか打開策はないだろうか。そこで思いついたのが冒頭のように、あえて未経験者を採用して当社が研修・教育して育て、その人材を建設現場に派遣するというビジネスモデルだったのです。
もちろん、社内からは反対の声も出ました。ただ、私の思いとしては、これからは単に建設業界に人材を派遣するのではなく、技術を提供していくことが大事だと。そのためには、既存の常識に染まっていない未経験者を育てて建設業界の底上げを図っていかなければいけないという危機感がありました。
まずは当社の正社員5人を研修した後に派遣しました。すると意外だったのは、少々、場数の経験が足りなくても、挨拶や礼儀ができ、元気のある若者であれば、育て甲斐があると思っていただけたことです。言葉は多少乱暴でも、当社の社員には出し惜しみすることなく、様々なことを教えてくれるのです。
お陰様で当社の社員はどんどん成長し、建設業界での評判は高まりました。2023年7月には東証グロースに上場し、今では建設現場に派遣している社員は3200人弱となりました。しかも、その約9割は正社員。現場監督として様々な施工管理やスケジュール管理などを担当しているのですが、ほぼ大型工事の現場には当社の社員が派遣されているという状況です。
当初は何もできなくても1人前として羽ばたくことができる。それを当社の社員が身をもって実践してくれているように思います。その意味でも、自分の決断は今でも間違っていなかったのではないかと思っています。