
トランプ大統領は市場を知っている!?
ー 2025年1月20日、米国で第2期ドナルド・トランプ政権が発足しました。トランプ氏の政策は「米国第一主義」ですが、高関税がインフレを招く恐れがあるなど景気へのマイナス影響が懸念されています。その前提から、世界経済に与える影響をどう見ていますか。
菅下 トランプ大統領就任前後のメディアでは「トランプリスク」ばかりが報道されてきました。それは今おっしゃったような高関税を含め、「トランプは何をやるかわからない」と皆が恐れているからです。
ただ、私はトランプ大統領登場で米国の景気、株式市場はさらによくなると考えています。
ー その理由は何ですか。
菅下 米国の株式市場は、一時的な調整局面はあっても、長期的には上昇トレンドが続くでしょう。その要因は、第1にジョー・バイデン前大統領の民主党政権は、全くマーケットを知らない人達ばかりだったことです。
バイデン氏も、ジャネット・イエレン前財務長官も、学校の成績はよかったかもしれませんが、相場には疎かった。そうした人達が、マーケットにプラスになる政策をやらない上に、規制するような政策を取っていたわけです。
ところが今回、再登場したトランプ大統領は41歳の時に、すでに資産4000億円というビジネスマンです。この成功はトランプ氏が不動産市場、株式市場に精通していたからです。
ですから今回、財務長官にスコット・ベッセント氏を抜擢しましたが、民主党政権では考えられない人事です。ベッセント氏は著名投資家のジョージ・ソロス氏のヘッジファンド運用責任者を務めた人物です。
ー 市場をよく知っている人物を抜擢したと。
菅下 そうです。これによって景気、株価にプラスの政策を取ることができるわけです。
また、トランプ大統領の政策は関税の他に大幅な減税、規制緩和、不法移民の排除などを打ち出しています。このうち減税は国債の増発、関税は物価高、不法移民は労働力不足ということでインフレの可能性を多くの人が心配しています。
しかし、トランプ大統領は、こうした懸念を承知していると思います。ですからテスラ創業者のイーロン・マスク氏をトップに起用した「政府効率化省」を設置して、規制緩和を行うわけです。規制緩和はコストを下げますからデフレ政策です。
米国の膨大な無駄をカットする役目を担う組織ですが、マスク氏はわかっているだけでも2兆ドルは削減できるとしています。ホワイトハウスの人員を3分の1削減したり、国際機関への寄付取りやめ、海外に駐留している米軍の撤退や、相手国にコスト負担を求めることなどを含むコスト削減が想定されます。
これらのコスト削減でインフレが相殺される、あるいはインフレを上回るプラスが出てくるのではないかと思っています。
トランプ大統領の政策は、左手にインフレ政策、右手にデフレ政策を持っているということになります。
ー なかなか今のような意見を持つ日本人は多くはありませんね。
菅下 そう思います。この政策はインフレ策とデフレ策で相殺することでインフレを下げるという「ポリシーミックス」です。トランプ氏もマスク氏も起業家であり、何をすれば利益が出るかをわかっていて、目標にしたことを実現する力がある人達です。
減税で景気をよくして、一方で政府のコスト削減というデフレ政策でインフレを抑える。これが実現できれば、米国株はさらに上昇します。
ー どういった銘柄に注目していますか。
菅下 特に上昇するのは、昨年まで米国株を牽引してきた「マグニフィセント・セブン」(米株式市場を代表するテクノロジー企業7社のこと。アルファベット=グーグルの親会社、アップル、メタ=旧フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト、テスラ、エヌビディア)だと見ています。
それに加えて、彼らに続く技術革新銘柄が、今後も続々と出てくるでしょう。なぜなら米国はシリコンバレーを始めとして「種」を蒔いており、日々新たな企業が生まれているからです。
また、ウォール街はトランプ再登場を歓迎しています。各種規制が緩和され、ゴールドマン・サックスなど銀行、金融関連も有望です。
トランプ大統領は米国の「黄金時代」を築くと言っています。これに呼応して米国の株価は上がり、そこに引っ張られて日本の株も上がります。
日本の株価の上値が重い理由
ー 25年に入っても日本の株価の上値が重いですが、要因をどう見ていますか。
菅下 第1に石破政権の不安定さです。何とか政権運営をしていますが低空飛行です。夏の参議院議員選挙が、本物の政権になるか、消えてしまうかの分かれ道になると思います。
石破首相は施政方針演説で、「令和の列島改造」論を打ち出しましたが、安倍政権における「アベノミクス」のような柱となるでしょうか。アベノミクスに対する評価は分かれますが、トップが大きな旗を掲げて進んだことで、日経平均株価は4万円の大台に乗るところまで来たのだと思います。
岸田政権も「資産運用立国」という小さな旗を掲げ、流れを作りました。これは前政権のレガシーだと思います。なので「地方創生」、5本の柱の目標で日本経済が活性化するかどうかが問われます。
さらに日銀の利上げによる経済効果をどう評価していくかも、石破政権の今後の重要課題となります。リーダーの資質が日本の行方を左右すると言っても過言ではありません。
ー 他にリーダーとして期待できる政治家は?
菅下 将来期待できる人物はいますが、残念ながら、現状では与野党ともに見当たりません。ですから、政権が続いているという状況です。政界の人材難は日本の大きな課題です。
ー 歴史を振り返ると、例えば明治維新の時には危機感を持って30代、40代の志士が動きましたし、戦後の若者達にも危機感がありました。今はそれが感じられませんね。
菅下 根本は学校教育の問題です。戦後の学校教育は平等を謳ってリーダー、エリートを育てなくなりました。
日本の株価が上がらない第2の理由は、日本銀行の利上げです。1月23日からの金融政策決定会合で政策金利を0.25から0.5に利上げしたわけですが、利上げが見込まれながら、なかなか利上げをしなかったことが、株価の上値を重くしていました。
前総裁の黒田東彦氏が「物価目標2%」を設定し、デフレを払拭しようとしてきた。そして現在の総裁・植田和男氏は市場を意識し、対話を進めています。日銀の金融政策で株価や為替が悪い方向に動き、景気が悪くなることは避けたいという意識が強いのだと思います。
株価が上がらない第3の理由は、トランプリスクです。ただ、それはトランプ再登場ではリスクよりも「チャンス」だということを日本の多くの方々は知らなかったことが大きいのです。
ー トランプ再登場は株価上昇につながるという考え方ですか。
菅下 そうです。日本では戦後、5回の大相場がありましたが、6回目がアベノミクス相場でした。08年のリーマンショックを織り込んだ日経平均7054円から上昇し、18年10月に天井を付けて終わりました。その後、1年半ほど下落し、20年3月のコロナショックで底入れしたのです。
今は、20年3月19日の1万6000円台から、戦後7回目の大相場が始まっています。24年7月には4万2228円という天井を付けた後、下落調整局面に入りました。
24年8月5日には日銀の利上げなどもあって円が140円台まで急騰、日経平均は4000円以上下落して一番底を付けています。これを一番底として、上昇第2波が始まろうとしていますが、24年末までは、なかなか4万円の壁を抜けませんでした。
ー この4万円の壁を抜けるとどうなると見ますか。
菅下 これまでは3万5000円と4万円のゾーンで揉み合ってきたわけですが、4万円の壁を突破すると、4万円から4万5000円というゾーンに入ることになり、年央までには、おそらく4万5000円近辺を付けると見ています。
ニューヨークダウについては、私が予想しているようなトランプ大統領の「ポリシーミックス」がうまくいけば、この2、3年のうちの近い将来、5万ドル、あるいは6万ドルを目指す展開もあり得ます。
そうなると、石破政権がどうあろうと、日銀がどんな政策を取ろうと、連動して日本の株が上がることになるでしょう。その連動して動くエンジンとなるのが「新NISA(少額投資非課税制度)」から入ってくる個人の資金ということになります。
トランプ大統領は国際紛争にどう対する?
ー ところで安全保障は重要キーワードになっています。ロシア、中国の動きは世界にどんな影響を与えると見ますか。
菅下 もちろん、日本も地政学リスクの高まりと無関係ではいられません。しかし、かつての米ソ冷戦時代に、日本は国際社会に復帰するとともに驚異的な経済復興を果たすという、いわば「漁夫の利」を得ました。その時の状況と、今は似ています。改めて今、米国にとって日本は大事な国だと認識されつつあると思います。
ー ロシア・ウクライナ戦争の行方と米国の関係をどう見通しますか。
菅下 私は軍事の専門家ではありませんが、今や両国とも消耗戦に入っており、停戦に向かう可能性が高いのではないかと見ます。ウクライナの体力は失われ、ロシアも北朝鮮の助けを借りるほどになっている。
ただ、停戦、あるいは休戦を、どちらの顔も立てながら、いかに調整するか。それはトランプ大統領の腕の見せ所です。
トランプ大統領は40代の時に出版した自伝の中で、自分が最も好きなのは「ディール」、取引だと言っています。すでにバイデン政権ではなし得なかったイスラエルとハマスの紛争は休戦まで持ってきましたし、今後はロシア・ウクライナ戦争を収めるための「ディール」に注力するのではないでしょうか。
今後、トランプ効果で世界の紛争が収まればウクライナでも中東でも復興需要が出てきます。この時、欧米の企業以上に日本企業は歓迎されるでしょうから、建設、海運関連は有望視されます。新しいインフラの構築と大規模な輸送が起こり得るからです。
以上のことを踏まえると、日経平均株価は今後、4万5000円が視野に入ります。さらに、米国がトランプ大統領が言うような「黄金時代」を迎えるようになれば、年末までに4万8000円もあり得ます。
ー 政府効率化省に起用したマスク氏と、トランプ氏との関係を危ぶむ声もありますが。
菅下 私は問題ないのではないかと見ています。一方は企業経営者、一方は大統領ですから、喧嘩になりません。マスク氏はトランプ大統領を怒らせたり、信頼を失うようなことはしないのではないでしょうか。
そして、トランプ大統領は常に王道を歩んだわけではなく、バブル崩壊の際には破産しかねない危機に陥り、それを切り抜けて這い上がったという経験を持っています。
しかも、前回の大統領選で敗れながら、ここで再び大統領に返り咲くことができるのは、トランプ氏がそれだけの運と実力を持っているからです。
全てを楽観視するわけにはいきませんが、トランプ大統領、マスク氏の組み合わせで米国の大変革、あるいは国家改造というくらいの改革を進める可能性があると見ています。
米国の国力が低下したのは、過去の大統領が膨大な財政赤字を積み重ねてきたからです。放漫経営です。これは日本も同じです。これを打破する覚悟がトップにあるかが問われます。