【楽天のリテールメディア戦略】出店者広告市場のシェア50%超 メーカーには認知・購買・分析を一気通貫支援

楽天グループ(楽天)は今年10月、ECモール「楽天市場」の広告関連事業に関する説明会を開催した。楽天として強化するリテールメディアの事業の全体像を紹介するとともに、メーカーの販促支援を行うアカウントイノベーションオフィスの取り組みや支援事例についても紹介した。

【<画像20点>楽天のリテールメディア施策の詳細】

楽天の2023年12月期における広告事業売上高は、前期比12.9%増の2065億3600万円となっている。

電通が発表している「日本の広告費」によると、ECモールの出店者が出稿している広告費を算出した2023年の「物販系ECプラットフォーム広告費」は、前年比10.1%増の2101億円だった。

楽天の市場広告部ジェネラルマネージャー 春山宜輝氏は「『物販系ECプラットフォームの広告費』において、当社のシェアは50%を超えるのではないか」と話す。

▲楽天グループ 市場広告部ジェネラルマネージャー 春山宜輝氏

「楽天市場」の出店者による広告売上高だけで、1050億5000万円以上の規模があり、グループのその他の媒体や、出店者以外の広告売り上げを含めると、2000億円を超える規模に成長している。

<リテールメディアのビジネス構造>

楽天はリテールメディアとして、①EC販促支援(出店店舗が出稿) ②流通横断支援施策(商品を供給しているメーカーが出店店舗の販促を支援) ③単独流通支援施策(楽天の直販サービスでメーカーの販促を支援) ④認知拡大・需要喚起施策(メディアとして認知拡大支援)⑤オフライン販促支援(オフライン店舗向けの販促支援)――などの支援を提供している

「楽天市場」の出店者が出稿する以外に、メーカーが広告を出稿し、卸先である「楽天市場」の店舗の販促を支援するケースもある。その他にも、楽天の直販サービスを通したプロモーションや販促支援、ブランドが認知拡大・需要喚起を図る広告出稿、オフラインと連携したプロモーション支援などを提供している。それぞれの用途に応じた、多様な広告プログラムを用意しているという。

「楽天市場」の出店者が活用する最もメジャーな広告が、「RPP(検索連動型広告)」だ。主に検索結果ページの上位に検索されるクリック課金型の広告のこと。

「RPP」よりもユーザーの認知獲得に活用に活用できる広告が、「TDA(ターゲティングディスプレイ広告)」だ。「楽天市場」以外にも決済サービス「楽天ペイ」や楽天モバイルのコミュニケーションアプリ「Rakuten Link(楽天リンク)」などにも広告を配信できるという。

「RPP」や「TDA」の外部拡張サービスの展開も強化しているという。

春山氏は、「楽天市場以外で商品を検索する若年層のユーザーは多い。こうした状況を踏まえて、今年の第1四半期にGoogleと一緒に検索連動型広告を運営している。Googleのショッピング広告に『楽天市場』のシステムを介して出稿できるようにした。さらにSNSが購買行動に与える影響が大きいことを踏まえ、2023年末にMetaと一緒に『TDA(ターゲティングディスプレイ広告)』の外部配信も、『楽天市場』のシステムを介して出稿できるようにした。楽天やMetaのデータを活用し、最適な広告を配信し、最終的には『楽天市場』にランディングしてお買い物していただけるようにしている」と話す。

<メーカーが広告で卸先店舗での商品購入を促進>

「楽天市場」に出店していないメーカーが横断的に販促できるメニューもある。「Sales Expansion(ブランド広告主向け検索連動型広告)」は、メーカーが「楽天市場」の検索画面に広告を出稿でき、取引している出店店舗を指定する形で送客し、後方支援を行う。日々、自社の商品を取り扱ってくれている出店店舗を、メーカーが広告という形で支援し、より「楽天市場」内の自社商品の流通を高めるとともに、卸先の店舗との関係強化を図ることができる仕組みだ。

春山氏は、「耐久消費財メーカーのCV(購入)経路を分析した結果、広告から来訪した経路のCVシェアが34.8%あった。オーガニックで来訪したユーザーにおいても、過去に広告を閲覧したユーザーの方がCVR(購買率)は高くなっている」と話す。

複数の広告プロダクトを提供していることで、それぞれの広告が無駄打ちになることを懸念する声もあるという。

春山氏は、「いわゆるカニバリについて消費財商品の事例で、TDAとRPPの重複はわずか2.5%だけだった。ディスプレイ広告をクリックをしていないが購入しているユーザーがたくさんいる。バナーを見て、サーチをして検索広告をクリックして購入に至るケースが非常に多い。このことからも2つをセットでご利用いただくことを推奨している」と話す。

「楽天市場」内検索と外部検索については、広告をクリックしたユーザーの重複は平均して10%程度となっているという。双方の検索連動型広告を効果的に使うメリットは大きいと強調する。

<オフライン向けの販促も支援>

楽天のエコシステムを活用したオフライン向けの販促施策も提供している。「楽天ポイントカード」と「楽天ペイ」がオフライン広告のアセットとなっている。

流通のID-POSを活用した広告配信・効果測定を支援する「Instore‐Tracking」も提供している。

春山氏は、「楽天IDを一部のオフラインのリテーラーとデータ連携している。『楽天市場』以外のデジタルメディアでターゲティングした場合、どこが一番効果的だったのかを相対的に評価できる」と話す。

レシートを撮影するとポイントがたまるアプリ「Pasha(パシャ)」を活用した販促支援も提供している。

多様な広告プログラムやサービス、ID連携の機能を活用した店頭連想販促施策「リテール販促キャンペーン」も提供している。

春山氏は、「メディアで訴求してクーポンを発行させていただき、ユーザーに店頭での購買を促進する。楽天IDを用いて、その購買データを計測することで、効率的な効果検証を行うことができる」と話す。

<「アカウントイノベーションオフィス」で大手メーカーの販促支援>

楽天が2019年に立ち上げた、大手メーカーの販促を支援する「アカウントイノベーションオフィス」の取り組みについても紹介した。楽天は「中小企業、店舗、ブランド、そして社会をエンパワーメントする」というミッションを掲げており、「アカウントイノベーションオフィス」はこのブランドを販促面で支援する役割だ。

アカウントイノベーションオフィス ジェネラルマネージャーの堀川直裕氏は、「ECがお買い物手段として発展していく中で、一般的に流通している商品もECで販売されるようになった。楽天グループが中小企業や店舗をエンパワーメントしていくことに変わりはないが、一般的に流通する商品の作り手である大手メーカーさまもしっかりとサポートしていく必要があると考え、『アカウントイノベーションオフィス』を立ち上げた」と話す。

「楽天市場」のようなECプラットフォームを効果的に活用しているのは、統計的に外資系企業の方が多いという。国内メーカーはまだまだ組織的に力を入れられていない企業が多く、今後、その活用の伸びしろは大きい。

メーカー向けに多様な販促メニューを要しているが、特に好評を得ているのがフルファネルのマーケティングを支援する「Brand Gateway」だという。

堀川氏は、「『Brand Gateway』はメーカーさまが自社で構えているブランドサイトや自社サービスを『楽天市場』の中に構えることができるサービスだ。『楽天市場』ならではの豊富な会員数を生かし、購買デーを生かし、見込み客の選定から集客、商品理解の醸成、購入促進、リピーター化まで一気通貫で仕掛けができる。最短1カ月間からスポットで実施でき、季節商戦などの支援も可能だ」と話す。

メーカーが自社でプロモーションを行い、ブランドコンテンツを用いて態度変容を促したとしても、ユーザーは購入先を検討しているうちに離脱してしまう可能性がある。楽天であれば、一気通貫で施策や分析ができるため、離脱のリスクを減らすことができる。

ユーザーにアクションを促す際に、利用者数の多い「楽天ポイント」を効果的に活用できる。楽天IDで顧客をチャネル横断的に分析でき、効果的なマーケティング施策の提案も可能だという。

<資生堂やレゴジャパンも「Brand Gateway」で成果>

資生堂は「楽天市場」内にエイジングケアブランド「ELIXIR」のページを設置し、新商品の認知理解を促進した。サンプリングで事前にリードを獲得し、クーポン配布などを展開。商品発売時に一気に購入を促すことで垂直立ち上げに成功した。

堀川氏は、「楽天ではこのような販促に成功すると、商品がランキングに入り、顧客がどんどん広がっていく」と話す。

レゴジャパンは「楽天市場」のメディア的な特性を効果的に活用している。

堀川氏は「『レゴ』というキーワードをGoogle内で検索するユーザー数はなかなか増えない。『楽天市場』の中にはお子さまへのギフトを購入したいユーザーがたくさんいる。そういったユーザーがギフトを探す時に『レゴ』を想起できるようにブランドページを構えている」と話す。

レゴジャパンはブランドページ内で遊び方やキャンペーンの情報を発信している。簡便性の高い商品検索機能も用意し、ギフトなどで子ども向けの商品を探しているユーザーに購買を喚起し、最終的に選ばれるように仕掛けをしている。

レゴジャパンは「楽天市場」のみならず、「Rakuten Girls Award」にブース出展したり、「楽天イーグルス」に協賛してスタジアムでイベントを開催したりすることで、オフラインの接点創出においても楽天と取り組んでいる。

楽天は今後もリテールメディアの取り組みを強化し、出店者や大手メーカーの販促効果の最大化を目指す。