商品画像はECサイトの肝といえる。特にアパレル企業は商品のデザインやブランドの世界観が売り上げに直結しやすいことから、商品画像の見せ方に工夫を重ねている。アパレルECでは動画やスマホの全画面表示など、SNSのような見せ方を強化する流れが進み、実績が出ている企業も目立つ。ECサイトのビジュアル面について、特徴のある企業をまとめた。
<全画面表示はROASやCVRに効果>
ユニクロやZARAのECサイトをスマホで開くと、商品や着用画像をフルスクリーンで表示している。最近は中小規模のアパレルECでも全画面表示を導入する事例が増えている。
全画面表示は、画質を含めた商品・着用画像に強みがあることが前提となるが、広告の費用対効果(ROAS)やコンバージョン率(CVR)に効果が出やすいという。SNS感覚での操作が可能になることから、画像の閲覧数やECサイトの滞在時間も伸びやすい傾向だ。世界観の作り込みや、特に見せたいものの選定をしっかりと戦略化することが成功の鍵となっている。
着用の様子などの動画をメインに表示するECサイトも目立つ。手軽に複数の商品や着こなしを見て、商品のイメージをつかみやすくする狙いだ。世界観の表現の幅が広がることから、ブランドのファン化も促進できるという。
ECサイトの見た目がSNS化するだけでなく、顧客の行動や購買履歴を収集し、パーソナライズした提案につなげている企業も増えている。今後も商品画像の魅力を高め、ブランディングなどの目的に合わせて工夫を重ねる動きは止まらないだろう。
【PLAY PRODUCT STUDIO】縦型表示でCVR向上 強み生かしてROAS1000%超
サザビーリーグのグループ会社であるPLAY PRODUCT STUDIOが運営するファッションブランド「MAISON SPECIAL(メゾンスペシャル)」では、商品の魅力を伝えるためのクリエーティブを強みとしている。
「MAISON SPECIAL」は2019年2月に展開を開始した、メンズ・ウィメンズのアイテムを幅広く展開するブランドだ。2025年2月期における売上高は約43億円、EC化率は約50%を見込んでいるという。
▲クリエーティブが強み
ブランドの世界観の表現や、商品の良さを伝えるための画像といったビジュアル面に注力している。2024年6月には、ECサイトの画像を縦型の全画面で表示するようにした。これにより、通常の商品一覧と比較して、メンズ商品におけるCVRは約1・4倍、広告のROASは1・24倍の1000%以上となった。
SmartECが提供するスマホ用縦型表示ツール「SmartEC」を導入し、商品やモデルの着用画像を全画面で表示している。ユーザーは画像を自由にスワイプし、任意のものをタップすることで商品の詳細画面に移動できる。
「一覧画像だと商品が小さくて見えにくいという課題があったが、スワイプしていく動作により商品の閲覧数が向上した。ダイナミックに見せることで、商品の良さも伝わりやすくなったと思う。新規顧客獲得に向けた広告運用の効果も出やすくなった」(EC事業部 望月亮氏)と話した。
50商品において全画面表示に対応した画像を登録し、平均スワイプ数は30枚を超える。
「売れ行きの良い商品など、多くの顧客が興味を持つ画像を中心に登録している。画像の順番や選定などは戦術として社内でしっかりと検討することで、成果が出ている」(同)と話した。
同社では、ECサイト用の写真を自社で月に2回程度撮影している。
「同じ商品でも違う見せ方をしている。ブランドの世界観を担保するために、常に細部までこだわっている」(同)と自信を示した。
商品画像のデザイン性が高いことにより、実際の着用イメージがつきにくいという点については、スタッフコーディネートコンテンツ(スタッフコーデ)を活用している。
スタッフコーデについては、「以前はスタッフがそれぞれ撮影していた。今は照明やカメラもしっかりと使って世界観の整合性をとっている」(同)と説明した。
今後もブランドの軸をぶらさない表現をしていく方針だ。
「クリエーティブの強みをさらに伸ばし、顧客を飽きさせない、期待を超えるような表現を続ける。将来的には動画も活用してみたい」(同)と話した。
【シップス】D2Cで動画を多用 ターゲットに合わせた表現で訴求
シップスのD2Cブランド「quaranciel(カランシエル)」では、動画を多用した見せ方に注力している。「多忙な現代の働く女性」をメインターゲットとしていることから、手軽に多くの商品を見ることができるページ作りとなっている。
シップスが2023年8月から通常販売を開始した「quaranciel」は、「SHIPS公式オンラインショップ」を主な販路としている。「BASIC TO CHIC(定番をシックに着る)」をコンセプトとし、40代女性を中心にベーシックながらも上品で洗練されたスタイルを提案しているという。
例えば「quaranciel」では、「シックに着こなす1週間コーデ」などの動画をトップページに載せている。動画から商品ページにそのまま遷移できる仕組みだ。「visumo video」の活用とAPIによるデータ連携を実施することで、大量の動画を掲載している。
▲画面左側は動画、右側は動画で紹介した商品のページ
「商品や着こなしなど情報の伝え方については、ターゲットに合わせて『読ませるよりも、見せる』を意識している」(販売促進部 部長 萩原千春氏)と説明した。
【foufou】配置や大きさこだわり 世界観に没頭するデザインへ刷新
「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムのグループ会社であるfoufou(フーフー)は今年7月、自社ECサイトをリニューアルした。商品画像を次々とスクロールできる画像配置や、文字の配置や大きさを調整することで、世界観に没頭できるデザインを実現したという。
「foufou」は、デザイナーであり代表のマール・コウサカ氏が文化服装学院在学中にハンドメイドで制作した服をEC販売したことから始まったファッションブランド。2024年7月期の売上高は3億3500万円だった。
デザインファームのnonーstandard worldと協業し、「クラシカルでタイムレスなfoufouの世界観」を表現した。
▲商品画像の詳細を一覧化した
商品ページで表示する画像は、文字の配置や大きさを調整し、画像に干渉しないようにしたという。刷新前はスクロールをしなければ見ることのできなかった画像も一覧化し、ユーザビリティーも向上した。商品との出会いを演出するための、ランダムでお薦め商品を表示する仕組みも特徴だ。
【AI model】AIモデルの導入支援 モデル着用画像のハードル下げる
AI modelでは、ECサイトや広告などに向けたAIで生成したモデルを提供している。2022年のサービス提供開始から現時点で、ECサイトにおいてはジーンズセレクトショップのライトオンなど約50社への導入実績があるという。モデル着用画像を増やすことで、ECサイトでの購入につなげている。
「AI model」では、商品単体の画像から、AIモデルやタレントが商品を着用した画像を生成できる。モデル撮影やささげ撮影におけるコストと時間の削減を実現する。ライトオンでは、2023年にキッズ、メンズ、ウィメンズで導入し、モデル着用商品の画像数を約6~7倍に増やしたという。
▲AIモデルのイメージ
「AI model」は、商品数が多く、モデル撮影をしきれないEC事業者の導入が目立つという。中山佑樹CTOによるとAIモデルの導入メリットは、①着用画像を増やすことでビジュアルが充実する ②同じ商品でもモデルの年齢や体型を変えた複数の画像を公開することで、着用イメージを伝えやすくなる ③モデル撮影のコストを削減できる ④モデルの経歴や身体の変化を考慮せずに着用画像を作成できる――などがあるという。
「実際のモデル撮影とは目的が異なる。撮影が難しいキッズや下着の導入が多い」(中山CTO)と説明した。現在はECサイト以外の導入に関する問い合わせも増えているという。