「米国内で所有され、運営される企業であるべき」
「米国内で所有され、運営される企業であるべき」─2024年9月2日、米民主党の大統領候補・カマラ・ハリス氏は、ジョー・バイデン大統領とペンシルベニア州・ピッツバーグで演説を行い、日本製鉄によるUSスチール買収に反対する意向を示した。
24年3月にバイデン氏が話した内容を踏襲する形となった。米共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏は、すでに複数回、反対を表明しているが8月末にも「日本に渡してはならない」と言及している。
ハリス氏の演説に先立つ8月29日、日鉄はUSスチールの工場に約1800億円の追加投資を行うと発表した。USスチールが持つペンシルベニア州の製鉄所の補修や、インディアナ州の製鉄所の高炉改修に投資をすることで、20年以上稼働期間を長期化させる考え。USW(全米鉄鋼労働組合)が持つ雇用への不安を払拭する狙いがある。
ただ、未だにUSWからの賛同は得られていない。トランプ氏、ハリス氏ともに、大統領選の勝敗を左右するラストベルト(錆びた工業地帯)に位置するミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州での票が喉から手が出るほど欲しいため、買収に賛成することはできない。まさに政治的思惑に経済が左右されている形。
ただ、現状ではUSスチールの再建は難しい。そもそも、自力での再建を断念して自社を売りに出しており、24年第1四半期も前期比約6割の減益。また、日鉄の半額で買収を提案していた米鉄鋼2位のクリーブランド・クリフスはカナダの同業を約4000億円で買収、事実上USスチール買収から降りた形。
日鉄は9月4日、新たに買収後のガバナンス方針を発表。取締役の過半数を米国籍、少なくとも3人の米国籍の社外取締役を置く他、米国での生産を優先することを表明。ハリス氏の発言に対応した内容となり、「米国内で運営される企業」であることを強調している。
だが5日時点でバイデン大統領は安全保障上の懸念を理由に、この買収に「中止命令」を出すと現地メディアが報道。そうなれば日鉄の米国シフトなど、海外戦略は大きな転換を迫られることになる。