岸田文雄首相が9月の自民党総裁選への不出馬を表明したことは、金融庁にも少なからぬ衝撃を与えた。看板政策に掲げた「資産運用立国」が次期政権にどこまで引き継がれるか、不透明感が否めないからだ。
8月28日に首相官邸で開かれた「資産運用立国と日本金融市場の魅力向上に関する会合」。岸田首相は有識者を前に、自らが政権を降りた後も投資機運が萎まないように協力を求めた。
岸田政権が資産運用立国を打ち出したのは2023年4月。分配重視の「新しい資本主義」の具体化が難航し、当初は資産課税の強化など格差是正を志向したが、株価急落による「岸田ショック」を引き起こしたため、方向転換を迫られた。
仕切り直しを担ったのは、共に財務省出身で側近の木原誠二・自民党幹事長代理と村井秀樹・官房副長官。両氏は「制度づくりの司令塔」として資本市場改革に力を発揮してきた現長官の井藤英樹氏と連携し、資産運用立国の実現に向けた環境整備を矢継ぎ早に進めた。
金融庁はポスト岸田政権でも取り組みの手を決して緩めないという覚悟がうかがえるが、8月5日の日経平均株価の大暴落などを受け、新NISA投資家の間に動揺も広がっている。
SNS(交流サイト)上で「#往復ビンタ」という言葉が話題になったのは象徴的。突然の株価暴落に慌てて保有株を手放した個人が直後の株価急騰局面にも対応できず、大きな利益を得る機会を逸したことを揶揄したものだ。
「短期の株価変動に一喜一憂せず、長期的な視点で保有し続ければ利益を得られるというのが資産形成の常識」。金融庁幹部はこう諭すが、投資初心者らにはそんな基本的な知識も浸透し切れていないのが実情。
日銀が利上げを進め、今後も市場の動揺が予想される中、資産運用立国を一過性のブームに終わらせず定着させられるか。金融庁の手腕が試される。