室井(日本M&Aセンター):第2回目はM&Aの実例を紹介していきます。今回は2022年3月に、大阪を拠点に食品ECを展開するonce inと、福井を拠点にカニのECを手掛ける増米商店で成立した事例です。売り手となるonce inの代表を務める長坂賢介氏や、このM&Aを担当した当社の業種特化事業部の白鳥雄飛にも登場してもらい話を聞きます。M&Aの経緯について、長坂さんからお願いします。
長坂(onece in):当社は、2007年に創業し長らく食品の製造・加工を手掛けてECで事業展開してきました。モールを中心に成長。M&Aを検討しようと思ったのはちょうど3年前。これからの会社のことを考え始めたことが契機です。
▲once in 長坂賢介社長
売り上げを伸ばそうと考えた時、製造や加工に限界がありました。また、大阪の中心に本社を構えているという立地的な制約もあり、拡張していくことがそもそも難しかったです。
ありがたいことに毎年売り上げが1億円ずつ伸びました。当時の売上高は、3~4億円程度でしょうか。これ以上成長していくためには、キャパオーバーしてしまい売り上げの限界が見えました。天井にぶつかったということです。天井にぶつかった3~5年先の未来は、現状維持も難しくなり売り上げが落ちていくだろうと判断しています。
この壁にぶつかったとき、二つの選択肢が私にはありました。一つは、当社と同じような会社を買うという選択肢です。二つ目は、立地的な制約が解消されれば、売り上げも上がるということを前提に場所を移転するという考えです。
移転では、大阪エリアでもはずれの立地に行こうと思っていました。しかし、移転にはお金がかかり、同時に莫大な設備投資も必要となります。では、そのお金を捻出しようと考えた時に銀行などから借入れするか、または自己資金で貯めていくか、どちらが正しいのか考えていきました。
2~3億円の借り入れをする場合における倒産のリスクについて勉強しました。製造業は、設備投資のリスクが一番大きいことが分かり、社運をかけて取り組んでも、会社を潰してしまっては意味がないと判断しました。
自己資金の場合、当社の主戦場はEC業界でモールによる展開となります。ECは特に、トレンドなどの外部環境による影響を受けやすい業界でもあります。モールの動向にも左右されるため、出店者から見れば、不可抗力的なところもあります。
EC売り上げが100%である当社にとって、毎年のトレンドも考慮しつつ、外部環境の変動が大きいことも考えると、自己資金で継続的にやっていくこともリスクだと判断しました。
いろいろなことを考慮した結果、日本M&Aセンターに声をかける形となりました。
白鳥(日本M&Aセンター):別のアイテムで勝負していくことは考えていなかったのでしょうか。
▲日本M&Aセンター 業種特化事業部 白鳥雄飛氏
長坂:当社はもつ鍋やギョーザを主に販売してきました。いろいろな施策を投じて成長してきたことを踏まえれば、商材が変わっても、今の状況を再現してできるとは思っていました。
ゼロからイチを作ってきたこともあって、マーケットを分析しつつ、価格帯を設定していけば、それなりに売れる算段もあります。
しかし、肝心な製造などのキャパシティーが限界であることを踏まえると、従来と同じ結果になることは必然です。
(第3回につづく)