【ECソリューションマップ2023「モール&プラットフォーム編」】
昨年、25周年を迎えた楽天グループが運営する「楽天市場」は、コロナ禍の追い風がやみつつある中でも、力強い成長を継続している。成長継続は、①品質向上 ②グループとの連携強化 ③ブランド商品の拡充――の3要素が嚙み合った結果だという。2023年もその強みをどう伸ばしていくのか。常務執行役員 マーケットプレイス事業デピュティヴァイスプレジデントの松村亮氏に聞いた。
――25周年を迎えた2022年の「楽天市場」の実績は?
2020年からコロナ禍に入り、流通総額や顧客数は大きく伸びた。2022年はコロナ禍も一巡、二巡したタイミングだったので、どれくらい成長を継続できるかチャレンジだと思っていた。結果的には堅調な成長を継続することができた。
成長を継続できた要素としては、大きくは3つあると思う。1つは「楽天市場の品質のさらなる向上」、2つ目は「楽天グループのエコシステムとのより一層の連携強化」、3つ目は「ブランド商品の拡充」だ。
――「楽天市場の品質のさらなる向上」は具体的にどういうことか?
「楽天市場」の品質は、継続的に改善してきたが、ここ数年で一段と改善が進んだ。
特に大きかったのが共通の「送料込みライン」の導入だ。「送料込みライン」に対応している店舗は、直近で発表している数値で、全体の93.3%(2022年7月時点)に達している。ユーザーからしても「楽天市場」はほぼ、「3980円以上(税込)買えば送料が無料になるよね」と認識されてきている。
以前から「ポイントは強いが、買いづらい、探しづらい」というイメージもあったが、NPS(ネットプロモータースコア)を細かく分析しながら、サーチの使いやすさや商品ページの見やすさなど、地道な改善を積み上げたことで、全体としてUX(ユーザーエクスペリエンス)は、格段に改善している。
――出店者の個性と全体の統一性のバランスについてはどう考えているか?
統一性と多様性のバランスについては、重視している。店舗が個性を発揮していただく部分は必要だが、ユーザーからすると店舗ごとにバラバラだと使いづらい面もあり、ある程度統一している。昔は今ほど構造化されていない状態だったが、決済から始まり、配送分野などルールの統一化が、ここ5年くらいで進んだ。
同時に店舗の個性を発揮していただく部分として、店舗ページもところどころ刷新している。共通のフレームはあるものの、店舗が個性を発揮しやすいようにフレームが変化しており、両軸のバランスが整理されていった。
全部を統一化してしまうとマーケットプレイスである意味がなくなる。統一性の中に個性をいかに上乗せしていけるかを追求している。
――2023年に導入を開始する「SKU対応」もその一環だと思うが、出店者の反応は?
総じて反応はポジティブだ。2022年も各地でタウンミーティングを実施しており、「SKU対応」について対面で説明している。もちろん店舗の作業の手間が発生してしまう部分はあると思う。ただ、ユーザーが買いやすくなることに加えて、店舗からしてもできることの幅が広がる点が評価されている。
これまでだと色やサイズが別々の商品を一つにまとめて登録した際に価格は単一にしか設定できなかった。「SKU対応」が始まると、色別やサイズ別などで、売れ残っている商品は価格を下げて購入を促すといったことが可能になる。
――「楽天グループのエコシステムとのより一層の連携強化」についても教えてほしい。
楽天グループのエコシステムとの連携は、コロナ禍で一層、強くなっている。当社は他社のECモールと競争しているのではなく、楽天グループとして他の経済圏と競争していると考えている。
もともと、「楽天カード」と「楽天市場」は親和性が高く、「楽天カード」を持っているユーザーは、「楽天市場」で普通に買い物しているユーザーと比べて、ものすごく買い物の金額が上がる。昨今は「楽天モバイル」がさらに加わっている。「楽天モバイル」のユーザーは、「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」が付くため、「楽天市場」の利用率や買い物金額が上がる。「楽天カード」と「楽天モバイル」と「楽天市場」を使っているユーザーだと、買い物金額はさらに上がっている。
――「楽天モバイル」のユーザーは、若年層も多い印象がある。「楽天モバイル」ユーザーの流入は、「楽天市場」への新規ユーザーの取り込みにも効果が出ているのか?
2通りの流れがある。1つは「楽天市場」をもともと使っているユーザーが、「楽天モバイル」を使い始めたことで、よりお得になり、「楽天市場」でより買い物をしていただく流れだ。もう1つは、これまで「楽天市場」をあまり使っていなかったが、「楽天モバイル」を使い始めたことがきっかけとなり、「楽天市場」で買い物し始める流れだ。2つ目の流れの中には、若年層のユーザーも多い。
「楽天モバイル」はデータ通信量が大容量になっても価格優位性がある。大容量を使う層は若い人たちが多い。若年層ユーザーが「楽天モバイル」を使い始めて、「楽天市場」に流入する動きは実際に起きている。
――「ブランド商品の拡充」について詳しく教えてほしい。
ブランド商品が「楽天市場」を中心に楽天グループのECで展開されるようになってきた。この流通の伸び幅がものすごく大きい。コスメやスポーツのカテゴリーが分かりやすい。
コスメで具体的に言うとロレアルやSKⅡ、P&G、花王、資生堂などのブランドの出品が進んでいる。スポーツ関連だとアディダスやナイキなど大手ブランドがより買いやすい状況になっている。
「楽天市場」というと昔からユニークな商品がたくさんある点が魅力だったが、それに加えて、ここ数年で有名ブランドが直接、出店していただいたり、大手小売店を通じて、ブランド商品をより多く出品されたりするようになってきた。
――ブランドとの直取引が増えているのか?
自社でリテールに取り組むブランドやメーカーは、ECのノウハウを持っているので、自分のリソースで「楽天市場」に出店いただくケースが多い。ブランドやメーカーで自社ECを展開していないところは、ECのオペレーションのノウハウがないため、当社と直取引していただくか、運営代行企業のサポートを受けて出店していただくケースがある。必ずしもオペレーションの全てを当社が取り込むという考えはなく、ケースバイケースで外部のパートナーを紹介するケースもある。いずれにせよブランドやメーカーが自社にノウハウやリソースがないからといって「楽天市場」で販売できないという事態は避けたいと考えている。
――2022年12月に「楽天市場」のO2O店舗「Kulture Market(カルチャーマーケット) Supported by Rakuten」を開設したが、2023年もリアル店舗展開を加速するのか?
リアルとの関わり合いは今後、大きなテーマの1つになってくると思っている。ただ、やり方は多様なので、必ずしも全部自分たちでやらなければいけないとは思っていない。出店店舗の中には、リテーラーとして大きな店舗もたくさんあり、そういう企業とは一部だが、既にお互いに送客する仕組みを入れて、取り組みをスタートしている。
セグメントや目的によっては、自分たちでリアル展開に取り組むケースも出てくる。どちらかだけという話ではなく、柔軟に多様なやり方を駆使しながら、全体としてはリアルとの接点を増やしていかないといけないと思っている。
――出店者向けの支援策で今後、強化するポイントは?
2023年はさらに店舗とのコミュニケーションを活性化していきたい。2022年後半からタウンミーティングなどで店舗とのコミュニケーションを増やしていたが、2023年もより一段と増やしていくつもりだ。
他にもRMS(店舗運営システム)を含めた改善施策が、いくつか控えている。詳細は新春カンファレンスでお話しできると思う。大事なのは店舗に改善の意図や使い方をご理解いただき、効果を出していくことだと思っている。コミュニケーションを深めることで、新たな機能の概要だけではなく、そのコンセプトをしっかりと浸透させ、目的も理解してもらい、使っていただけるようにしたいと思う。