【<記者座談会④>2023年のEC市場を読み解く】注目のEC事業者は?ブランド巧者が市場で優位に

【2023年 注目のEC事業者】

<ブランドの成長が市場をけん引>

後藤:2023年に注目のEC事業者について、三浦記者はどうか?

三浦:ペットフードでは、フレッシュドッグフードという、手作りで冷凍のものが今後伸びると予想する。フレッシュドッグフードは、日本のドッグフード市場において、全体の1%程度の売り上げだが、海外では10%程度を占めている。海外と同様に、日本もこれから400億~500億円の市場規模に成長すると予測。市場拡大の中心にいるのは、バイオフィリアやPETKOTOという会社で、今後も増収が続くと思う。

後藤:フレッシュドッグフードの定義について詳しく。

三浦:カリカリのドライフードではなく、人間が食べる食材を使い調理するもので、人間も食べられるようなもの。健康志向や見た目、おいしさがポイントで、国産食材を使い無添加の安心感がある。無添加はすでに当たり前になりつつある。

<再現性の高さでヒット>

後藤:永井記者はどうか?

永井:化粧品だと2社あり、I‐neとプレミアアンチエイジングに注目している。ブランディングが非常に巧妙で、特にヒットブランドの再現性が高い。例えば、I‐neの「BOTANIST」という主力ブランドのシャンプーは累計で1億本売れている。同じく「YOLU」というシャンプーのブランドもあって、それも1年で1000万本ぐらいのヒットブランドになった。2023年もそういった再現性の高いヒットブランドが出てくると思う。

後藤:再現性とはどういうことか?

永井:再現性とはヒットブランドを次々と生み出しているという意味。例えば「YOLU」は、ナイトケアというありそうでなかったもの。シャンプーは夜に使うのが当たり前だが、わざわざナイトケアというネーミングで押していくことで市場を開拓した。同業他社から「うらやましい」などの声が上がっている。「BOTANIST」も同様で、ありそうでなかった市場を取りにいっているところがポイントだ。

後藤:マーケティングが強いことを指すか?

永井:そうなる。しっかりブランディングしたあとマーケティングを入念に行っている。販売チャネルは、従来までECが主だったが、今は圧倒的にリアルになっている。ECで注目を集めてから実店舗に広げていく戦略になった。

プレミアアンチエイジングも同様で、他の大手が攻めきれない部分をうまく攻略している。ブランディングの面も大切にされている。

後藤:一つのブランドがきちんと育てば、他にも展開していける可能性がある。他の企業はどうか?

永井:アパレルの「SHEIN」に注目している。謎のブランドと言われ、取材も困難だが、売り上げは2兆~3兆円と言われている。米国を中心に展開し、日本でもZ世代を中心に人気が高まっている。クラッチバッグなどの価格が300円で売られている圧倒的な低価格戦略に加えて、上手にSNSでの発信も組み合わせてポジションを確立。世界で展開する有名なアパレル企業などを超えている、と言われたりしている。

後藤:私も「SHEIN」は注目している。黒田記者はどうか?

<パーソナライズも注目>

黒田:2023年は、よりいっそうパーソナライズ化が進むと思う。スープのサブスクを展開するGREEN SPOONという会社があり、私もユーザーだ。日頃の働き方や食生活、苦手な食材など、約10個の細かい質問に答えるとその人に適したスープやスムージーなどを提供している。私が体験して良かったことも踏まえて、2023年はより精度の高いパーソナライズ化の製品が増えると予想する。

後藤:購入前の「診断」みたいな感じか。他には?

黒田:食品ロスECのKuradashiにも注目している。食品の生産者やメーカーなどから、訳あり品などとして、協賛価格で買い取り販売している。こうした取り組みはあるようで、実はなかった。売り上げも一気に伸びていると聞く。

〔記者が考える2023年のキーワード〕

▲黒田海椰 記者

「高まる越境EC需要」 依然としてコロナ収束は見えず、インバウンド需要も期待できない。2023年はさらに、越境ECのニーズが高まるだろう。

【2023年 期待する新しい仕掛けは?】

<コミュニティー・SNS活用に注目>

後藤:2023年に注目・期待しているEC事業者の取り組みはあるか?

手塚:プロテインを販売するVALXの仕掛けが面白い。

父の日に合わせて、亡き父親に向けたメッセージのポスター広告を地元の高校や駅に掲示。そのポスター広告がSNSで拡散されることで、反響を集めた。ネット広告関連の規制が厳しくなる中、独自の発想と仕掛けで集客につなげられる企業は強いと思う。

アパレルでは、アダストリアが注目だ。自社ECサイト「ドットエスティ」のモール化に踏み切った。モール化して他社の製品も売っていくことは、正直難しかったと思う。今後どうなるか分からないが、「FOREVER21」を伊藤忠商事が日本に再進出させようとする時、アダストリアと組む形となった。このように、リアル展開の前に、アダストリアの「ドットエスティ」で販売する形が増えると、強力なブランドを引っ張るモールとしての立ち位置になる可能性がある。結果、アダストリアもたくさんの新規顧客の獲得につながり、既存のブランドへの相乗効果を生み出すかもしれないと注目している。

※アダストリアの自社ECサイト「ドットエスティ」は1月18日からサーバーの不正アクセスによりサイトを休止していたが、1月26日正午からサービスを再開している

他にも、個人的には九南サービスの「タマチャンショップ」が好きで、タマラボという定期購入も利用している。

自然食品で健康志向のいい素材を加工して届けている。ブランドがしっかりしていて、それぞれの商品力が強い。その詰め合わせが毎月届き、面白い商品も結構多い。商品数やブランディングに加え、「体験」というきっかけ作り、コミュニティーの「タマリバ」もある。ショップのファンになる段階がきちんと設計されているのは上手だと思う。

後藤:九南サービスは、コミュニティー戦略が上手なイメージがある。

手塚:田中耕太郎副社長は、「自分たちがやりたいことははっきりしている。いい物を届け、共感する人とだけつながりたい。そういう人たちとつながるためにどうしたらいいかを考え、サイトのメッセージとかサービスを追加している」と言う。言葉とサービスが一貫している。

後藤:ECサイトは誰でも買えるが、求めている顧客層が明確ということか?

手塚:単純に売り上げだけを目標にしていないことが大きいと思う。本当に自分たちと共感する人はこのぐらいいるだろうな、と考えてその人たちと継続的につながるためにはどういうサービスが必要なのかという観点でサービスを作っている。結果、共感する人が着実に増えていると思う。

<M&Aやソーシャルコマースが活発化>

後藤:次は私から紹介する。まずは、共創型M&Aを展開するMOON-X。一緒に成長していくことを前提にしたM&Aは面白いと思う。

過去、Facebook Japan(現:meta)で社長を務めた長谷川晋氏を中心に、大手でキャリアを積んだ優秀な人材が集まっている。マーケティングやPR戦略など、それぞれの分野に長けている社員の活躍は楽しみだ。

シェア買いというソーシャルコマースを展開するカウシェにも注目だ。

顧客が顧客を呼び、その顧客が広告塔になるという仕組みは、今の時代に合ったソーシャルコマース。今後の成長に期待する。

他にもインテリア企業などが海外で挑戦し始めた動きにも注目だ。最後に秋葉記者はどうか?

<受け取り場の拡張が市場拡大に>

秋葉:食品だとピックアップ型の形態に再び注目が集まっている。顧客との接点の拡大や利便性を高める利点がある。過去、コンビニのローソンがピックアップ型のECから撤退したが、最近、クックパッドや、「楽彩」というピックアップ型のサービスが着実に広がりECを伸ばしている。

後藤:ピックアップ型について詳しく説明してほしい。

秋葉:受け取る場所を指定できる仕組みで、最近、その間口が広がっている。例えばクックパッドだと、これまで駅などの冷蔵ロッカーに置いていたが、最近は保育園にも置き始めている。保育園の送迎時に食品をピックアップするという具合だ。

生協は、すでに首都圏でマンションのデベロッパーと組んで受け取り可能なロッカーを置き始めている。今後もピックアップ型は広がる可能性がある。

後藤:どんどん利便性が高まっているのを感じる。

〔記者が考える2023年のキーワード〕

▲佐藤歩未 記者

「独自性や方向性を明確に」 競合が乱立する中、一社が独壇場になるジャンルもある。差別化を図り、一定のファンを囲い込むことが大切になる。

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