化粧品メーカーのシーボン.は、サロンを通して商品とアフターケアを提供することで、顧客のスキンケアニーズに応え、成長してきた。コロナ禍には、サービスの強みであるサロンを全店休止しなければいけない事態に陥った。その窮地を救ってくれたのが、フェイシャリストと呼ばれるサロンのスタッフと、シーボン.をこよなく愛する顧客だったという。サロンで培った資産をどのようにECサイトに活用したのか、スタッフや顧客の声を生かす際の工夫などについて、Web事業部の青木里織部長と、マーケティング戦略課の稲葉理子マネージャーに聞いた。
<サロンの価値高めるDX推進>
――サロンで行うデジタル化の取り組みとは?
青木:サロンではフェイシャリストと呼ばれる当社のスタッフが、フェイシャルケアの施術や、商品選びや使い方のアドバイス、専門機器を用いた肌チェックなどを提供しています。
お客さまが化粧品を自宅でご使用いただくホームケアと、サロンでのフェイシャルケアなどのアフターケア(サロンケア)を提供し、お客さまをより早く、より美しくしていくサービスを強みとしています。
サロンでの体験価値を高め、ホームケアにも生かせるようにする取り組みとして、肌をチェックできるオリジナル機器「ビューティログアドバイスナビゲーター」を導入しています。肌の現状を把握し、データを元にお手入れのアドバイスを行うサービスは好評を得ています。
肌の撮影データは、スコア化したチャートや画像で確認ができる他、肌のキメの状態は、スマホやウェブサイトのマイページからも確認ができます。肌状態を可視化し、その改善度などをお客さまが確認できる環境をデジタルで実現することにより、当社の製品やサービスの満足度向上につながっていると思います。
▲Web事業部 青木里織部長
――サービス面だけではなく、運営面でのデジタル化の取り組みは?
青木:顧客管理においてもデジタル化を進めています。もともと顧客データは一元管理しており、お客さまが全国のどのサロンでもご利用いただける環境を提供していたのですが、お客さまのパーソナルデータを記入した「顧客カルテ」は、店舗ごとに紙で管理していました。
1年半程前に「顧客カルテ」の電子化に着手し、タブレット端末でも確認できるようにしたことにより、お客さまとの会話の中で得たさまざまな情報まで共有することができるようになり、よりご満足度の高いサービスの提供が適うようになりました。
タブレット端末を導入することで、カウンターに行かなくても、その場で精算や次回の予約を受け付けたりもできるようになり、お客さま満足と業務効率の向上につながっています。
<コロナ禍にサロン全店の営業休止>
――コロナ禍には、サロンが営業できない状況もあったと思います。その危機にはどう対応しましたか?
青木:コロナ禍の実店舗の営業自粛要請を受け、全国のサロンを一時休止しなくてはいけない状況になりました。当社製品を販売するメインチャネルであり、サービスの強みでもあるサロンが営業できない状況になり、対応策を考えました。
そこで注目されたのがECサイトです。ECサイトはコロナ禍前まで、サロンに通うお客さまがさまざまな事情でサロンに通えなくなった際に、オンラインでも購入できるようにするためのチャネルという位置付けでした。
ECサイトは製品や仕組みをご存じの会員さまが利用することを想定していたため、コンテンツが少なく、初めて利用するお客さまや、サロンの代わりとなるサービスを期待するお客さまにとっては物足りない状況で、コンテンツのてこ入れが急務となりました。
▲Web事業部 青木里織部長(左)、マーケティング戦略課 稲葉理子マネージャー(右)
<サロンや顧客の力を借り、コンテンツ拡充>
――どのようにECサイトのコンテンツを拡充したのですか?
青木:コンテンツを作成するには、時間やコスト、リソースが必要です。短期間にコンテンツを拡充するため、サロンのフェイシャリストや、お客さまの力を借りることにしました。
ECサイト上で販売スタッフがオンライン接客を行ったり、お客さまのSNSの投稿をECサイトなどに活用するUGCが成果を上げていることを知り、当社でも導入したいと考えたのです。
サロンがメインの企業ですので、コロナ禍で来店客が減少している中、強みであるフェイシャリストをいかに活用できるかが急務でした。オンライン接客で成果が上がれば、お客さまにとってもフェイシャリストにとっても良いことだと思いました。
――スタッフに投稿を促すため、工夫したことは?
青木:投稿を始める前に勉強会を行って、どんな内容にすべきか、見られやすい内容とは、写真の撮り方や投稿にあたってのコンプライアンスを含めた勉強会を行いました。会社の代表として自信をもって投稿してもらうためにも、事前の勉強会は欠かせません。
開始当初は現場経験のある本社スタッフや商品開発のスタッフ、トレーニングスタッフなどから参加してもらい、投稿を開始しました。
▲フェイシャリストによる商品レビューをECサイトに投稿
マーケティングツールで投稿経由の売上高などを把握できます。投稿結果は10日に1回くらいのペースで参加しているスタッフに共有しています。
コンテンツを投稿するフェイシャリストは、サロンで販売を行う営業社員でもあるので、数字に対する意識が高いです。現在、個別の評価制度は導入していませんが、切磋琢磨しながら投稿数を増やしたり、内容を工夫したりしてくれています。
<コンプライアンス徹底、高い導入効果を実感>
――投稿を促進する際に課題となった点はありますか?
青木:化粧品の情報を発信する際は、薬機法や景品表示法を遵守しなければなりません。対面の接客が得意なスタッフでも、画像やテキストでの発信に不慣れな場合があります。投稿のコツを共有したり、コンプライアンスのチェック体制も設けるようにしました。
稲葉:当社は上場企業ということもあり、もともとコンプライアンスに厳しく取り組んでいます。薬機法や景表法に抵触しないように、投稿スタッフに基礎知識を学んでもらいます。さらに投稿を公開する前にチェックを行い、修正を加えた場合も、その内容を投稿者にフィードバックすることで、次回以降の投稿コンテンツ作成の参考にしてもらっています。
▲マーケティング戦略課 稲葉理子マネージャー
――スタッフコンテンツ導入の成果は?
青木:スタッフコンテンツを閲覧したお客さまと閲覧していないお客さまの購入単価は大きく異なっています。閲覧したお客さまは、閲覧していないお客さまと比較して、購入単価が20%以上向上しています。
閲覧したお客さまのセッション時間も、サイト全体と比べて約4倍長いという結果が出ています。投稿を丁寧にご覧になっていただいており、サイト回遊や滞在時間の向上に役立っています。
<公式アンバサダー導入、UGCを活発化>
――SNSやUGCはどのように活用していますか?
青木:SNSに注力しており、当社製品に関する投稿を促すキャンペーンは3カ月間に1回程度は実施しています。少しずつですが投稿数は増えてきました。
インスタグラムなどでは、会員さまのフォロワーがたくさんいます。サロンを通して会員さまにキャンペーンをお伝えしたり、SNSに関するフライヤーを渡したりすることで、投稿を促進しています。
SNSの投稿を活性化するとともに、そのリアルな声をECサイトに活用するUGC施策にも取り組んでいます。
▲アンバサダーやユーザーのインスタグラム投稿をECサイトでも紹介
稲葉:シーボン.公式アンバサダーは、プロのインスタグラマーに依頼するのではなく、実際に製品を愛用している会員さまにリアルな声を投稿いただくことで、ブランドの魅力を効果的に発信できると考えてスタートしました。
公式アンバサダーは今年1月から開始し、現在は10人ほどの方が活動しています。フェイシャリストからの推薦やSNSでの取り組みを確認し、選定させていただきました。開始から半年ほどで、さまざまな分野で活躍されている方に公式アンバサダーとして加わっていただいています。
公式アンバサダーの投稿は、掲載前にコンプライアンスのチェックを行っています。そのため、投稿を修正することなくUGCとして、自社メディアでも活用できる点も魅力です。
インスタグラムでは、公式アカウントだけではなく、エリアごとのサロンのアカウントも開設しています。「シーボン.ファクトリー」という生産工場のアカウントもあり、生産過程を動画で投稿したり、品質に対するこだわりを説明したりしています。
<動画やスタッフ投稿のさらなる拡充目指す>
――動画も活用していますね。
青木:動画はまだまだ本数が少なく、これからさらに注力したいと考えています。現在はサロンでお見せしている動画を活用したり、インスタライブの動画を流用したりしています。
――今後、注力する取り組みは?
青木:まだまだデジタルマーケティングの拡充やEC強化のために、やらないといけないことがたくさんあります。
コンテンツを投稿するフェイシャリストも全国のサロンに広げていきたいと考えています。
現在のWeb市場ではECの新規獲得単価が高騰しており、コストが見合わない状況になっています。そのため、新規とともに既存顧客のCRMを強化し、LTV向上を図る施策により注力していきたいと思います。
※「フェイシャリスト」「ビューティログアドバイスナビゲーター」は株式会社シーボンの登録商標
【「株式会社シーボン」企業データ】
設立:1966年1月
事業内容:化粧品及び医薬部外品並びに美容器具等の製造販売及び輸出入事業
サービスの強み:顧客の肌に最後まで責任を持つという考えのもと、サロンでのアフターケアを提供する独自のビジネスモデルを構築
直営店数:フェイシャリストサロン、シーボンクイーンズ横浜など97店舗
【ECデータ】
ECサイト名:「CBONオンラインショップ」
マーケティングツール:アンバサダーやスタッフが投稿できる専用ツール「visumo snap」、インスタグラムやTwitterなどSNS上のUGCや公式投稿、アンバサダー投稿などを活用する「visumo social」