『ガリア戦記』 冨山和彦・日本共創プラットフォーム社長の「今週の一冊」

現代ほどリーダーの重要性が問われている時代はない。本書はローマ帝国の実質的な創業者、ユリウス・カエサル自身に手による、彼がローマ遠征軍の司令官としてガリア地域(今のフランスを中心とする西ヨーロッパ地域)を征服し、統治システムを作り上げた記録である。

 老若男女を問わず人々を惹きつける人間的な魅力と、制度疲労甚だしかった共和制ローマを根本から作り変える実践的な軍事的、政治的手腕と、何よりもローマと言う国家が目指すべき未来像を明確かつ的確に描きそのための次世代リーダーたちも周到に育んでいた、人類史上空前の圧倒的な万能リーダー、カエサル。そんなカエサルが何を考え、どんな理由で、いかに戦い、いかに統治したかが、本人の言葉でビビッドに語られている本書は、リーダーシップに関わる最高の教科書、古典中の古典である。

 私は高校生の時に本屋でふと本書を購入したが、カエサルは一般にはシーザーと呼ばれていたし、何せ2000年前の話なので、まさかガリア戦記がシーザー本人によってリアルタイムで書かれたものとは夢にも思わなかった。読み始めてびっくり。文体はカエサルが自分自身を「カエサルは」と記述する客観的様式を取っていて、簡潔にして重要な情報とロジックが過不足なく書き込まれた社会科学書であり、歴史書であり、文学書でもあった。

 高校生の私はその淡々とした文体とそこに記述されるカエサル自身の認識と行動を通じて「リーダーとは、どんな危機的状況においても、自分の行動と周囲の情勢をかくも冷静にみつめている」ことに衝撃を受けた。

 カエサルについては、古今東西、様々な歴史書や文学に描かれ、日本では塩野七生著の『ローマ人の物語(4)(5)』が鮮やかにカエサル像を描き出している。こうした作品の既読者にとっても、その原典である『ガリア戦記』を読むことで、自分なりのカエサル像、自分が目指すべき理想のリーダー像を結べるはずだ。