【ずいひつ】元ネスレ日本社長・高岡浩三氏が語る「イノベーション道場」

5%未満の営業利益率の企業が日本の企業の6割を超える─。稼げない日本。なぜこのような競争力の低い企業が増えてしまったのでしょうか。

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 私は日本が発展してきた理由を「日本株式会社モデル」と表現しています。戦後、焼け野原で興った日本企業は普通であれば外資系に乗っ取られてもおかしくはありませんでした。しかしそうはなりませんでした。

 それは時の政府がメインバンクシステムという仕組みを作ったからです。当時、資金を持っていたのは銀行だけ。その銀行が企業に出資や融資をし、出資先企業が大きくなってから配当を得る仕組みとなりました。このメインバンクというシステムは世界に例がありません。

 そのため、企業は売り上げだけを伸ばせば良かった。日本は識字率も高く、従業員の質が高い上に当時は給料も安かった。ですから、良いものを安く作ることができたのです。それを海外にも安く売ることができました。人口の増加によって国内の需要も伸びました。いわば売上至上主義で成長できたのです。

 ところが、日本が経済発展を遂げ、先進国の仲間入りをすると状況が一変。それまでの売上高至上主義では生き残れない時代となりました。冒頭の数値はまさにそれを象徴しています。日本の企業は「イノベーション」ではなく、「リノベーション」ばかりをやってきたのです。

 それまでの日本企業は海外の企業のモノマネやその改良で生きてきました。高度経済成長期の日本ではテレビや扇風機、エアコンの開発自体はイノベーションでした。しかし、バブル崩壊後の成熟社会における液晶パネルや羽のない扇風機はリノベーションに過ぎません。

 イノベーションとリノベーションは明確に違います。リノベーションは顧客が認識している問題を解決することを指し、イノベーションは顧客が認識していない、あるいは解決できるはずがないと諦めている問題を解決することを指します。

 そしてイノベーションを起こすためには新しい現実を見る必要があります。新しい現実とは10年単位で現れます。今で言えば環境や高齢化です。私がネスレ日本の社長だったとき、高齢化で1つのイノベーションを起こしました。それがコーヒーを1杯から淹れる「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」。

 40年前は3世帯家族で住む家庭が多く、「ネスプレッソ」といった大人数用の商品が売れていました。ところが核家族化が進み、人口は減少するけれども世帯数が増えるという個食の時代へと変化していきました。共働きの時代となり、専業主婦がいなくなる。すると、コーヒー1杯だけをドリップから作ることが煩わしくなる。しかし、代わりの方法はありません。

 そんな中で、この新たなサービスはコーヒーマシンを無料で提供し、ボタンを押すだけで1杯ごとに淹れ立てのコーヒーが味わえる。湯沸し不要で後片付けも簡単です。毎回ゴミも出ないので、忙しい主婦にとっては助かります。当然、ネスカフェの販売にもつながりました。

 もちろん、イノベーションが起きることで、既存の産業の中には不要になるものもあります。今は端境期です。だからこそ、イノベーションやDXに取り組まなくてはならないのです。

 私はその担い手は次世代の若い人たちだと思っています。そこで「高岡イノベーション道場」を開校し、真のイノベーションをマンツーマン指導しています。若い世代に自分の経験を伝えていく。これが自分の役割だと思っています。