同じ森を歩いていても、季節や日によって違った景色を、森はみせてくれます。
そこで「不思議だなあ」と思ったことの、「なぜ」に迫ることができるのが研究です。

2022年9月3日、熱帯林で長年研究をされてきた京都大学大学院農学研究科教授 北島薫さんをお迎えして、トークイベントを開催しました。北島さんがみつめてきた森の世界に触れることができたこのイベントについてご紹介いたします!

*こちらのイベントは、内閣府(みどりの学術賞及び式典担当室)との共催で、みどりの学術賞受賞記念イベントとして開催されました。本記事は、第一部の「日陰で生きる樹木の芽生えをみつめて ~持続可能な森林の今とこれからを探究する~」についての報告です。

37才の小さな樹木との再会

北島薫さんは、37年にわたりパナマ(バロ・コロラド島など)、マダガスカル、マレーシア、台湾などを調査地として研究をされています。トークイベントの2週間前もパナマで調査をされていました。そのときに、ある素敵な再会があったそう。

その再会相手がこちら。

再会したタチガリ Tachigali versicolor (2022年撮影:写真提供 北島薫氏)

こちらの写真に写っているのは、 タチガリTachigali versicolorという樹木です。
みなさん、この樹木は何才だと思いますか?





なんと…、37才とのこと!
北島さんは、この樹木が20才だった、2005年にも写真をとっていました。

そのときの写真がこちら。

20才のタチガリ(2005年撮影: 写真提供 北島薫氏)

それぞれの写真を見比べてみると樹木の背丈がほんの少し高くなっていることがわかりますね。ただ、過ぎた月日が10年という期間であることを考えると、とてもゆっくりと成長していたことがわかります。

ちなみに、2005年の写真のタチガリの横に写っているのはヤシの支柱根(樹木の根の一部)です。この様子からもわかるように、このタチガリはヤシの木の下にあり、上はヤシの大きな葉で覆われていたので、地上は暗かったとのこと。そのため北島さんは、「こんな暗いところだと生き残れないよね」と思われたのだそう。1985年に芽生えた当初は調査区域(5 m x 100 m)に2974個体もあったのが、1年後には816個体、10年後には169個体、20年後には51個体というように減っていき、いまでは20数個体しか残っていないとのこと。そのなかのひとつが、このヤシの根元で育った個体でした。日陰などのデメリットをもたらすと思えたヤシが、逆にその支柱根でこのタチガリを「動物などから守ってくれた」のではないかと北島さんは考えているそうです。

ちなみに、調査では樹木のそれぞれの個体を識別するため、アルミのタグ(しるし)をつけていたことも紹介されました。ちゃんとしるしをつけていたからこそ、20年以上たっても、同じ個体であることが確認できたのです。

「日陰で生きている、じっと我慢の、あの小さい木とかを本当に尊敬してあげないといけないと思いますね。」と北島さん。日陰という、植物にとっては過酷と思われる環境でゆっくりだけれど少しずつ着実に成長している木、その姿をあたたかくみつめる北島さんの想いが感じられるひとときでした。

37才のタチガリについてお話する北島さん

樹木の生き方、いろいろ

熱帯林には、先ほどの樹木のように日陰でゆっくり成長する種もいますが、もちろん光のあるところでどんどん成長する種もいます。このような樹木の実生(種子から発芽した植物のこと)を詳しくみると、そのかたちなどにも大きな違いがあると北島さんは話します。

図1 いろいろな樹木の実生 A:光を利用し、どんどん早く成長する樹種の実生、B:日陰でも生育できる樹種(耐陰性樹種)の実生

例えば、日陰でも生育できる実生は、最初から大きな種子(たね)を持っているのだそうです(図1B)。このなかにお母さんの木からもらった栄養分が入っていて、この栄養分をつかって、小さいうちに茎もしっかりしたものに、根もしっかり張るといった丈夫なからだをつくるのだとのこと。また、薄い葉をどんどん広げるのではなくて、丈夫な葉をしっかりつくるのだそうです。北島さんはこれを「じっと我慢の子戦略」とおっしゃっていました。
これとは別の戦略は、種子から発芽したときに最初にでてくる子葉が光合成をすることができ、光のあるところであれば早く成長できるというもの(図1A)。子葉で光合成をして、そこで得られたエネルギーでどんどん成長して、次の葉も開く。そうすると、葉が増えて光合成から稼げるエネルギーもどんどん増えるので、光さえあればどんどん成長していく。ただし、逆に光がない場合には、子葉で光合成をすることができなくなるので、エネルギーを稼ぐことができず、成長できなくなります。つまり、種子の上に光を遮る樹木があるか、ないかで種子の運命が左右されます。このような種では、親木から多くの種子がばらまかれ、光のあたる場所に落ちる可能性が高まることが、次世代を残すうえで有利になりそうです。実際に、光があるところでどんどん成長するような種の親木は、比較的たくさんの種子をつくって散布していることがわかっているそうです。一方で、右側の「じっと我慢の子戦略」の種は、親木がつくる種子の数は少ないそうです。こちらは、どこに落ちてもしばらくは生きていける子をつくろうという戦略をとっていると考えられています。

森には、ただみているだけではわからない、研究することでみえてくる世界がありました。北島さんは、「実際に検証すると、面白いこと、結構意外だなっていうことはたくさんあって、それも研究の楽しいところです。」と言います。そして、「間違った仮説でも、考えるうえでは大事」とのこと。森のなかで感じた不思議、そして考えたことを大切にすること、そこからみえてくる新しい世界があるとのことを感じさせてくれる一言でした。

森林にとって、多様な樹木が存在することの意味

このように、熱帯林にはさまざまな特徴をもつ樹木がいるそうです。こうした多様な樹木が存在することは、森が存続していくうえでどのような意味をもつのでしょうか。 「多様なものがいるということは、森全体としての環境が守られるうえで、とても大事な要素だと思います。」と北島さん。

例えば台風や寿命によって木が倒れて、森のなかに穴ができることがあります(専門用語では、この穴のことをギャップといいます)。ここに光を受けて早く成長できる樹木がいると、ぐんぐん成長してこのギャップを埋めてくれます。こういった樹木がすぐに森の日陰を作り始めないと、イネ科の草やツル植物などが繁茂し、森ではなく、草原に変わってしまう場合もあります。

図2 森の樹木たちの世代交代 A:安定した森、B:台風などによりギャップが生じた森

一方で、光を受けてぐんぐん成長できるような樹木は、日陰ばかりの安定した森のなかでは(図2A)、生き残ることが難しいといわれています。つまり、台風などによって光が入ってくるような環境の変化が起こることが(図2B)、これらの樹木が生き残るチャンスになるのです。

このように、「森のなかにはいろんな(災害の)波があって、ある種だけをみると、いいときも悪いときもある。でも、全体をみると、どれかがだめでも、どれかが大丈夫という状況が生まれます。」と北島さんは言います。多様な樹木が織りなす、森の姿がそこにはありました。

台湾南端の Kenting の森林(写真提供 北島薫氏)

熱帯林がなくなっている

現在、多様な生物が存在している熱帯林が減少していることが報告されているとのこと。なぜ、こうしたことが起こっているのでしょうか。

「熱帯林が存在するのは開発途上国であり、熱帯林を切った場所を使って、食べ物を作らないといけない、そういうことに直面しています。」と北島さん。また、熱帯林の破壊が進む原因として、「商業的農園の生産物を輸出して儲かる、グローバル化社会」があるそうです。 東南アジアや南アメリカでの大豆畑やアブラヤシ農園の拡大が、際限のない熱帯林の破壊につながっていることは、最近は一般にもよく知られるようになってきました。経済発展のための資金も入ってくるなかで、自然を破壊するかたちで土地を切り拓いてしまうということがよくあるのだそうです。

こうした熱帯林の破壊がもたらす地球環境への負のスパイラルを、北島さんは指摘します。

熱帯林破壊すれば、熱帯林がもっていた二酸化炭素する吸収する機能がなくなり、気候変動が加速化します。さらに、森林が分断化されたことや、気候変動によって非常に乾燥が強くなったことをうけて、熱帯林が燃え始めるといったことも起こっているそうです。「実際に熱帯林が行っている二酸化炭素吸収機能は、地球の全ての森林による二酸化炭素吸収機能の2/3ほど*。森がなくなるのは地球全体にとっても大きな問題です。」と、北島さんは警鐘をならします。

こうした状況において、北島さんは熱帯林の保全に関わる活動や、気候変動が熱帯林にもたらす影響の研究にも取り組まれています。

森で木の生き方をみつめて

「日本から修士号をとるためにアメリカ(の大学院)に行って、非常に良い女性教官に巡り合って、そこで好きなようにパナマで面白い研究を追いかけることができて。そういう意味で非常にのびのびと研究できる環境が海外で得られました。」と北島さん。

調査地で撮影された写真(写真提供 北島薫氏)

そうした研究生活と森のなかで、樹木たちをみつめ続けて、感じたことがあったそう。

「なんていうか、いろんな生き方があるのだと。森の中の木にもいろんな生き方があるように、じっと我慢の子で、何年も待ってから、日の目を見る。(中略)どんどん成長していくものだけが正しい解ではないということは、大事だと思うんですよ。人間も植物も長い間をかけてじっくり成長していく、そういうやり方があっていいなと思う。」と北島さん。そして「私は森の木を見ながら、持続可能な成長とは何かということをいろいろ考えさせてもらいました。」と。

森は、わたしたちにさまざまな視点を与えてくれる、そんな場所でもあるのだと、北島さんの言葉は教えてくれました。

おわりに

イベント当日は、今回紹介したお話以外にも、日陰で生きる植物のこと、気候変動と熱帯林の関係などたくさんの貴重なお話がありました。また、参加いただいた方との素敵な質疑応答もありました。ぜひ動画でみていただけると嬉しいです!


動画は下記からご覧ください。

参考文献

* Beer C. et al. (2010) Terrestrial gross carbon dioxide uptake: Global distribution and covariation with climate. Science 329: 834-848.


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Author
執筆: 遠藤 幸子(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
ある渡り鳥との出会いがきっかけで、これまで鳥の生態を研究してきました。その日々のなかで出会ったモズという小鳥と研究者たちが、世界にはたくさんの不思議があるということを私に教えてくれました。未来館で、みなさまが不思議に思うことをぜひ教えてください。みなさまの不思議と科学をつなぐことができたら嬉しいです。