JFEが進める「脱炭素拠点」づくり 高炉跡地をどう再利用するか?

歴史ある製鉄所が、その役割を終えようとしている。JFEスチール東日本製鉄所京浜地区は、前身の1社である旧日本鋼管が、首都圏で初めての一貫製鉄所を置いた場所。だが、近年は競争力に問題を抱え、2023年に高炉を休止することになった。問題は、その跡地をどう活用するか。JFEや地元の川崎市は、「脱炭素」の潮流を捉えた拠点としたい考えだが、そこに課題はないのか─。

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首都圏で初めての一貫製鉄所だったが…

 製鉄所跡地を新たな姿に生まれ変わらせることができるか─。

「当社の中に『京浜臨海土地活用検討班』ができて約2年が経過した。この間、川崎市を始めとする自治体、近隣エネルギー企業との連携検討を進めてきた」と話すのは、JFEホールディングス専務執行役員の岩山眞士氏。

 JFEスチールが、東日本製鉄所京浜地区(神奈川県川崎市)の高炉休止を含む構造改革を発表したのは、2020年3月27日のことだった。

 ここはJFEスチールの前身の1社である旧日本鋼管の主力製鉄所。1936年に稼働した首都圏で初めての一貫製鉄所だが、自動車用鋼板を製造する同社の西日本製鉄所と比較して、厚板や鋼管が中心で、様々なコストが高い京浜地区は競争力に課題を抱えていた。

 23年9月には高炉の稼働を休止、一貫製鉄所としての役割を終える。削減する粗鋼生産能力は年約400万㌧。これまで進めてきた固定費削減と合わせて、年間600億円程度の収益改善効果を見込んでいる。

 高炉での作業に携わっていた従業員約1200人は配置転換などで対応し、雇用は維持する方針。構造改革を発表した20年3月、JFEスチール社長の北野嘉久氏は「諸先輩や従業員にとって厳しい決断であり、私としても断腸の思い。強靭な企業体質にしていく」と話した。

 発表から約2年、この高炉跡地の活用方法について検討を進めてきたが、ここに来て一つの方向性が見えてきた。

 JFEが製鉄所を構える京浜地区は川崎市と横浜市にまたがる。最も大きいのは高炉がある扇島エリアで、土地利用転換を検討するエリアは実に222ヘクタール。

 それ以外にも南渡田、扇町、池上、水江の各エリアで開発が検討されており、合計で406ヘクタールにも及ぶ土地が開発される可能性がある。東京ドームで換算すると約85・5個分に相当する。

 メインエリアとも言える扇島地区では、最大利用者はJFEだが、それ以外に、東京電力グループ、JERA、ENEOS、東京ガス、出光興産、コスモ石油などのエネルギー企業が立地している。

 ただ、扇島地区の高炉周辺の土地利用転換を進める上では、様々な課題がある。第1に土地利用規制の問題。現在は都市計画法上の「工業専用地域」であり、都市計画法・港湾法上の「臨港地区工業港区」となっており、「端的に言って、製鉄所以外できない用途規制になっている」(岩山氏)。

 第2に交通アクセスの問題。今の扇島には「公道」がなく、島にアクセスしているのはJFEが整備した「私道」のみ。また、敷地内を首都高速湾岸線が通過している。インターチェンジを設置するという都市計画はあるが現時点では存在せず、国道357線の予定地はあるが整備に至っていない。

 第3に、設備の解体撤去、土壌対策、基盤整備の問題。高炉を含む、製鉄の上工程には巨大設備が数多く使われている。その設備の移設や撤去には、膨大な費用と時間がかかる。

 例えば、高炉や転炉に使われている杭だけを見ても、高炉は杭長が60メートルのものが8830本、転炉は杭長40メートルのものが9430本と大量に使われている。

 周辺設備の概算数量は、60から70万トンと見積もられている。これらの解体撤去、土壌対策、道路や上下水道などの基盤整備だけで「数千億円規模はかかる」(岩山氏)。これをJFE1社だけで賄うのは難しいと言わざるを得ない。

 仮に、そうした資金を賄うために、現在の土地を売却したとしても、製鉄所しかできない土地で、公道に接していないとなると、足元の土地価格はどうしても安くなってしまう。その意味で、利用するにせよ、売却するにせよ、土地を整備することは不可欠だということ。

東京湾内屈指の水深を活用して

 しかし、この土地にはポテンシャルがある。

 第2の課題である交通アクセスに関して、インターチェンジが整備されれば大手町まで約30分、羽田まで約10分、横浜まで約5分という形で、交通アクセスが格段に向上する。

 また、東京湾内屈指の水深を誇る「バース」(船の係留施設)がある。A、B、Cの3つのバースがあるが、特にAバースは水深22メートルで、ばら積み船の中で最も大きな船型「ケープサイズ」の受け入れが可能。

 また、周囲に流入する河川がないので、浚渫の頻度は少なくて済み、沖合に橋がないので高さ制限なく入港が可能。

 また、前述のように近隣にエネルギー企業が立地していることで、発電所が多数所在しており、電力の安定供給が可能。この臨海部の発電能力は約830万キロワットと、首都圏一般家庭の消費電力に相当する量を発電できる。

 これらの強みをどう生かして、新たな利用方法を確立するかが問われるが、元々JFEは「ゼロカーボン社会の実現に貢献したい」として、第7次中期経営計画の中で「鉄鋼事業のCO2排出量削減」に加えて、「社会全体のCO2削減への貢献拡大」を掲げていた。

 そこで、高炉が立地する扇島地区を、先行して開発する先行街区と、二次街区とに振り分け。前述の大水深のバースは先行街区に位置するが、これを生かして「周辺エネルギー企業と連携して、海外から水素やアンモニアといったカーボンニュートラル燃料を持ち込み、備蓄、製造して周辺の発電所に供給する『水素サプライチェーン』ができないかと考えている」(岩山氏)

 さらに、JFEスチールは扇島地区に自家発電施設を持つ。この発電所に、先程の水素を供給することで、水素混焼・専焼化による「カーボンフリー電力」の発電所にできないか?という検討も進めている。

 この構想は国、川崎市が目指す方向性とも一致しているという。こうした構想が国策プロジェクトに位置づけられれば、公的資金も活用しながら事業を展開できるようになる。

 他にも、水江地区ではすでに、グループのJFEエンジニアリングがペットボトルや家電のリサイクルを手掛けている。これに加えて、製品プラのリサイクルや、ペットボトルをペットボトルに戻す「水平リサイクル」を新規事業として手掛ける、一大リサイクル拠点として拡張整備することも検討中。

 川崎市が開催している有識者会議での中間とりまとめでは、土地利用コンセプトについても示されている。

 ①カーボンニュートラルを先導、②首都圏の強靭化を実現、③新たな価値や革新的技術を創造、④未来を体験できるフィールドの創出、⑤常に進化するスーパーシティを形成という5つがそれだ。

 先行街区がカーボンニュートラルの受け入れ拠点、さらには次世代物流を実現する拠点、二次街区には防災機能や、短期滞在型スマート住宅や未来型オフィス、「空飛ぶクルマ」や「自動運転」など次世代モビリティを活用できる「スーパーシティ」の形成などが構想されている。

カギを握る「用途規制」

 こうした姿を実現するには、前述のような都市計画法の中で土地の用途規制を変更する必要がある。具体的には現在の「工業専用地域」から、例えば「商業地域」などへの変更が望ましい。

 商業地域となれば、大型の工場は立地できないが、住宅、共同住宅、オフィス、ホテル、公共施設、病院、学校など、あらゆる施設の立地が可能になる。「例えば、近接する『東扇島地域』は『商業施設』まで用途変更を受けられている。そこを視野に入れて検討していきたい。規制緩和は重要なテーマ」と岩山氏。

 今後は、22年度末に川崎市から土地利用の方針が示され、それを踏まえる形で、JFEは23年9月の高炉休止のタイミングに併せて、自身の整備方針を公表する予定。その上で「2030年度までに先行街区の一部で街開きができないかと考えている」(岩山氏)

 22年10月26日には、前述の近隣エネルギー企業など9社でで、「扇島町内会」を発足した。業界を横断した町内会で、各社がそれぞれ国や地方自治体と話すのではなく、各社が情報を交換し、一つのまとまりとして交通アクセスや基盤整備の将来の方向性について国・自治体に提言していく方が、今後の力になるという考え方。

「今後、扇島全体が転換していく中で、立地する民間企業の総意として行政にぶつけていく場面が出てくる。例えば、交通アクセスや規制緩和の問題についても、JFE1社でなく、町内会の総意として提言していきたい」と岩山氏は話す。

先行して開発される「創業の地」

 扇島地区などの開発は、非常に時間軸が長い取り組み。それだけに、その土地がどう変わっていくのかというイメージが湧きにくいのも現実。

 そこで重要になるのが、南渡田地区の開発。南渡田は、1912年(明治45年)の日本鋼管発祥の地。現在、南渡田地区はJR貨物の操車場を挟んで北地区で約9ヘクタール、南地区で約42ヘクタールの計約51ヘクタールの土地を有する。

 元々、北地区には研究施設、福利厚生施設があり、南地区は製鋼工場、製管工場として利用してきた。

 川崎市は1996年の「川崎臨海部再整備の基本方針」で南渡田への研究開発の導入を打ち出して以降、長年にわたって、南渡田に「研究開発機能」の導入を検討してきた。

 22年8月には「南渡田地区拠点整備基本計画」が策定され、全体コンセプトを「グリーン社会やデジタル社会を実現する革新的なマテリアルを生み出す研究開発機構の集積」とする方針となった。

 北地区は研究開発機能を中心、南地区は研究開発の他、実験・実証、製造機能などを導入する方針。北地区の開発を1期・2期にわけ、24年度に着手、27年度には1期の街開きを行うことを目指す。

 この「創業の地」での開発は、今後の扇島地区の土地利用転換を果たす上で「先鞭」としての役割を担うだけに役割は重い。

 前述のように、道路網などの条件が揃えば、主要地点へのアクセスは格段に向上する。今後、こうした規模の未開発地が首都圏で出てくることは考えにくく、その点でもポテンシャルはある。

 日本製鉄などが製鉄所跡地を他社の事業拠点や、物流施設などに再整備した例はあるが、カーボンニュートラルなどエネルギー転換の施設とした事例はまだない。

 水素社会が訪れるかどうか、という国策上のリスクはあるが、「カーボンニュートラルを目指す」という国の方針には変わらない。日本の燃料転換の象徴とできるかが問われる。