【ファスナー世界最大手】YKK・大谷裕明社長「世界の各地のリーダーと常に対話できる体制を」

「圧倒的コスト競争力を、もう一度磨き上げる」─YKK社長の大谷裕明氏はこう力を込める。2年以上前から、新常態下での持続的成長を見据え改革の手を打ってきた。さらに今はデジタル化が急ピッチで進むだけに、この対応も急務。地政学リスクもある中で、生産国・消費国としての中国、そして多様化する顧客にどう向き合うかなど、課題にどう対応するかが問われている。

次世代の製造機械を設計するプロジェクト

 ─ 世界が混沌とする中、企業体質の強化は重要な課題だと思いますが、コスト構造の改革に向けて、どのような考えで臨んでいますか。

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 大谷 当社は2020年度に次世代の製造機械を設計するプロジェクトを立ち上げました。22年以降、世界の情勢は厳しくなると見て、圧倒的コスト競争力を、もう一度磨き上げるという目的です。

 ある市場に対して、どんな商品を、どんな価格で販売すると、多様化するお客様のご要望にお応えできるかを考えると、このコストでなければならないという予測が立ちます。

 そのコストを実現するには、どのような性能の機械を設計・製造し、日本から海外事業会社に供給しなければならないかを考える必要があります。こうした製造から営業までの一気通貫のプロジェクトを進めています。

 そして、海外のそれぞれの地域で事業を統括する役割の人間を各地域のリーダーとして任命しています。そのリーダーとは、オンラインでの会議や打合せも含めて、逐次対話できるような体制にしています。

 ─ グローバルに迅速に動ける体制にしていると。

 大谷 ええ。最前線にいるリーダーの要望を、当社の「技術の総本山」である富山県・黒部事業所の開発者・技術者に伝えて、製造機械・設備を設計しています。早ければ、23年度から主要国に出荷できる見通しでいます。

 これらの一連の動きを取りまとめてくれているのは、旧組織下のファスニング事業本部長、工機技術本部長という肩書だった2人の副社長で、現在の組織下では営業本部長、製造・技術本部長となっています。彼ら2人がプロジェクトの立ち上げの2トップですが、よく頑張ってくれています。

 ─ 近年、産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)も叫ばれますが、ファスナー製造に向けては技術面ではどんな工夫を?

 大谷 最高性能の技術でつくったファスナーを、最適なシステムでお届けする仕組みの構築を進めています。

 例えば、あるお客様のオーダーを1工場で請けた場合、製品のコードを統一化して、工場間をネットワーク、デジタル技術でバーチャルにつなげることによって、瞬時に最短納期で、最適な場所からファスナーを供給できるという仕組みの構築にトライしようとしているところです。

 最終的に大事になるのは、どうお客様とつながるかです。多くのお客様はフォーキャスト(Forecast=受注予測・需要見込み)を持ち、計画生産部分と受注生産部分を共有して生産をしています。

 我々はお客様から、今後どのような商品を計画しているかといった情報もいただいていますが、それは日々変わっていきます。それも当然です。現場のショップでの売れ行きやサステナビリティの潮流などからも需要は日々変化しているわけですからね。

 それを我々が今までのアナログ的な情報交換をしていては、そのスピードに付いていくことができません。

 

変化対応に向けデジタル技術の蓄積を

 ─ ここにデジタル化が必要になってくると。

 大谷 ええ。1カ月前にいただいた情報を「正」だと思っていろいろな準備をしていても、実際にはその1カ月の間で、その情報がかなり変わっているかもしれないと。

 その都度、その変化を含めた莫大なデータを、YKKに流していただくというようなご面倒をお客様におかけすることはできなくなっていますから、先程申し上げたように、いかに日々つながっているかが大事になってくるわけです。

 しかも、我々ファスナーだけがお客様とつながっていても駄目だと思っています。原反、生地、ボタン、糸など、アパレルにかかわる様々なサプライヤー間で、どういった統一システムを作り上げていくかということもあります。それをバイヤーとサプライヤーと一緒になってやっていくことが必要になってきます。

 ─ 従来とは違う考え方が必要になりますね。

 大谷 そうです。従来は製品計画に入っていくには、アパレルメーカーに指定していただく必要がありました。ファスナーはYKKを指定しよう、この納期で頼むといったやり取りをグローバルベースでしていたんです。しかし、こうした時代は、今後は変化していくと考えています。

 ─ その理由は何ですか。

 大谷 アパレルメーカーも、グローバルベースでシステム構築を進めており、そうしたメーカーのご要望に対応できなければ受注することができないという世の中になるかもしれません。そうなっても付いていけるようなデジタル技術を兼ね備えておく必要があります。

 グローバルベースで見ても、そうしたシステムをつくり上げて、様々なアパレルメーカー、バイヤーに紹介しているソフト会社もたくさんあるんです。

 そうした時代の変化に遅れないように、当社では。21年度にデジタル業務企画室を立ち上げ、マーケティングから商品企画・開発・製造・販売までにおいて求められる業務の規定とデジタル化を進めています。

原材料価格高騰への対応は?

 ─ 今、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻もあり、エネルギー、食料、資材の価格が高騰、インフレを招いています。原材料価格の高騰にはどう対応していきますか。

 大谷 まずは我々が自助努力で最大限対応しています。ただ、それを超える部分に関しては、個別にお客様にご相談を申し上げ価格調整をさせていただく場合もあります。

 特にウクライナ危機以降は金属材料の価格の変化も大きいため今後も状況を見極めた対応を進めていきます。

 例えば銅はLME(London Metal Exchange=ロンドン金属取引所)の価格が大幅に上昇しましたが、急下落もしています。こうした激しい変動に対し、我々はしっかりと対応していかなければならないという課題があります。

 多くの日本人の方が持たれているカバンなどについている金属ファスナーはムシ(務歯)の部分が金属であることが多いのですが、自助努力で対応が難しい場合は、正直にお客様に相談することが大事になると思っています。

 ─ 顧客との関係性が非常に大事になりますね。

 大谷 そうです。事業会社にはお客さまとよくご相談した上で判断をして欲しいと伝えています。

 ─ 次に、中国との関係です。米中対立などもあり、経済安全保障という概念が出てくる中、中国とどう向き合うか。神経は使うけれども共存するというのが大方の経済人の合意だと思いますが、YKKはどんなスタンスで取り組みますか。

 大谷 当社は戦後、国内の製造業の中でも早いタイミングで海外進出に踏み出しましたが、中国に進出したのは比較的遅く、1992年に上海YKKジッパー社を設立し、95年に大連YKKジッパー社とYKK深セン社を設立しました。

 その時に、本当に中国の中で事業をして、中国のお客様は我々からファスナーを買ってくれるだろうかと考えたこともありましたが、実際はその時から変わらずに、中国はとても重要な拠点です。

 

地政学リスクの中中国とどう向き合う?

 ─ かつて、中国は「世界の工場」と言われた時期もありましたね。

 大谷 ええ。中国が世界の工場であった時も、ものすごく重要でした。

 今も確かに重要であることに違いはありませんが、欧米のバイヤーが分散化しようとしています。中国一辺倒から、チャイナプラスワンどころか、プラスツー、スリーを検討しているんです。

 確か2010年過ぎだったと記憶していますが、米国の衣料品輸入では全てのカテゴリーにおいて、中国が最大の輸出国でした。それが今は、ジーンズ、コットンパンツはバングラデシュ、ジャケットはベトナム等が中国に規模的に追従してきています。

 我々は、お客様が進出する動きに合わせて、我々もその国に進出するという考えでずっとやってきています。

 ─ 自らの置かれたポジションを冷静に見極めることが大事だと。

 大谷 ええ。我々が注視すべきは、縫製産業全体の動きと、そこに我々が進出することでお客様のご要望にマッチングするかどうかです。

 そうした検証を積み上げた結果がバングラデシュやインドへの進出であり、最近ではパキスタンです。また、98年にYKKベトナム社を設立しましたが、今のベトナムの隆盛、成長には目を見張るものがあります。

 常に我々は市場の要望をしっかりと見ながら、それに合わせて対応していくことが必要となります。世界のサプライチェーンのバランスを今後も見極めていきます。

 さらにはサステナビリティ志向がますます広がっていくと、必要なものを必要な時に提供することが重要な状況になりますから、そうなると例えば欧州の市場であればトルコや北アフリカ、米国であれば中米といった、消費地と近い場所で生産しようという動きになるかもしれません。

 ─ あくまでも市場の動き、顧客の動きに対応して動いていくということですね。

 大谷 はい。そうした動きを察知し、我々はお客様の動きに合わせていきます。中国だからどうかということではなく、お客様がどう動いていくかに合わせるのが、我々の使命であり、役割だと思っています。