【次世代太陽電池の本命】積水化学が開発する「ペロブスカイト太陽電池」の将来性

日本発の技術、素材で実現できる太陽電池の登場─。積水化学工業が開発する「ペロブスカイト太陽電池」が、2025年に世界で初めて、JR西日本の駅に設置されることになった。この電池は従来の太陽電池に比べて軽く、薄く、柔らかいために様々な場所に設置が可能。さらに、国産材料だけで製造できるため、経済安全保障上も大きい。開発における課題は─。

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2025年に世界で初めて駅への設置が決まる

 シリコン太陽電池で中国に敗れたと思われた日本の存在が高まる可能性が出てきた─。

「『ペロブスカイト太陽電池』は2025年の製品化ということで実装段階に入ってきた」と話すのは積水化学工業R&Dセンター先進技術研究所次世代技術開発センター長の森田健晴氏。

「ペロブスカイト太陽電池」とは、「灰チタン石」と同じ結晶構造を持つ化学合成材料でできた太陽電池。その特徴は軽く、薄く、柔らかいシート状の形状にできることから、既存のシリコン太陽電池では設置できなかった場所に設置できること。

 また、後述する様々な課題をクリアできれば、シリコン太陽電池よりも安価に、省エネルギーで生産が可能になる他、例えば「レアメタル」を必要としないなど、自国内にある材料で海外に依存せずに生産でき、経済安全保障上もメリットが大きい。

 元々は、2009年に桐蔭横浜大学特任教授の宮坂力氏が元になる論文を発表したことで、英国や日本で研究が進んだ。

 積水化学を始めとする各社の研究で、近年発電効率が飛躍的に向上し、前述の特徴もあって「次世代太陽電池の本命」と期待されている。

 22年8月3日にはJR西日本が、25年の開業を目指す「うめきた(大阪)地下駅」に、積水化学のペロブスカイト太陽電池の設置を発表。JR西日本の調べでは、これが世界初の事例となる。

 JR西日本関係者は「軽くてフレキシブルという特徴がある太陽電池で、設置場所の拡大が期待される。性能を検証していきたい」と話す。

「この太陽電池を実装されたお客様は、まだいない。我々はお客様と一緒になって課題に取り組み、製品として仕上げていく」(森田氏)

 課題解決のハードルはまだ高い。現在、積水化学はペロブスカイト太陽電池を「ロール・ツー・ロール方式」という印刷加工のような形で製造しているが、実装に耐える耐久性は30センチ幅でしか実現していない。「30センチで製造技術を確立し、並行して1メートル幅にするための開発を進める」と森田氏。

 また、現状のペロブスカイト太陽電池は非常に湿度に弱い。通常の空気中で製造すると、出来上がった時には劣化してしまっているというほど。積水化学では屋外に設置する試験も行って、10年相当の耐久性は確認しているが、さらなる向上は必須。

 耐久性や製造時の歩留まり向上は理想とされる発電コスト実現に大きくかかわる。当面はキロワットアワーあたり20円を目標とし、その後はシリコン太陽電池並みの14円の実現を目指す。

 前述のようにペロブスカイト太陽電池は日本の研究者が論文を発表した「日本発」の技術でできている。それまで太陽電池で実績のなかった積水化学がこの開発に取り組むきっかけは何だったのか。

「宮坂先生の論文、その後オックスフォード大学の研究から出てきた変換効率の数字を見て驚いた」と森田氏は振り返る。

 だが、試作したところ、全く耐久性がなかった。当時、積水化学は別の方式の超軽量太陽電池の可能性を探っており、その素材は耐久性は高いものの変換効率が低いという課題があった。

 変換効率か、耐久性か─。二者択一を迫られた時に封止技術、フィルム技術など、これまで積水化学が蓄積してきた技術を結集すれば、耐久性はクリアできると判断してペロブスカイト太陽電池の開発を決めた。

 だが、太陽電池の経験が少ないだけに、開発には苦しんだ。この世界は中国や韓国など海外勢との戦いになるだけに、そのための開発設備も必要になるが、まだ世の中にない”10年後の技術”のために投資するという決断は、経営陣にとっても簡単ではなかったからだ。

 それでも苦心しながら環境を整え、耐久性にこだわった開発を進めたところ、15年にはNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに参画することができた。

 当初は政府の太陽光発電普及に向けた補助金が終わるタイミングを目指して開発を進めていたが間に合わず。だがその後、2050年の「脱炭素」という追い風が吹いた。

 国内では他に東芝やアイシン、パナソニックホールディングスなども、この太陽電池の開発を手掛ける。「技術的にはライバルだが、次世代太陽電池市場は2050年に5兆円とも言われる。日本の市場を取り合うのではなく、日本企業で世界市場を押さえていきたい」と森田氏。

 海外のライバルは英国のオックスフォード大学発ベンチャー、エイチ・アイ・エスも出資するポーランド企業、中国勢。中国企業のペロブスカイト太陽電池関連特許は中国国内でしか出されていないだけに詳細は不明だが、国と一体になった投資でシリコン太陽電池では世界を席巻しただけに不気味な存在。

 ただ、設備がものをいったシリコン太陽電池に比べ、ペロブスカイト太陽電池は材料技術がカギを握るだけに、その技術を国内で守っていけるかも重要。

「〝地産地消〟のエネルギーとなる可能性がある太陽電池。ユーザーの皆様、社会全体で利用シーンを考えていけたら広がる可能性がある」(森田氏)

 近年、積水化学はゴミからバイオエタノールを製造、二酸化炭素を一酸化炭素に変えて有効利用するといった形で「環境」が事業の中心軸になっている。

 また、国や自治体とのさらなる連携の他、社内の住宅カンパニーなど他の事業部門との連携も深めていく。

 日本にとっても、国産技術、国産材料で実現できる製品として、世界標準となることができるかが問われる。