【日本製鉄・JFE・神戸製鋼】日本の「水素製鉄」は最先端を行くか?鉄鋼大手3社が「呉越同舟」で開発

「脱炭素」の流れの中で、世界で新たな鉄法の技術開発競争が始まっている。最大のポイントは「水素」をいかに活用するか。CO2を発生しない水素だけに、活用できれば脱炭素に近づくが、製鉄に必要な「熱」が足りなくなるため、そこをどう克服するかが技術開発のカギを握る。欧州では小規模ながら、水素製鉄による製品の出荷が始まる中、日本勢はどう対抗していくのか。

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鉄鋼業のCO2排出は国全体の15%

 製鉄業界は、本当にCO2を減らすことができるのか─。

 2050年のカーボンニュートラル(脱炭素)は国家的課題だが、その中で鉄鋼に課せられた課題は重い。環境省のデータによると、日本のCO2排出約10億3000万トン(19年度)のうち、産業分野が占める割合は37%で、鉄鋼はその15%(1億5000万トン)を占め、最も多いからだ。

 すでに業界として2030年に13年度比30%のCO2削減と、2050年の脱炭素という目標を打ち出しているが、達成に向けては、従来とは大きく違う製鉄法の確立が不可欠。

 現在、最も有力な切り札とされているのは「水素」の活用だが、これに向けて、本来であればライバルの鉄鋼メーカーが手を組むことになった。

 日本製鉄、JFEスチール、神戸製鋼所という高炉3社と金属系材料研究開発センターがコンソーシアムを結成し、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募による基金事業に採択され、取り組みを推進している。

「CO2削減に向けた1つのチャレンジは水素による還元」と話すのは、日本製鉄フェロー先端技術研究所長の野村誠治氏。

 製鉄プロセスでは、原料である鉄鉱石の主要成分・酸化鉄から酸素を取り除く、つまり「還元する」ことで鉄をつくる。この還元に必要なのが炭素で、これには石炭由来のコークスが使われる。

 鉄鉱石を焼き固めた焼結鋼とコークスを高炉に入れるが、還元で除去された酸素は炭素と結びついてCO2となる。実は、前述の鉄鋼業界が排出するCO2のうち約8割が、この還元の段階で発生しているのだ。「鉄鋼のカーボンニュートラル実現には、鉄鉱石還元プロセスのCO2削減が重要」(野村氏)

 1つの方策が、還元剤として炭素(コークス)ではなく水素を活用すること。だが、ここで大きなハードルとなるのが、炭素による還元が「発熱反応」なのに対し、水素による還元が「吸熱反応」となってしまうこと。

 従来は還元時に発熱することで鉄鉱石を溶融していたが、水素では温度が下がり難しい。ここで加熱した水素を大量に吹き込むという必要があるが、爆発のリスクも出てくる。その安全確保のための新たな技術開発が必要となる。

 この高いハードルを超えるには、1社では時間も資金もかかるということで、高炉3社で人、技術、知恵を持ち寄り、役割分担をすることで、開発スピードを速めようという狙いがある。さらに前述のように、国による補助制度「グリーンイノベーション基金」(2030年度までに総計1935億円の支援)も活用。

 技術開発には段階がある。まずは、高炉法の還元剤にコークスだけでなく水素を活用してCO2を減らすと同時に、その発生したCO2にはCCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)の技術を活用する。CO2削減とCCUSを最大限に活用することで、50%以上削減できる可能性がある。この新たな高炉法は日本製鉄が東日本製鉄所君津地区で実験中。

 他にも、JFEスチールは高炉から出たCO2をメタンに変換して、それを還元剤として再利用するという「カーボンリサイクル高炉」の開発を進めている。こちらも、CO2排出を50%以上削減する技術を実証。

 それ以外にも、水素だけを使って低品位の鉄鉱石を還元する「直接水素還元技術」を使って、大型電炉で製造するという開発も進む。これは電炉で使うスクラップに含まれる不純物を除去する技術を同時開発しなければならないが、CO2削減に向けた有力技術とされている。

 だが、こうした技術の実現には前述の「CCUS」技術の確立や、「安い電力」の確保など外部の力も不可欠。「鉄鋼業だけでは難しい。サプライチェーンとも連携する必要がある」(JFEスチール技術企画部長の渡辺隆志氏)

 この取り組みの背景には、世界の鉄鋼メーカーとの競争もある。まず、カーボンニュートラルに電炉が有効と見て、アルセロール・ミタルや、中国の河鋼集団などといった海外の大手が電炉の技術開発と同時に、鉄スクラップの確保に躍起になっている。原料の奪い合いが始まっているのだ。

 さらに、スウェーデンの鉄鋼メーカー・SSABが水素還元製鉄の技術を確立したと発表。21年には同国の自動車メーカー・ボルボ向けに出荷したとしている。

 日本勢はまだ実証炉止まりで、実機がないという点で出遅れたように見えるが、「まさに競争している最中。我々の技術は十分に戦える」(日本製鉄の野村氏)として、この高炉3社の取り組みで巻き返しを図る考え。

「海外との競争にはスピード感が求められる。加速するためにもオールジャパンでやることに意味がある」(JFEスチールの渡辺氏)

 時に大掛かりな国の支援も受けながら技術開発や原料確保に動く諸外国に技術で対抗するには、国内大手の「呉越同舟」とも言える取り組みを成功させるしかないが、残された時間は決して多くない。